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【第七章】シベリザード連合国

【第四十四話】生け贄 ④

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「そうと決まれば急がなきゃな…………ッ!!しらみ潰しに探すつもりだったが、その必要もなさそうだッ!!全力で国ごと潰して炙り出してやるッ!!」


恭司はテオドールを置いて、止まらない興奮に身を任せていた。

元々、恭司はこのために魔王となったのだ。

まだ帝国にも幼馴染の『シャーロット』や母親がいるが、優先順位は間違いなくトバルが一番高い。

脱獄初日は身体も整っていなかった上に準備不足が否めない状況だったが、今なら別だ。

身体は前世の時と同じ所まで復活し、魔族という『軍』もある。

まだ真正面から叩くには戦力不足だが、ドライダスたちを使えば森中の魔族たちを引っ張り出すことも出来るだろう。

本来ならこれからより時間をかけて武装や兵糧も整えるべきなのだろうが、恭司自身がもう我慢出来なかった。

"あの日"失敗してから、恭司はずっとこの時を夢見てきたのだ。

まぁ、無理矢理呼んだ所で従わない魔族も出てくるだろうが、そんな奴は殺すか脅せばいい。

説得なんて悠長なことをするつもりはないのだ。

『恐怖政治』は生産性や団結面の上でよく『悪政』の象徴とされているが、完了させるまでの『速さ』と『簡単さ』においては随一の優秀さを持っている。

魔族を発展させる気もない恭司としては、正に最高の選択肢と言えるだろう。


「とはいえ…………ただ数を集めるだけじゃ、ヒューマンたちの『スキル』には対抗しにくいか…………。となればまぁ、"アレ"しかねぇだろうなァ……」


恭司はそう言いながら、テオドールを見やった。

アレとはもちろん、『進化』のことだ。

ヒューマンを殺すさながら、"兵糧"にしつつ促していくしかない。

しかし…………

それだけではどうしたって効率が悪かった。

仮に100体で100人のヒューマンを食った所で、進化できる個体は限られてくるのだ。

普通に攻めて食べるだけでは、全体の何割も進化できるとは思えない。


「…………ここは、ナターシャを呼ぶか。魔族のことは魔族に聞かねぇとな。…………だが…………その前に……」


恭司は刀を抜き放った。

彼女たちを呼ぶには、先にやっておくべきことがあるのだ。

本当はもっと話を聞いてからにするつもりだったが、気が急くのだから仕方がない。


「え…………ッ!?な、何を…………ッ!!」

「いやぁ、だってお前…………"見てた"だろう…………?」

「え…………ッ!?」


ガッッッ!!と────。

いつの間にか恭司は牢屋の中に入り込み、テオドールの首を掴んで持ち上げていた。

背後には斬られた後の鉄格子────。

この一瞬で、格子を斬った後に中のテオドールの首を掴んだのだ。

『瞬動』を使ったのだろうが、いくらなんでも速すぎる。


「ぁ…………ッ!!が…………ッ!!」

「他はともかく、"それ"だけは話されちゃあ困るんだよ…………。だから…………ちゃんと準備しておかないとなァ……」

「な、に…………ッ!!」


すると…………

言うが早いか、恭司はすぐさま事を起こした。

グキリと鳴る鈍い音────。

恭司がテオドールの喉を指で押し潰したのだ。

完全に潰れて、もう大きな声は出せない。


「ぁぅ…………ッ!!ぐぁ…………ッ!!」


要は『口封じ』だ。

殺しはしない。

さらに、

恭司は続けて刀を振ると、テオドールの手足を斬り飛ばした。


ズシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!


「~~~~~~~~~~~ッ!!!!」


激しく舞い散り、飛沫を上げる大量の血液────。

文字も書けなくするためだ。

恭司はさらに念のため口の表面をザクザクに斬り裂くと、テオドールはさらに声にならない叫び声を上げる。


「が…………ぁ…………」


そして…………

気づけば、テオドールは大粒の涙と共に全身血塗れとなっていた。

手足がなければ自害も難しいだろう。

痛みで死ななかったのは重畳だ。

どうせしばらくしたら放っといても出血多量で死ぬだろうが、その前にやることがある。


「ナターシャッ!!ウルスッ!!来てくれッ!!」


恭司は大声で2人を呼んだ。

用があるのはナターシャだが、ウルスはついでだ。

少しすると、扉を開けて2人が入ってくる。


「来たわよぉぉぉ」

「お呼びでしょうか」


ナターシャとウルスはそれぞれそう言うと、変わり果てたテオドールに目を向けた。

見るも無惨なほどに満身創痍だ。

拷問の結果にしては口が聞けなくなっている。


「あ、主人様…………。こ、コレは……」

「あぁ、すまんすまん…………。俺の前で魔族と亜人種をバカにするようなことを言ってきたもんでな。つい"うっかり"しちまった」

「そ、そうですか……」


もちろん、嘘だった。

口を封じたのは、恭司にとって不都合な事実を喋らせないようにするためだ。

"エルフと共にディーグレアを嵌めた"事実など、死に間際にペラペラと話されたのではたまったものじゃない。


「それより、ナターシャに聞きたいことがあるんだ。『進化』については詳しいか?」

「…………?まぁ、それなりには……」

「なら良かった。魔族が進化する時に、『分割』して食べたら進化に影響するのかが気になってな」

「ぶ、『分割』…………?どういうこと…………?」


ナターシャは首を傾げた。

ずいぶんと不穏な響きだ。

言葉の意味は分かっても、脳がそれを容易く理解はしてくれない。

だが…………


「言葉通りの意味だよ。魔族ってのは、ヒューマンを食えば、その養分で進化する生き物なんだろう?なら、普通に1体で1人食わせるより、こうやって手足を斬り分けた方が効率が良いじゃないか。節約や保存もしやすくなるしな」


恭司は普通の顔をして答えた。

何も感じる所はないようだ。

ナターシャは顔を引き攣らせながら、会話を続ける。


「…………考えたこともなかったわ。流石に分からない…………。ドライダスでも知らないんじゃないかしら」

「そうか…………。なら、直接"試してみる"か。腹減ってそうな奴に、それぞれの部位を与えて食わしてみよう。元々、兵糧にするには切り分けた方が都合も良かったしな」

「………………そうね」


恭司の言葉に躊躇いはなかった。

どっちがヒューマンかという話だ。

恭司は基本的にヒューマンの命なんて、何とも思ってはいない。


「あと、生きていた方が良いのかどうかも調べてみないとな。ウルス、検証を頼む」

「ハッ!!お任せくださいッ!!」


ナターシャは完全に引いていたが、ウルスは元気よく答えた。

ヒューマンを使った、『進化』の"実験"だ。

成功すれば、魔族たちの進化のハードルを下げやすくなる。

どうせ兵糧として全員に行き渡らせるためには切り分けないといけないのだから、部位ごとに変化があればより効率よく進化を促せるだろう。

混ぜても良いなら、一度に複数のヒューマンを摂取するようなことも可能になるはずだ。

魔族たちの士気向上にも繋がるに違いない。


「では、行って参ります」

「~~~~~~~~~~~ッ!!!!」


そうして…………

ウルスは喚くテオドールをズルズルと引きずりながら、地上に戻っていった。

これからさらに指や内臓を切り分けて検証していくのだ。

涙と共に悲壮感を漂わせるテオドールを横目にしながら、恭司は楽しそうにニッコリと微笑む。

ウルスの"故郷"である『シベリザード連合国』を、これからどう攻略していくのかを考えながら────。


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