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【第三章】ディオラス

【第九話】スパイルの過去 12

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「今日の夜、部下をそっちに送る。詳しい場所や時間はそいつに聞け。言っておくが、間違っても逃げられるとは思うなよ?俺様はどこまでも追いかけるぞ。どこまでもどこまでも、追って追って追って、ずっとずっとずっと追い掛け続けるぞ。まぁ?せいぜい死なねぇようお得意の策でも巡らせるんだなァ?カァーッカッカッカッカッカッ!!」


最後だけはいつもの感じに戻って、ティアルは笑顔でそう言った。

スパイルは厳しい表情を浮かべつつ、無言で頷く。

ティアルの機嫌は治った?ようだが、殺意はそのままだ。

冷たい殺気はまだ止んでない。

いざとなった時、ティアルは実行に移すだろう。

何が何でも、そうするだろう。

ティアルはこのディオラスで唯一。

本当に唯一。

謀略を無しに全てを力だけで捩じ伏せてきた男なのだ。

敵の謀略など意に介さず、多対一は自ら望んで、常に力だけでやってきた男だ。

力と才能の化身ーー。

人質なんて全く意味をなさないだろう。

ティアルはそもそも、屋敷にセキュリティ上の罠や警備など行っていないし、母親は既に死んでいて、父親はディオラス王だ。

人質にする相手がいない上に、ティアルはむしろ誰も来てくれないことに不満を持っているくらいだ。

だから、

これほど謀略が盛んなディオラスでも、ティアルに手を出す愚か者なんていない。

ティアルはそれが不満で、毎日誰かに喧嘩を売っているのだ。

いつか誰か来るものと願って、ティアルはしっちゃかめっちゃか、少しでも可能性のある誰かに挑戦状を叩きつけ続けている。

スパイルは、それを全て知った上で、首を縦に振った。

もう後には引けない。

今まで効率と結果ばかりを気にしてきたスパイルだが、予想しない形で、年貢の納め時はきたということだ。


「やってやるよ。ディオラスNo.2の首、今日こそ討ち取ってやる。俺が頭だけじゃないってこと、しっかり思い知らせてやるよ」

「その意気だァ。期待を裏切ってくれるなよ?楽しみにしてるぜ?カァーッカカカカカカカカカカァァアアアア!!」


そう言って、ティアルは廊下を反対方向に向けて歩いていった。

スパイルはその背を複雑な思いで睨み付ける。

予定より大幅に早くなってしまったが、匙は投げられた。

後はやるだけ。

スパイルもまた踵を返すと、『今夜』の決戦に向け、廊下を歩いていった。
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