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【第三章】ディオラス
【第十話】母親 ③
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「まぁ、とりあえず……ティアルの話が何だったかは知らねぇが、奴の言ったことは忘れて逃げろ。ミッドカオス方面の森はすぐに察知されるから、『ディオドラス鉱山』を越えてドラルスに行け。俺はその間にティアルに奇襲を仕掛けて、運良く逃げられたらミッドカオス側の森を抜けてドラルスに向かう。そこで落ち合おう」
「ま、待って!!だから!!少しは私の話を……ッ!!」
「聞きたくねぇって言ってんだろ!!」
スパイルはテーブルに置かれた皿を勢いよく払いのけた。
オムライスの乗った皿は床に叩きつけられ、場がシィンと静まる。
「アイツとやり合うことになっちまった時点で!!俺はもうここで大人しく過ごすことなんて出来ねぇんだ!!勝とうが負けようが、アイツはしつこく俺を殺しにやって来る!!いつまでも……ッ!!いつまでもだ!!だから、アイツはここで殺すしかない!!殺すしかないんだ……ッ!!」
そういうスパイルの顔は、ひどく追い詰められて、悲壮感が漂い過ぎていた。
進むも地獄、戻るも地獄なら、進むしかない。
そして、
進んだ先に向こうが追ってこられないように、殺しておくしかないのだ。
しかし、
ティアルを相手にマトモなランキング戦をして殺せるはずもない。
となれば、
選択肢はもう、一つしかなかった。
「お袋は今すぐこの金持って逃げろ。もう一度言うが、ディオドラス鉱山を越えてドラルスに向かうんだ。奴は俺が引きつけておく。運が良ければ……ドラルスで会おう」
「スパイル……」
母親はそうして黙ってしまった。
今のスパイルはまるで冷静じゃない。
ティアルへの恐怖で、情緒不安定になってしまっている。
母親はグッと目を瞑ると、スパイルをギュッと抱きしめた。
「ッ!?お袋!?」
母親の予想外の行動に、スパイルは思わず声を上げる。
スパイルを抱きしめる母親の体は細くて小さくて、体中が震えていた。
「ごめんね……。ごめんね……!!私が、私がもっと強かったら……ッ!!こんなことにはならなかったのに……ッ!!」
「お、おい……。何だ、いきなり……。別に、ティアルのことは……」
「ティアル・サーライトのことについて、アナタには話しておくことがあるわ」
「お袋……」
ずっと意地を張って聞く耳を持たなかったスパイルも、ここでようやく冷静さを取り戻した。
まだ不安定ではあるものの、母親がただの保身で言っているわけではないことくらいは分かった。
スパイルは頷く。
「何だ……話って……」
母親はそこでスパイルの体から手を離した。
そして、
改めて対面した上で、スパイルの目を見つめる。
空気が殺伐として、重苦しかった。
スパイルが母親に対してこんな風に思ったのは初めてのことだ。
スパイルはゴクリと生唾を呑み込む。
母親はスゥッと息を吸い込むと、話し始めた。
「スパイル……貴方とティアルはね……
『異母兄弟』なの」
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「ま、待って!!だから!!少しは私の話を……ッ!!」
「聞きたくねぇって言ってんだろ!!」
スパイルはテーブルに置かれた皿を勢いよく払いのけた。
オムライスの乗った皿は床に叩きつけられ、場がシィンと静まる。
「アイツとやり合うことになっちまった時点で!!俺はもうここで大人しく過ごすことなんて出来ねぇんだ!!勝とうが負けようが、アイツはしつこく俺を殺しにやって来る!!いつまでも……ッ!!いつまでもだ!!だから、アイツはここで殺すしかない!!殺すしかないんだ……ッ!!」
そういうスパイルの顔は、ひどく追い詰められて、悲壮感が漂い過ぎていた。
進むも地獄、戻るも地獄なら、進むしかない。
そして、
進んだ先に向こうが追ってこられないように、殺しておくしかないのだ。
しかし、
ティアルを相手にマトモなランキング戦をして殺せるはずもない。
となれば、
選択肢はもう、一つしかなかった。
「お袋は今すぐこの金持って逃げろ。もう一度言うが、ディオドラス鉱山を越えてドラルスに向かうんだ。奴は俺が引きつけておく。運が良ければ……ドラルスで会おう」
「スパイル……」
母親はそうして黙ってしまった。
今のスパイルはまるで冷静じゃない。
ティアルへの恐怖で、情緒不安定になってしまっている。
母親はグッと目を瞑ると、スパイルをギュッと抱きしめた。
「ッ!?お袋!?」
母親の予想外の行動に、スパイルは思わず声を上げる。
スパイルを抱きしめる母親の体は細くて小さくて、体中が震えていた。
「ごめんね……。ごめんね……!!私が、私がもっと強かったら……ッ!!こんなことにはならなかったのに……ッ!!」
「お、おい……。何だ、いきなり……。別に、ティアルのことは……」
「ティアル・サーライトのことについて、アナタには話しておくことがあるわ」
「お袋……」
ずっと意地を張って聞く耳を持たなかったスパイルも、ここでようやく冷静さを取り戻した。
まだ不安定ではあるものの、母親がただの保身で言っているわけではないことくらいは分かった。
スパイルは頷く。
「何だ……話って……」
母親はそこでスパイルの体から手を離した。
そして、
改めて対面した上で、スパイルの目を見つめる。
空気が殺伐として、重苦しかった。
スパイルが母親に対してこんな風に思ったのは初めてのことだ。
スパイルはゴクリと生唾を呑み込む。
母親はスゥッと息を吸い込むと、話し始めた。
「スパイル……貴方とティアルはね……
『異母兄弟』なの」
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