237 / 267
【第七章】シベリザード連合国
【第五十一話】侵攻 ④
しおりを挟む
「お、おいおいおいおい…………。こりゃあ一体どういう状況だぁ…………?」
このシベリザード連合国の外周区────。
ひしめくアウトローたちのボスを務める『ドリオー・アトラス』は、思わず息を呑むほどに戦慄していた。
たった今のことだ。
目の前には一人の男が、自分の部下を足蹴にしながら堂々と佇んでいる。
「お、ぉひゃひらぁ~~。ひゃ、ひゃふへてふれぇ~~」
足蹴にされている自分の部下は、そう言って涙目で訴えかけてきた。
…………酷く無惨な顔だ。
骨は間違いなく折れているだろうし、顔中が腫れ上がって血が流れ続けている。
歯もバキバキに折られているのだろう。
さっきから言葉が上手く話せておらず、聞き取り辛い。
「お前がコイツらのボスか…………?探したぞ。色々と教えてもらいたいことがあったもんでなァ…………。急いでいるあまり、少々手荒い真似をしちまった。悪いと思ってるよ」
部下の連れてきた男は、まるで悪びれた様子もなさそうな様子で、あっけらかんとそう言ってきた。
…………知っている顔だ。
今や世界中で知られていると言っても過言ではないに違いない。
『カザル・ロアフィールド』────。
言わずと知れた大犯罪者だ。
罪状が何だったかは覚えていない。
あまりにも多すぎて、途中で手配書を読むのがバカらしくなったからだ。
とにかく分かっていることは、この男が帝国で山のように人を殺してきていること────。
それも…………
聞く限りでは相当イカれた手法ばかりで惨殺したのだと聞いている。
(…………マズいな)
ドリオーは頬から冷や汗を一筋流しつつ、気合いを振り絞って何とか平常心を保った。
ドリオー自身もかなりの極悪人だ。
強盗に人攫いに人身売買や麻薬など────。
悪いことは大概やってきたと自負している。
誰かに追われることも日常茶飯事で、憲兵隊も兵士も貴族でさえも、ドリオーに恐れるものは何もなかった。
懸賞金だってかけられているが、それも自身の箔の一つだと思っているくらいだ。
この悪人ばかりの街で部下をまとめるには、むしろそれくらいの方がちょうど良いと思っている。
歯向かってくる奴がいれば、そのまとめた部下たちで一気にすり潰してやれば良いのだ。
数は力────。
この悪人ばかりが集うシベリザード連合国では、その有無を言わさぬ暴力こそがものを言う。
そんなドリオーが恐れるものがあるとすれば、そう…………
自分よりずっと強大な────。
よりイカれた、"巨悪"だけだ。
「な、何が聞きたいってんだ…………」
ドリオーは震えそうになる身体を抑えながら、思わずガタガタと音を立てそうになる歯を抑えて尋ねかける。
さっきから、この男を目の前にしていると寒くて寒くて凍えてしまいそうだった。
ドリオー自身も散々人を殺してきたが故に、分かるのだ。
この男は殺人に対して何も感じていないし、これまでもとんでもない数を殺してきている。
部下もどういう状況でこんなことになったかは知らないが、まったくをもって余計なことをしてくれたものだ。
下手をすれば、ドリオー自身も部下ごと殺されかねない。
「そう警戒しないでくれよ。この辺の地理や事情を知りたいのと、ちょっとした人探しをしているだけだ。この男に聞いても良かったんだが、どうにも滑舌が悪くて聞き取り辛くてなァ…………。それに、どうせ聞くなら他にも色々と知っている奴の方が良いだろう…………?」
部下の滑舌を悪くした元凶であろうその男は、相変わらず狂ったように"普通"の顔でそう言ってきた。
ドリオーは思わず目線だけで周りを見回す。
ここはドリオーのホームである『北街区』であり、部下もそのほとんどがここに集まっているのだ。
それに対し、相手は見たところ一人────。
武装は腰にかけられた刀が一本────。
ドリオーはなるべく冷静を心がけながら、回答に口を開く。
「この辺の地理や事情に、人探し…………ね。そういうのは憲兵隊の仕事だぜ?わざわざ俺たちに聞く必要があるとは思えねぇが…………」
ドリオーは焦っていた。
本当ならすぐにでも頭を下げてしまいたい所だが、ここがホームであるが故に、部下たちの前でそれは憚られるのだ。
少しでも対応を誤ると、ドリオーがこれまで築き上げてきたモノが一瞬で崩れ落ちてしまいかねない。
「おいおい、その様子からして、俺が誰だかは知ってんだろ?憲兵隊になんざ行けねえさ。それに…………お前は少しばかり、勘違いしているようだ」
「勘違い…………?」
恭司は頷いた。
温和に接するのはここまでだ。
時間も迫っていることだし、事はさっさと済ませておきたい。
「俺はお願いをしにきたんじゃねぇ。"命令"しているんだ。歯向かうなら部下ごと魔族どもの餌にしてやるぞ」
「…………ッ!!!!」
ゾワァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッと────。
怖気が寒気が震えが恐怖が一気に襲いかかってきた。
本気の殺意だ。
この男は憲兵隊や兵士とは違う。
油断も隙も無ければ、情も躊躇いも何もない。
少しでも反抗すれば容赦なく命を刈り取ってくるだろう。
戦って勝てるとも思えない。
部下もこんなのと戦おうとは思わないはずだ。
ドリオーは頷く。
「分かった。俺が間違ってたよ。憲兵隊になんて行く必要はない。何でも聞いてくれ」
ドリオーは全面的に降伏の意を示した。
部下たちが今の自分をどう思うかは知らないが、もうそんなものは後だ。
とにかくこの場で生き残る方が大事に決まっている。
恭司はそんなドリオーの言葉を聞いて、ニッコリと笑顔を作った。
「そう言ってくれると思ったよ。話の分かる奴は大好きだ」
恭司はそう言って放出した殺意を引っ込める。
曲がりなりにも恭司の威圧に耐えた辺り、ドリオーはそれなりに骨のある男のようだ。
ヒューマン側の協力者として、今後も生かしておいても良いかもしれない。
このシベリザード連合国の外周区────。
ひしめくアウトローたちのボスを務める『ドリオー・アトラス』は、思わず息を呑むほどに戦慄していた。
たった今のことだ。
目の前には一人の男が、自分の部下を足蹴にしながら堂々と佇んでいる。
「お、ぉひゃひらぁ~~。ひゃ、ひゃふへてふれぇ~~」
足蹴にされている自分の部下は、そう言って涙目で訴えかけてきた。
…………酷く無惨な顔だ。
骨は間違いなく折れているだろうし、顔中が腫れ上がって血が流れ続けている。
歯もバキバキに折られているのだろう。
さっきから言葉が上手く話せておらず、聞き取り辛い。
「お前がコイツらのボスか…………?探したぞ。色々と教えてもらいたいことがあったもんでなァ…………。急いでいるあまり、少々手荒い真似をしちまった。悪いと思ってるよ」
部下の連れてきた男は、まるで悪びれた様子もなさそうな様子で、あっけらかんとそう言ってきた。
…………知っている顔だ。
今や世界中で知られていると言っても過言ではないに違いない。
『カザル・ロアフィールド』────。
言わずと知れた大犯罪者だ。
罪状が何だったかは覚えていない。
あまりにも多すぎて、途中で手配書を読むのがバカらしくなったからだ。
とにかく分かっていることは、この男が帝国で山のように人を殺してきていること────。
それも…………
聞く限りでは相当イカれた手法ばかりで惨殺したのだと聞いている。
(…………マズいな)
ドリオーは頬から冷や汗を一筋流しつつ、気合いを振り絞って何とか平常心を保った。
ドリオー自身もかなりの極悪人だ。
強盗に人攫いに人身売買や麻薬など────。
悪いことは大概やってきたと自負している。
誰かに追われることも日常茶飯事で、憲兵隊も兵士も貴族でさえも、ドリオーに恐れるものは何もなかった。
懸賞金だってかけられているが、それも自身の箔の一つだと思っているくらいだ。
この悪人ばかりの街で部下をまとめるには、むしろそれくらいの方がちょうど良いと思っている。
歯向かってくる奴がいれば、そのまとめた部下たちで一気にすり潰してやれば良いのだ。
数は力────。
この悪人ばかりが集うシベリザード連合国では、その有無を言わさぬ暴力こそがものを言う。
そんなドリオーが恐れるものがあるとすれば、そう…………
自分よりずっと強大な────。
よりイカれた、"巨悪"だけだ。
「な、何が聞きたいってんだ…………」
ドリオーは震えそうになる身体を抑えながら、思わずガタガタと音を立てそうになる歯を抑えて尋ねかける。
さっきから、この男を目の前にしていると寒くて寒くて凍えてしまいそうだった。
ドリオー自身も散々人を殺してきたが故に、分かるのだ。
この男は殺人に対して何も感じていないし、これまでもとんでもない数を殺してきている。
部下もどういう状況でこんなことになったかは知らないが、まったくをもって余計なことをしてくれたものだ。
下手をすれば、ドリオー自身も部下ごと殺されかねない。
「そう警戒しないでくれよ。この辺の地理や事情を知りたいのと、ちょっとした人探しをしているだけだ。この男に聞いても良かったんだが、どうにも滑舌が悪くて聞き取り辛くてなァ…………。それに、どうせ聞くなら他にも色々と知っている奴の方が良いだろう…………?」
部下の滑舌を悪くした元凶であろうその男は、相変わらず狂ったように"普通"の顔でそう言ってきた。
ドリオーは思わず目線だけで周りを見回す。
ここはドリオーのホームである『北街区』であり、部下もそのほとんどがここに集まっているのだ。
それに対し、相手は見たところ一人────。
武装は腰にかけられた刀が一本────。
ドリオーはなるべく冷静を心がけながら、回答に口を開く。
「この辺の地理や事情に、人探し…………ね。そういうのは憲兵隊の仕事だぜ?わざわざ俺たちに聞く必要があるとは思えねぇが…………」
ドリオーは焦っていた。
本当ならすぐにでも頭を下げてしまいたい所だが、ここがホームであるが故に、部下たちの前でそれは憚られるのだ。
少しでも対応を誤ると、ドリオーがこれまで築き上げてきたモノが一瞬で崩れ落ちてしまいかねない。
「おいおい、その様子からして、俺が誰だかは知ってんだろ?憲兵隊になんざ行けねえさ。それに…………お前は少しばかり、勘違いしているようだ」
「勘違い…………?」
恭司は頷いた。
温和に接するのはここまでだ。
時間も迫っていることだし、事はさっさと済ませておきたい。
「俺はお願いをしにきたんじゃねぇ。"命令"しているんだ。歯向かうなら部下ごと魔族どもの餌にしてやるぞ」
「…………ッ!!!!」
ゾワァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッと────。
怖気が寒気が震えが恐怖が一気に襲いかかってきた。
本気の殺意だ。
この男は憲兵隊や兵士とは違う。
油断も隙も無ければ、情も躊躇いも何もない。
少しでも反抗すれば容赦なく命を刈り取ってくるだろう。
戦って勝てるとも思えない。
部下もこんなのと戦おうとは思わないはずだ。
ドリオーは頷く。
「分かった。俺が間違ってたよ。憲兵隊になんて行く必要はない。何でも聞いてくれ」
ドリオーは全面的に降伏の意を示した。
部下たちが今の自分をどう思うかは知らないが、もうそんなものは後だ。
とにかくこの場で生き残る方が大事に決まっている。
恭司はそんなドリオーの言葉を聞いて、ニッコリと笑顔を作った。
「そう言ってくれると思ったよ。話の分かる奴は大好きだ」
恭司はそう言って放出した殺意を引っ込める。
曲がりなりにも恭司の威圧に耐えた辺り、ドリオーはそれなりに骨のある男のようだ。
ヒューマン側の協力者として、今後も生かしておいても良いかもしれない。
0
お気に入りに追加
108
あなたにおすすめの小説
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
追憶の刃ーーかつて時空を飛ばされた殺人鬼は、記憶を失くし、200年後の世界で学生として生きるーー
ノリオ
ファンタジー
今から約200年前。
ある一人の男が、この世界に存在する数多の人間を片っ端から大虐殺するという大事件が起こった。
犠牲となった人数は千にも万にも及び、その規模たるや史上最大・空前絶後であることは、誰の目にも明らかだった。
世界中の強者が権力者が、彼を殺そうと一心奮起し、それは壮絶な戦いを生んだ。
彼自身だけでなく国同士の戦争にまで発展したそれは、世界中を死体で埋め尽くすほどの大惨事を引き起こし、血と恐怖に塗れたその惨状は、正に地獄と呼ぶにふさわしい有様だった。
世界は瀕死だったーー。
世界は終わりかけていたーー。
世界は彼を憎んだーー。
まるで『鬼』のように残虐で、
まるで『神』のように強くて、
まるで『鬼神』のような彼に、
人々は恐れることしか出来なかった。
抗わず、悲しんで、諦めて、絶望していた。
世界はもう終わりだと、誰もが思った。
ーー英雄は、そんな時に現れた。
勇気ある5人の戦士は彼と戦い、致命傷を負いながらも、時空間魔法で彼をこの時代から追放することに成功した。
彼は強い憎しみと未練を残したまま、英雄たちの手によって別の次元へと強制送還され、新たな1日を送り始める。
しかしーー送られた先で、彼には記憶がなかった。 彼は一人の女の子に拾われ、自らの復讐心を忘れたまま、政府の管理する学校へと通うことになる。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
【完結】彼女以外、みんな思い出す。
❄️冬は つとめて
ファンタジー
R15をつける事にしました。
幼い頃からの婚約者、この国の第二王子に婚約破棄を告げられ。あらぬ冤罪を突きつけられたリフィル。この場所に誰も助けてくれるものはいない。
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる