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【第五章】魔王

【第三十三話】鋼鉄の悪魔 ⑦

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「あひゃーッひゃひゃひゃひゃひゃひゃーーッ!!死ね死ね死ね死ねッ!!死ねよ、シャーキッドォォォオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」


レオナルドの声は、もはや狂気と快感に満ち満ちていた。

ただただ殺意と悦楽に突き動かされているようだ。

勝利を確信して、レオナルドの黒い部分が全面的に前へ押し出されている。

やはり…………単純な肉弾戦ではレオナルドの方に分があるのだろう。

何とか奇襲やトリッキーさで誤魔化してはきたものの、根本的な身体能力に差がありすぎるのだ。

レオナルドの身体能力は、本気を出せば1つの都市くらい1人で壊滅できるほどに卓越している。

住民たちの保護を放棄し、戦闘のみに集中した今…………奇襲や不意打ちばかりで勝てる相手ではなかった。

流石は『1位』だ。

強さも異常さも、レオナルドは圧倒的に抜きん出ている。


「クソッタレが…………ッ!!いつまでもやられっぱなしでいられるかよッ!!」


そんな中────。

シャーキッドもまた応戦した。

このまま大人しく敗北を認めるつもりなどないのだ。

やられたのならやり返せばいい。

シャーキッドは防戦して後ろに下がりつつ、後方に気配を感じていた。

都合の良いタイミングだ。

運は今、シャーキッドの方に向いている。


(その醜悪なニヤケ面を歪ませてやるぞッ!!)


シャーキッドは活路を見出したかのように、下卑た笑みを浮かべた。

『バーサクブロウ』は、よほどのことでもない限り、始まったらなかなか抜け出すことの叶わないスキルだ。

それこそ"狂ったように"…………逃れる間も無く延々とフルパワーの拳打を高速で打ち出し続けてくる。

だからこそ、

この状況から抜け出すためには、レオナルドの方から止めてもらわなければならなかった。

簡単な話だ。

悪党が正義の味方に対して行うことなんて、いつもいつも決まっている。

シャーキッドは後ろに下がりつつ、その"気配"のしたソレが近くなった途端、そいつの後ろ髪を乱暴にガッと掴んだ。


「え…………?」


シャーキッドでもレオナルドでもなく、第三者から急に発された声────。

レオナルドの動きが、ほんの一瞬だけ止まる。

いきなりのことだったのだ。

心のブレーキが突如としてその存在感を知らしめ、レオナルドは愕然とする。

そう、

"住民"────。

シャーキッドはたまたま後ろにいたソイツを盾として目の前に投げ捨てると、レオナルドの拳は、スキルに従って躊躇なくその頭を潰した。


「な……ッ!?」


レオナルドの顔に、「驚愕」の二文字が刻まれる。

巻き添えにしたのと、『直接殺った』のとでは話が別だ。

きっちりと封殺したはずの、住民を殺した罪悪感────。

「仕方がない」と割り切ったはずのそれが思わぬところで顔を出し、レオナルドの額から、大粒の汗が流れ出る。


「カカッ!!」


シャーキッドは今の隙にさらに後ろへ下がると、手当たり次第に住民の体をレオナルドに投げ飛ばした。

ちょうど逃げる一団に差し掛かった所だったのだ。

投げる相手には、困らない。


「い、嫌ァァァアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
「な、何を…………ッ!!」
「う、うわあああああああああああああああ…………ッ!!」


バッッッシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!


シャーキッドによって投げられた住民たちの体は、レオナルドの拳によってあっという間に四散した。

肉が宙を舞い、内臓がこぼれ落ちて、鮮血が視界を覆うほどに弾け飛ぶ。

目眩しだ。

視界が血で真っ赤に染まり、肉や臓器が前方のシャーキッドの身体を隠す。

シャーキッドからもレオナルドの姿は見えていないが、おそらくは混乱していることだろう。

勝負の最中に突然部外者が出てきて、自分がいきなり加害者となったのだ。

動き出したら止まらない、スキルの弊害────。

コレで止まってくれればありがたいが、流石にそこまでは思ってない。


「カァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!」


シャーキッドは叫びながら、レオナルドとの距離が空いた瞬間に身体を丸めて、いきなり巨大なボールのような形状になった。

その表皮には鋭い棘があり、何をするのかは明確だ。

シャーキッドは勢いよく回転を始めると、地面に着いた瞬間にギィィィィィィィィィッ!!と火花を散らせる。

どこかで見たような光景だ。

それはほんの少しだけその場に止まると、ふとした瞬間…………勢いよく転がり出す。

そして…………


ダァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンッ!!


レオナルドの放つ拳打と球体になったシャーキッドは、互いに真正面からぶつかり合った。

飛距離がなかった分、威力としてはシャーキッドの負けだ。

それは仕方ない。

しかし…………


「ぐあァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」


それで声を上げたのは、レオナルドの方だった。

拳が棘に直撃したのだ。

シャーキッドはボール状にポンポンと弾かれて、上手く受け身を取っている。

それでも…………ダメージは十分すぎるほどに通ってきているのだが────。


「カァーッカカカカカカカカカカカカカカカカカッ!!どうだッ!!その拳じゃあ、もうさっきの攻撃は放てねぇだろうッ!?」


シャーキッドは嬉しそうに笑った。

あの厄介な『ユニークスキル』を止めた上、レオナルドの拳を片方潰したのだ。

レオナルドは歯をギシリと食い縛る。

棘は拳を貫通し、血が止まらないくらいにボタボタと大量の流血を及ぼしていた。

勢いがあった分、深手となっていたのだ。

とはいえ…………シャーキッドも既に体力やダメージの限界が近い。

さっきの防戦状態が痛かった。

もう一度やられれば死ぬだろう。

それも何とか潰したし、あとは消耗戦だ。

後は…………互いにトドメを刺すだけ────。


「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」

「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」


両者共に、殺気を迸らせ、睨み合う。

殺意はとっくの昔に最高潮────。

殺るか殺られるか────。

両者は間合いを図りつつ、どう攻めようかと考えあぐねているようだった。

2人の間には住民たちの死体が転がっているだけだ。

他の住民たちは騒がしくワーキャーと辺りを走り回っているが、近づいてはこないし、関係ない。

────決着の時が近づいてきていた。

もうお互いに限界なのだ。

レオナルドより被弾数の少ないシャーキッドでも、これだけ全力でやり合えば体力は消耗する。

むしろ、これだけやってまだ体力に余裕のあるレオナルドがおかしかった。

ただ、それでも…………レオナルドは逆に怪我の方が深刻だ。

状態的には、五分と五分────。

今こそ雌雄を決し、勝敗を付ける時に他ならない。


「まさか…………この僕と、ここまでやり合うとはね……」

「カカッ!!俺も驚いているよ。欲を言うと、『バーサクモード』のレベル"10"って奴も見てみたかったがなァ……」

「見せてやろうか?」

「カッカッカッカッカッ!!遠慮しておくよ。戦いは楽しいが、死ぬのは御免だからな」

「我儘な奴だ」

「よく言われるよ」


そんなやり取りをしながら、2人は互いの手の内を読み合っていた。

体力のある側とない側────。

怪我のある側とない側────。

与えたダメージはシャーキッドの方が多くても、元々持っている体力の総量が違うのだ。

ダメージを与えていることは、それほど有利には働かない。

だが、

レオナルドもいつまでも怪我を放置するわけにもいかないし、シャーキッドを倒した後にはカザルともやり合わなければならないのだ。

時間はかけられない。

それなら、直接相手の命を断つ以外に、方法なんてなかった。


「なら…………」

「あぁ…………」


交錯する視線────。

互いに読み合う軌道────。

2人は目だけで意思を疎通して、同時に動きだす。


「シャーキッドォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

「レオナルドォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」


2人の間に描かれる一本道────。

2人は叫んだ。

両者共に直進だ。

そのレールはお互いにほぼまっすぐな直線を描き、殺気がその中央に集約している。

覇気が空気を震わせ、声が地を揺らし、迸るオーラは遥か遠くまで衝撃をもたらすほどだった。

決着の瞬間だ。

上から……?横から……?

それとも策を……?

違う違う違う違うッ!!

ここは、ただひたすらに…………

正  面  突  破  ッ  !  !
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