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【第六章】新生・魔王軍

【第四十二話】偵察隊 ①

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「な、何だ…………アレは…………」


恭司がディーグレアを食べていた時と同じくして────。


『Aランク冒険者』である『テオドール・ホーンビッツ』は、その様子を遠目に見つめていた。

"ノーシェル"から"直接"依頼を受けて、仲間と共にディーグレアの様子を偵察に来ていたのだ。

周りには3人の男女────。

4人パーティーとして、偵察任務を遂行している真っ最中である。


「ふ、復活した魔王を確認しろって話だったけど…………魔王、食べられちゃった?よ…………?コレ、一体どういう状況なんだろ…………。それに…………あの人、なんか変な湯気出して、身体が大きくなっていっているような……」


返事をしたのは『ムーア・シロット』────。

このパーティーの『回復魔法師』だった。

攻撃も少しはできるが、基本的に回復がメインの職業だ。

このパーティー内では『ヒーラー』役を務めている。


「アレが…………情報にあった、カザル・ロアフィールド』か…………。容姿と言い、実力と言い…………事前に聞いていた話とは、何もかもがずいぶんと違うようだが……」


その隣で呟いたのは、『格闘家』の職業を持つ、『ケルビン・ガーター』だった。

カザルのことは、ディーグレアの話と共に"ノーシェル"から聞いていたのだ。

ノーシェルからは、カザルが『無能者』であり、スキルが何も使えない上、5歳の頃からずっと牢屋で過ごしてきた男だと聞かされている。

スキルどうこうはともかく、ここまで悪逆で非常識な力を持っていることなど、その事前情報では一度も聞いたことがなかった。

おそらく勘違いや言い忘れの類ではないだろう。

なんせ…………カザルは『大司教』であるネシャスや勇者が、つい先日、自ら取り逃がしたばかりの相手なのだ。

その時点でおかしいとは思っていたが…………ノーシェルは元々カザルにかなりの力があることを知っていながら、敢えてテオドールたちには黙っていたことになる。


「ねぇ…………。この依頼、やっぱりおかしいよ…………。『魔王が復活したから"直接"行って魔王を確認してきてほしい』なんて…………。しかも…………その報告を、王都じゃなく、『"トバル"様にしろ』だよ……?なんか色々と食い違いも多いし、コレ絶対ヤバい奴だって……」


最後にそう答えたのは、『アシェリー・シロット』だった。

ムーアとは双子で、『弓術師』だ。

『リズベット』の『狙撃手』よりもランクは落ちるものの、矢に属性を"エンチャント"できるなど、魔法に近い攻撃も行うことができる。


「…………確かにな。"トバル"様が既に王都にいないことにも驚いたが、それをわざわざ俺たちに直接報告に行かせる理由も分からない…………。クソ…………ッ!!受ける前から分かってはいたが、重要な情報ばかり隠しやがって…………ッ!!『強制依頼』じゃなければ、絶対受けるはずなんてなかったものを…………ッ!!」


テオドールはそう言って憤った。

彼らは先日『Aランク冒険者』になったばかりであり、Aランク以上の冒険者には度々こういった『強制依頼』が発行されるのだ。

その代わりに様々な援助を受けられるようになるものの…………今回のコレは、いくら何でも割りに合わない。


「…………で、どうする、テオ…………?一応、"確認"は済んだんだ。このまま踵を返して、さっさとトバル様のもとへ向かっても良いと思うが…………」


ケルビンは、そう言ってテオドールに判断を仰いだ。

このパーティーは、『魔剣師』であるテオドールがリーダーだ。

『近接職』であるテオドールとケルビンが前衛をこなし、ムーアとアシェリーが後衛からサポートしている。


「そうだな…………」


リーダーであるテオドールは、顎に手をやって考えた。

ディーグレアがいなくなった時点である程度任務は達成しているものの、本来はその後の経過までを含めての『偵察』だ。

ただ見てきただけで帰ってくるようでは、"Aランク"冒険者としては非難の対象になってもおかしくない。

しかし…………


「…………ここは退こう。嫌な胸騒ぎがする…………。帰ったら何か言ってくるような奴らも現れるだろうが、そんな奴らは無視すれば良い。命あっての物種だ」


テオドールの判断を聞いて、他3人はホッとしたような面持ちで頷いた。

今しがた目の当たりにした、あの"化け物"に近づかなくて済むのだ。

さっきから吐き気が止まらず、見れば見るほどに体が震えて仕方がない。


「あぁ、賛成だ…………。さっさと離脱しよう」
「ホント、気付かれたら絶対ヤバいよ、アレ…………」
「流石テオ…………。私も賛成。早く行こ」


3人はそれぞれそう言って頷いた。

冒険者は引き際こそが大事だ。

兵士と違って保険や保障のきかない彼ら冒険者は、とにかく生き延びることこそが最優先になる。

そもそもディーグレアが倒された時点で、彼らがどうこう出来るレベルは超えているのだ。

もし戦闘にでもなれば、勝てるかどうか以前に逃げ切れるかどうかすら分からない。


(それに…………)


テオドールは死んだディーグレアの、"周り"に目を向けた。

『災厄種』である『竜種』が3体に、群れをなした『Aランク』や『Bランク』の魔物たち────。

どう考えてもヤバい相手だ。

いかに『Aランク冒険者』とはいえ、あれほど高ランクな魔族たちが多数集まったこの状況で、何が出来るわけもない。

4人とも一刻も早くここから立ち去りたい思いで一杯だった。

完全に死亡フラグだ。

これ以上深入りすれば…………"最悪のケース"だって考えられる。


「なら、すぐにでも出発しようか。とっとと……」

「おやぁ…………?もうお帰りですかぁ…………?」

「「「「…………ッ!!!!」」」」


すると…………

声が聞こえてきた。

男の声だ。

4人はギョッと目を見開き、すぐさま戦闘体制をとって距離を空ける。
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