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【第六章】新生・魔王軍

【第四十二話】偵察隊 ⑥

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「お、お姉ちゃあああああああああああああああああああああああああああああんッ!!」


その光景を見て、アシェリーの泣き声混じりの声が響き渡った。

双子の姉の顔が一瞬の内に吹っ飛んでいったのだ。

取り乱すのも仕方がない。

残された身体はそのままポトリと力なく地面に転がると、千切れた首の根元から血がドバドバと溢れ出してきた。

アシェリーはもう完全に錯乱状態だ。

テオドールはそれを見て、グッと歯を食い縛る。


「く、くそォ…………ッ!!と、とにかく今は撤退だッ!!早く逃げ……ッ!!」

「カカッ!!もう遅いんだよ、リーダー君…………?」

「…………ッ!!」


その時────。

再びシャーキッドの声が聞こえてきた。

すぐ側の耳元だ。

さっきまで腕を伸ばしていたはずなのに、いつの間にか再び姿を消している。

テオドールはギョッとして、すぐに振り返った。

すると…………


「ぁぅ…………」
「ぁ…………」

「ば、バカ…………な…………」


あまりのことに、テオドールは思わず言葉を失う。

確かにさっき逃げようとして目を少し離しはしたが…………そんなものは一瞬のことだ。

アシェリーの叫び声を聞いたのも…………ホンのついさっきのことだ。

ムーアの顔が吹き飛ばされた時から、僅か数秒程度しか経ってはいない。

なのに…………


「う、嘘…………だ…………。そんな…………」


そこには、ケルビンとアシェリーの頭を握り締めながら、テオドールのすぐ後ろで笑顔を浮かべるシャーキッドがいた。

2人とも既に死にかけだ。

腕もいつの間にか元に戻っており、2人はシャーキッドの掌の中で絶望の呻き声を上げている。

テオドールはその光景を見て、恐怖と共に後ずさった。

シャーキッドが来てからというものの、さっきから怒涛の急展開ばかりだ。

あの薙ぎ払いとエルフの爆撃で体制を崩されたせいなのだろうが、それにしても追撃と始末が速すぎる。

冒険者の動き方を理解されているが故なのだろう。

全て…………先回りされていたのだ。

シャーキッドは両手に掴んだそれぞれの頭を同時にパァァァンッ!!と音を立てて握り潰すと、テオドールの目の前で楽しそうに口を開く。


「カカッ。後はお前だけだな…………。旦那からのオーダーは"一人だけ"だ。悪いが付いてきてもらうぜ?」

「はぁ…………ッ!!はぁ…………ッ!!」


テオドールはそれを見ても何も言えず、目を見開いて呼吸を荒くすることしか出来なかった。

状況を理解しようにも、頭がそれについていかないのだ。

不意打ちとエルフの助力があったとはいえ、シャーキッドが1人現れただけでここまで一方的にやられるなど…………普通に考えて、あり得るわけがない。

そして…………

シャーキッドは持ってきた道具で手際よくテオドールの目と耳を塞ぐと、その場で乱暴に蹴り飛ばした。

本当に、見事なまでのあっという間の出来事だ。

コレが…………世界一の"暗殺者"の力────。

Aランクパーティーくらいでは、相手にすらならない。


「し、シャーキッド様…………『1人で良い』というのは…………?」


すると…………

エルドラが不安そうな顔で、シャーキッドに尋ねかけた。

恭司が彼らに言ったのは、『連れてこい』というその一言だけだ。

『一人で良い』なんて聞いていない。


「ん…………?一人で良かっただろう?俺は確かに、旦那からはそう聞いたはずなんだがなァ…………」

「………………」


エルドラは訝しげに表情を曇らせた。

どうにも怪しげな展開だ。

エルドラたちが命令を受けたのはついさっきのことであり、シャーキッドの言う通り別で命令を受けていたにしても、それにしては来るのが早すぎる。

まるで…………恭司の人となりを見て、シャーキッドが勝手にそうだと決め付けていたかのようだ。

それに…………

さっきシャーキッドが言っていた、『別件』というのも気になる。


「まぁ、俺はさっき街で『依頼』を受けたばかりだから、お前らへの命令に上書きする形になっちまったんだろう。旦那は今『多忙』だからなァ…………。そんなこともあるさ」

「そ、そうですか…………」


エルドラはそれを聞いて、とりあえず頷くことしか出来なかった。

何とも腑に落ちない展開だ。

そもそも…………あの恭司があのやり取りの後、エルフたちに『援軍』を出すなんて────。

いくらテオドールたちの存在が急だったとはいえ、あまりに恭司らしくない。


「とりあえず、今はそんな細かいことはどうでも良いじゃねぇかッ!!それより、さっきは一体何があったんだ?せっかく助けてやったんだから教えてくれよッ!!」


シャーキッドはそう言って、エルドラに詰め寄ってきた。

テオドールのことは完全に放置だ。

後でどうとでも出来ると思っているからか、目と耳を塞いだだけで他に何をするわけでもなく、シャーキッドはエルドラの方にばかり興味を向けている。


「え…………な、何がと言われましても……」


エルドラは言葉に詰まった。

いきなり『援軍』に現れたかと思えば、そのシャーキッドはターゲットをフル無視で、何故か味方にばかり意識を向けてくるのだ。

どう考えても怪しい。

それに…………

その内容はかなりの"極秘事項"であり、新設したばかりの魔王軍の"存亡"にも関わってくる情報だ。

いかに味方とはいえ…………エルドラが勝手にそんな情報を漏らしたとあっては、仲間もろとも確実に命はないに違いない。


「なァ、教えてくれよッ!!こんな"機会"は滅多にないんだッ!!勘付かれる前が勝負なんだよッ!!」

「え…………?それってどういう……」


その途端────。

いきなりガ…………ッ!!と音が鳴った。

シャーキッドがエルドラの胸倉を掴んだのだ。

その力は尋常でないほどに強く、『スキル』や『職業』を失っているとはとても思えない。


「ぅぁ…………ッ!!が…………ッ!!」

「察しの悪い野郎だなァ…………。コレはあの旦那を"出し抜ける"チャンスなんだぜ…………?あの化け物の目を掻い潜る機会なんて今くらいしかねぇんだ…………。まだ魔族を平定してない、今だけなんだよ」

「し、シャーキッド…………ッ!!お前…………ッ!!」


エルドラも、いつの間にかシャーキッドに『様』を付けるのを止めていた。

今の発言は、明らかな背信行為だ。

相変わらず何を考えているのかは分からないものの…………何かしらの"企み"があることだけは間違いない。
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