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【第七章】シベリザード連合国

【第五十話】トンカー ④

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「…………任務の妨害をする気か?『シャーキッド・ロンロン』」


そう、

『シャーキッド・ロンロン』────。

不思議なことにさっきまで気付かなかったが、いつの間にか『鋼鉄の悪魔』がそこにいた。

あのカザルとの戦いで一度戦場から"離脱"したシャーキッドだったが、どうやら再びトバルのもとへ戻ってきていたようだ。

存在に気付かなかったのも、おそらくはシャーキッドの固有技能に違いない。

『世界一の暗殺者』の名は伊達じゃないということだ。

見ているだけでも寒気がしてくる。


「カッカッカッカッ!!いやぁ別にそういうわけじゃねぇさッ!!一度手元から離れた俺様を、トバルの旦那はこうして再び迎え入れてくれたんだッ!!そんな旦那の期待を裏切れるわけねぇだろうッ!?」


シャーキッドはそう言ってまた一人、「カカッ!!カカッ!!」と笑った。

相変わらず耳を塞ぎたくなるほどの不協和音だ。

本人が言うような人柄では絶対に有り得ないだろうこの男は、今はとりあえずトンカーのことを庇ってくれているらしい。

両目の眼帯も含めて不気味極まりない男だが、その実力だけは間違いなく本物だ。

カザルが出現するまでは、この世界で最多の人殺し記録を持っていた男────。

大して絡んだこともないが、兎にも角にもイカれていることだけは、確実に断言できる。


「…………その言葉の真偽はともかく、何が面白そうなんだ?ただの浮浪者だろう?」

「いや、ソイツの顔にはどうにも見覚えがあってなァ…………。多分、あの時カザルと一緒に屋敷に忍び込んでいた奴だぜ?」

「何…………ッ!?」


最後に反応したのはトバルだった。

あの最悪の事件を起こした犯人の一人だと聞いて黙っていられなくなったようだ。

トバルはワナワナと肩を震わせながら、怒り真っ心頭にトンカーへ向けて大股でズカズカと歩み寄っていく。


「貴様ァ…………ッ!!カザルとグルだったのかッ!!スバルはどこだッ!?今どこにいるッ!?」


トバルはトンカーの胸倉を掴み、勢いよく怒鳴った。

凄まじい剣幕だ。

スバルのその後については、どうやらまだ知らないらしい。

屋敷ではとっくの昔に彼の全身バラバラ死体が発見されているだろうが、国から離れたせいでまだ伝わっていないのだろう。

自分で見捨てて逃げておきながら、もしかしたらまだ生きている可能性を否定しきれないでいるのだ。


「ひ…………ッ!!」


トンカーはその勢いに、思わず悲鳴を漏らす。

スバルのその後については、トンカーも同様に知らない話だった。

その直前に逃げ出したからだ。

とはいえ、その予想は容易くできる。

あの状態のカザルがスバルの部屋を目前にして、何もしていないはずなんてないからだ。

あれだけ怨みを募らせていたのだから、よっぽど酷い殺され方をされていたとしてもまるでおかしくはない。

しかし、


「し、知りませんッ!!知らないんです、本当ですッ!!私はただあの男に無理矢理連れてこられただけでッ!!その後逸れてからは何も関わっていないんですッ!!」


トンカーはただひたすら否定を繰り返した。

ここで本当のことなんて言えば最悪だ。

トバルの怒りの捌け口にされかねない。


「まぁまぁまぁまぁ、落ち着けよ旦那。そんな調子じゃあ喋れるものも喋れねぇぜ…………?旦那だって、あの時のカザルが何してたのか知りてえだろう?」


そして、

そこでまたしてもシャーキッドが口を出した。

大して絡んだこともないが故か、本当に何を考えているのかサッパリ分からない。

トバルともどういう経緯で一緒にいることになったのかはまるで分からないが、今だけはトンカーの味方でいると考えて良さそうだ。

 

「チ…………ッ!!!!」


トバルはそんな中、わざとらしく大きな舌打ちを吐き出し、トンカーを乱暴に後ろへ放り出す。

とりあえず一命は取り留めたようだ。

簡単に言うと『情報源』として生かされたということだろう。

トバルもランドルフもまるで気を許しているはずもないが、シャーキッドだけは楽しそうな顔で、トンカーの肩に手を回す。


「カカッ!!良かったなぁ、殺されなくて。お前らのしたことを考えれば即処刑でもおかしくなかったんだぜ…………?トバルの旦那の温情に感謝しなきゃなァ…………?」


シャーキッドはそう言ってまた一人「カカッ!!カカッ!!」と笑った。

生きながらえたとは言っても、幸せかどうかは別の話だ。

場合によっては、死んだ方がマシな目に遭わされる可能性もある。


「それで…………?その男を今から尋問するのか?」


ランドルフはあからさまに不機嫌な様子で問いかけた。

すぐにでも襲いかかりそうなほどに殺意満々の顔だ。

情報源としては納得しても、やはり殺すことは諦めていないらしい。


「いや、今からだと"時間"がヤベェだろう?ちょうど門はすぐそこなんだ。いっそのこと"中"で聞いた方が効率良いんじゃねぇか?」


"中"とは、おそらく『中央区』のことだと思われた。

思っていた展開とは違うが、一応はトンカーの目的地だ。

トバルとランドルフは明らかにイライラした様子だが、確かに"時間"は迫っている。

中央区への入場には決められた時間帯があるのだ。

それを過ぎるともう入れなくなる。


「チッ!!!!なら、しっかりと見張っておけよッ!!逃がすことだけは絶対に許さんからなァッ!!」


トバルはそう言って、またしても怒りながら大股でズカズカと先を歩いていった。

ランドルフとシャーキッドもそれに続く。

トンカーだけは他の兵士たちに手錠で拘束され、完全に捕虜のような扱いだ。

まぁ、シャーキッドの言う通り、この状況で殺されていないだけマシではあるだろう。

運はもう尽きたとばかり思っていたが、まだ少しばかりは残っていたらしい。


(コレで俺も、『貴族街』に…………)


まだ何一つとして問題は解決していないが、トンカーは一旦その目的地に想いを馳せた。

夢にまで見た安息の地だ。

まぁ、情報を喋らされた後はどうなるか分からないが、ここで一人取り残されるよりはマシに違いない。

こうして────。

ただただ流されるままに、トンカーはトバルたちと行動を共にすることになった。

トバルがいれば、『入場料』についても解決だ。

トンカーはホッと息を吐く。

程なくしてこの地に"災厄"が降りかかることを、未だ知らないまま────。


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