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【第七章】シベリザード連合国
【第四十九話】準備 ⑥
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「フハハ…………。お前の言った通りだったな、ドライダス…………。良い成果じゃあないか…………」
恭司は完成品である"それ"を見ると、満足そうな笑顔を見せた。
作りは単純だが、ヒューマンでも昔は使っていたと言われる代物だ。
単細胞な魔族たちにはちょうどいい。
さっきの『下地』とこの『兵器』、加えて下位の魔族たちの活躍があれば、少しくらいは『軍』らしくなるだろう。
かなり荒削りで無理矢理すぎる仕上げだが、この短時間であることを考えれば上々の結果だ。
恭司は倒れている魔族たちには休息を命じ、ドワーフたちには引き続き"それ"の量産を命じると、ドライダスと共にニーニャとナターシャのもとへ向かうことにする。
これから打ち合わせに入るのだ。
彼ら『竜種』には将としての役割を担ってもらう予定であり、恭司の見えていない所は彼らに動かしてもらう必要がある。
だが…………
恭司がいざ動き出した、その時────。
「主人様…………ッ!!」
声が聞こえてきた。
ウルスだ。
その声は息も絶え絶えで、慌てて走ってきたのがよく分かる。
どう考えても、この行軍に関することだろう。
というのも、『シベリザード連合国』への出兵を決めて以来、恭司はウルスとは敢えて距離をとっていたのだ。
ニーニャたちや他の魔族にはしっかりと伝えているのに、わざわざウルスにだけは伝えていない。
もちろん、"わざと"だ。
ウルスは恭司の前で勢いよく膝を突つくと、そのまま深く頭を下げる。
「主人様…………。この度のご出兵について、私は話を聞かされておりませんでした…………。コレは一体、どういったことなのでしょうか?」
ウルスの言葉には焦りと"怒り"が多分に含まれていた。
この軍の行き先についても、おそらくは他から聞いたのだろう。
ウルスは恭司に自身が連合国の出身だと伝えているのだ。
にも関わらず何の相談もなかったことに、ウルスは戸惑いが隠しきれずにいる。
「…………おかしなことを言うものだな。俺が自分の軍を率いることに、いちいちお前の許可が必要なのか…………?」
「…………ッ!!!!」
ウルスは思わずハッとして口を閉じた。
恭司の声はひどく冷たく、いつもの恭司そのままの雰囲気を醸し出している。
さっきの魔族たちの"教育"とは違うのだ。
反意があるのならば、即座に斬り捨てる。
恭司は元々かなりの横着者であり、独裁者だ。
『恐怖政治』を常とするこの暴君には、そもそも部下に配慮することなどあり得ない。
自分のために意見やアドバイスを求めることはあっても、彼らのために動くことなどないのだ。
そもそもこの軍を発足した時点から"私用"である以上、その他のことなどほとんど興味がない。
「し、失礼致しました…………ッ!!で、ですがッ!!せめてこの行軍の目的くらいは教えていただけないでしょうか…………?連合国は私どもの故郷です。場合によっては、私どもの知恵や経験が役に立つかと存じます。ですのでどうかッ!!どうか…………ッ!!」
ウルスも必死な様子だった。
犯罪者ばかりの無法地帯とはいえ、やはりそれなりには愛着もあるようだ。
祖国にいられなくなった者たちが最終的に行き着く国だと聞いているが、生まれ故郷はそれなりに大事にしたいと見える。
恭司に攻め込まれれば、その国がどうなるかは火を見るよりも明らかなのだ。
今は獣人とヒューマンが盛大に争いを繰り広げているらしいが、そんなものは関係なく、恭司はその全てを皆殺しにするだろう。
主義も主張も、宗教も人種も善悪ですら関係ない。
全て平等に処刑だ。
まぁ…………とはいえ主目的であるトバルだけは、"特別"惨い殺し方をすることになるだろうが────。
「まぁ、そう焦るなよ。お前にもちゃんと"役目"はある。通達が遅れたのはすまなかったな…………。ついうっかり、"忘れていた"んだ」
嘘を吐いた。
ウルスもそれを間に受けるはずもないが、体中からは止めどなく汗が噴き出し続けている。
恭司は今、ウルスの聞いた『目的』についてはぐらかしたのだ。
しかし、
ウルスにとってはそれこそが最も重要であり、捨て置けない部分でもある。
ウルスは食い下がった。
「役目と仰るのであれば、我々はどんなことでも成し遂げてみせます…………。火の中であろうと敵陣のど真ん中であろうと、主人様のためであれば果敢に攻め込んでみせる所存です。なので、どうか…………ッ!!どうか現地の亜人種だけでもお救いいただけないでしょうかッ!!何卒…………ッ!!何卒…………ッ!!」
ウルスは目に涙を溜め、額を地面に擦り付ける。
恭司を止めるにはもうコレしかないのだ。
この暴君にそれが通じるかは分からないが、『隷属の首輪』がある時点でコレしかやりようがない。
恭司はそれを見て、ニッコリと笑顔を作った。
「"もちろん"だよ。俺が脱獄してすぐからの付き合いだろう…………?お前の期待を裏切るような真似はしないさ」
優しく…………まるで全てを許容するかのような屈託のない笑顔────。
恭司は…………普段からしょっちゅう"嘘"を吐く。
元々が世界一の大罪人だ。
恭司の言葉には、それほど大した意味は含まれない。
常に『行動』と『結果』だけで示すからだ。
自らの目的を遂行するためならいくらでも"他人"を犠牲にするこの狂人に、その場限りの言葉など何の意味もない。
ウルスもそれくらいのことは分かっているだろう。
何だかんだで、恭司とはこの中で一番長い付き合いなのだ。
それでも────。
「あ、ありがとうございますッ!!ど、どうか何卒…………ッ!!何卒宜しくお願い申し上げます…………ッ!!」
今はこう言うしかなかった。
『隷属の首輪』で反意を封じられている以上、もうどうしたってコレ以外に出来ることはないのだ。
『役目』と言いながら、結局のところ恭司は何一つとしてウルスには指示を出していないが、それも"目論見通り"────。
恭司はひたすらニコニコと、妖しい笑顔を浮かべ続ける。
今も尚どこかで"見ている"のであろう"監視"の目を、念頭に置きながら────。
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恭司は完成品である"それ"を見ると、満足そうな笑顔を見せた。
作りは単純だが、ヒューマンでも昔は使っていたと言われる代物だ。
単細胞な魔族たちにはちょうどいい。
さっきの『下地』とこの『兵器』、加えて下位の魔族たちの活躍があれば、少しくらいは『軍』らしくなるだろう。
かなり荒削りで無理矢理すぎる仕上げだが、この短時間であることを考えれば上々の結果だ。
恭司は倒れている魔族たちには休息を命じ、ドワーフたちには引き続き"それ"の量産を命じると、ドライダスと共にニーニャとナターシャのもとへ向かうことにする。
これから打ち合わせに入るのだ。
彼ら『竜種』には将としての役割を担ってもらう予定であり、恭司の見えていない所は彼らに動かしてもらう必要がある。
だが…………
恭司がいざ動き出した、その時────。
「主人様…………ッ!!」
声が聞こえてきた。
ウルスだ。
その声は息も絶え絶えで、慌てて走ってきたのがよく分かる。
どう考えても、この行軍に関することだろう。
というのも、『シベリザード連合国』への出兵を決めて以来、恭司はウルスとは敢えて距離をとっていたのだ。
ニーニャたちや他の魔族にはしっかりと伝えているのに、わざわざウルスにだけは伝えていない。
もちろん、"わざと"だ。
ウルスは恭司の前で勢いよく膝を突つくと、そのまま深く頭を下げる。
「主人様…………。この度のご出兵について、私は話を聞かされておりませんでした…………。コレは一体、どういったことなのでしょうか?」
ウルスの言葉には焦りと"怒り"が多分に含まれていた。
この軍の行き先についても、おそらくは他から聞いたのだろう。
ウルスは恭司に自身が連合国の出身だと伝えているのだ。
にも関わらず何の相談もなかったことに、ウルスは戸惑いが隠しきれずにいる。
「…………おかしなことを言うものだな。俺が自分の軍を率いることに、いちいちお前の許可が必要なのか…………?」
「…………ッ!!!!」
ウルスは思わずハッとして口を閉じた。
恭司の声はひどく冷たく、いつもの恭司そのままの雰囲気を醸し出している。
さっきの魔族たちの"教育"とは違うのだ。
反意があるのならば、即座に斬り捨てる。
恭司は元々かなりの横着者であり、独裁者だ。
『恐怖政治』を常とするこの暴君には、そもそも部下に配慮することなどあり得ない。
自分のために意見やアドバイスを求めることはあっても、彼らのために動くことなどないのだ。
そもそもこの軍を発足した時点から"私用"である以上、その他のことなどほとんど興味がない。
「し、失礼致しました…………ッ!!で、ですがッ!!せめてこの行軍の目的くらいは教えていただけないでしょうか…………?連合国は私どもの故郷です。場合によっては、私どもの知恵や経験が役に立つかと存じます。ですのでどうかッ!!どうか…………ッ!!」
ウルスも必死な様子だった。
犯罪者ばかりの無法地帯とはいえ、やはりそれなりには愛着もあるようだ。
祖国にいられなくなった者たちが最終的に行き着く国だと聞いているが、生まれ故郷はそれなりに大事にしたいと見える。
恭司に攻め込まれれば、その国がどうなるかは火を見るよりも明らかなのだ。
今は獣人とヒューマンが盛大に争いを繰り広げているらしいが、そんなものは関係なく、恭司はその全てを皆殺しにするだろう。
主義も主張も、宗教も人種も善悪ですら関係ない。
全て平等に処刑だ。
まぁ…………とはいえ主目的であるトバルだけは、"特別"惨い殺し方をすることになるだろうが────。
「まぁ、そう焦るなよ。お前にもちゃんと"役目"はある。通達が遅れたのはすまなかったな…………。ついうっかり、"忘れていた"んだ」
嘘を吐いた。
ウルスもそれを間に受けるはずもないが、体中からは止めどなく汗が噴き出し続けている。
恭司は今、ウルスの聞いた『目的』についてはぐらかしたのだ。
しかし、
ウルスにとってはそれこそが最も重要であり、捨て置けない部分でもある。
ウルスは食い下がった。
「役目と仰るのであれば、我々はどんなことでも成し遂げてみせます…………。火の中であろうと敵陣のど真ん中であろうと、主人様のためであれば果敢に攻め込んでみせる所存です。なので、どうか…………ッ!!どうか現地の亜人種だけでもお救いいただけないでしょうかッ!!何卒…………ッ!!何卒…………ッ!!」
ウルスは目に涙を溜め、額を地面に擦り付ける。
恭司を止めるにはもうコレしかないのだ。
この暴君にそれが通じるかは分からないが、『隷属の首輪』がある時点でコレしかやりようがない。
恭司はそれを見て、ニッコリと笑顔を作った。
「"もちろん"だよ。俺が脱獄してすぐからの付き合いだろう…………?お前の期待を裏切るような真似はしないさ」
優しく…………まるで全てを許容するかのような屈託のない笑顔────。
恭司は…………普段からしょっちゅう"嘘"を吐く。
元々が世界一の大罪人だ。
恭司の言葉には、それほど大した意味は含まれない。
常に『行動』と『結果』だけで示すからだ。
自らの目的を遂行するためならいくらでも"他人"を犠牲にするこの狂人に、その場限りの言葉など何の意味もない。
ウルスもそれくらいのことは分かっているだろう。
何だかんだで、恭司とはこの中で一番長い付き合いなのだ。
それでも────。
「あ、ありがとうございますッ!!ど、どうか何卒…………ッ!!何卒宜しくお願い申し上げます…………ッ!!」
今はこう言うしかなかった。
『隷属の首輪』で反意を封じられている以上、もうどうしたってコレ以外に出来ることはないのだ。
『役目』と言いながら、結局のところ恭司は何一つとしてウルスには指示を出していないが、それも"目論見通り"────。
恭司はひたすらニコニコと、妖しい笑顔を浮かべ続ける。
今も尚どこかで"見ている"のであろう"監視"の目を、念頭に置きながら────。
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