上 下
177 / 267
【第六章】新生・魔王軍

【第四十話】無敵の王様 ①

しおりを挟む
「ハァーッハッハァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」


戦いは急に突然いきなり始まった。

話し合いや問答などは完全に無しだ。

邪悪で不気味な笑い声を上げながら、恭司は三日月を放つ。

恭司なりの、戦いの合図だった。

恭司もディーグレアも、互いにグダグダと言葉を並べるタイプでもないのだ。

言いたいことがあるなら、口を動かす前に殺しにかかる。


「グハハッ!!気の早いことだッ!!てっきり、"そういうの"は魔族の専売特許だとばかり思っていたんだがなァ…………ッ!!」


ディーグレアはそう言って笑いつつ、軽やかな動きで難なく三日月を避けた。

4メートルもの巨体の割には素早い身のこなしだ。

迷いもない。

余裕のある表情とは裏腹に、ディーグレアはとりあえず防御重視で様子見することに決めたようだった。

ディーグレアにとって、恭司の力は未だ未知数なのだ。

少し前に恭司とレオナルドの戦いを端目に捉えはしたものの、あんな一方的な蹂躙では本当の実力なんて何も分からない。

なんせ、恭司はあの時、マトモに刀技の一つですら使っていなかったのだ。

あれから実際に戦うこととなった今、慎重に当たるに越したことはない。


「ハハッ!!威勢の良いこと言うわりにはずいぶんと謙虚な対応じゃないかッ!!ヒューマンを相手にビビってんのか、"元"魔王様ッ!?」


恭司はそんな中、挑発を交えつつ、ただただ苛烈に攻め立てていった。

オークを散々食い散らかした甲斐あって、恭司は今や『中伝』まで使えるようになっているのだ。

身体能力は今までの比ではなく、基本技よりもさらに強い技も使えるようになっている。


「ほざくなよ、ヒューマンがッ!!加護もないヒューマンなど大して美味くもないが…………ッ!!貴様だけは特別に、我が直々に全て食ろうてやろうぞッ!!」


ディーグレアはそう言って、両方の掌に巨大な火の玉を作り出した。

様子見しつつ、遠距離技で反応を見るつもりだ。

怒りの表情はあくまでブラフ────。

思考はしっかりと回っている。


(チッ、脳筋かと思えば…………少しは頭も回るようだな)


恭司は内心で舌打ちしていた。

苛烈に攻める一方で、恭司もまた、相手の出方を窺っていたのだ。

結果はイマイチ────。

流石は、歴代で最も狡猾な魔王と言われるだけある。


「くらええええええええええええええええええええええええええええええええいッ!!」


ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!


途端────。

ディーグレアの作り出した2つの炎球は、恭司に向かってまっすぐに飛んできた。

凄まじい熱量だ。

ただ前にしているだけで汗が噴き出し、皮膚が焼ける。

ローリーの時は口から出していたため、おそらくはその時とは別物なのだろう。

見た目通りのシンプルな技だ。

恭司は仕方なく、手札を1枚切ることにする。


「チッ…………」


三谷の『中伝』が一つ、『一線』────。

すると、

2つの炎球にそれぞれ"線"が一本ずつ引かれたかと思うと、炎球はあっという間に真っ二つに斬り裂かれてしまった。

これもまた、シンプルな技だ。

三日月の上位版とも言える。

線を引かれたら最後だ。

目にも留まらぬ高速の抜刀に、線から決してズレぬ外さぬ精密な一撃────。

ディーグレアは楽しそうに笑う。


「グハハッ!!すごい攻撃だなッ!!こうなれば、我も負けてはおれん…………ッ!!真の魔王たる攻撃を見せてくれようぞッ!!」


その瞬間────。

地面が…………少し揺れた。

微弱な動きだが、確かな変化だ。

その変化には、少しばかり心当たりがある。


「おいおい、ここは街中だぞ……」


途端────。

地面が一瞬にして真っ赤に染まり上がったかと思うと、強烈な熱風が吹き荒れた。

"予想通り"だ。

まるで"噴火"の前兆────。

このまま、この辺り一帯を焦がし尽くすつもりらしい。


「我が炎に抱かれ、そのまま逝くがいい────。『地獄炎』ッ!!」


ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!


既視感バリバリの攻撃だった。

ローリーの放った隕石を打ち破った技だ。

辺り一面の地面が燃え上がり、正に噴火の如く上に噴き上がる。

しかし…………

こんな大技をいきなり放ったところで、恭司に当たるはずもなかった。

こんなに派手な予備動作があれば、先んじて避けておくことなど容易いのだ。

何なら、瞬動で距離を取りつつ、オマケで三日月も同時に放てる。

そして…………

そんなことはもちろん…………ディーグレアも"分かっていた"。


「グハァーッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!避けたかッ!!流石の戦闘力よッ!!ならば…………ッ!!コレならどうだァッ!?」


すると…………

ディーグレアの周囲に、先ほどの炎球がいくつも宙に浮かんでいるのが見えた。

さっきの噴火はコレを作り出すための目眩しだったようだ。

恭司はそれを見て…………"笑う"。

予想通りの展開だ。

恭司は再び刀を構えると、技を使うことにする。

三谷の『基本技』が一つ、『殺影』────。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

追憶の刃ーーかつて時空を飛ばされた殺人鬼は、記憶を失くし、200年後の世界で学生として生きるーー

ノリオ
ファンタジー
今から約200年前。 ある一人の男が、この世界に存在する数多の人間を片っ端から大虐殺するという大事件が起こった。 犠牲となった人数は千にも万にも及び、その規模たるや史上最大・空前絶後であることは、誰の目にも明らかだった。 世界中の強者が権力者が、彼を殺そうと一心奮起し、それは壮絶な戦いを生んだ。 彼自身だけでなく国同士の戦争にまで発展したそれは、世界中を死体で埋め尽くすほどの大惨事を引き起こし、血と恐怖に塗れたその惨状は、正に地獄と呼ぶにふさわしい有様だった。 世界は瀕死だったーー。 世界は終わりかけていたーー。 世界は彼を憎んだーー。 まるで『鬼』のように残虐で、 まるで『神』のように強くて、 まるで『鬼神』のような彼に、 人々は恐れることしか出来なかった。 抗わず、悲しんで、諦めて、絶望していた。 世界はもう終わりだと、誰もが思った。 ーー英雄は、そんな時に現れた。 勇気ある5人の戦士は彼と戦い、致命傷を負いながらも、時空間魔法で彼をこの時代から追放することに成功した。 彼は強い憎しみと未練を残したまま、英雄たちの手によって別の次元へと強制送還され、新たな1日を送り始める。 しかしーー送られた先で、彼には記憶がなかった。 彼は一人の女の子に拾われ、自らの復讐心を忘れたまま、政府の管理する学校へと通うことになる。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

【完結】彼女以外、みんな思い出す。

❄️冬は つとめて
ファンタジー
R15をつける事にしました。 幼い頃からの婚約者、この国の第二王子に婚約破棄を告げられ。あらぬ冤罪を突きつけられたリフィル。この場所に誰も助けてくれるものはいない。

不倫をしている私ですが、妻を愛しています。

ふまさ
恋愛
「──それをあなたが言うの?」

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

処理中です...