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【第五章】魔王
【第二十九話】トラントスの街 ③
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「ふっ、君だけは別だよ、ローリー…………。君の受けた屈辱は、僕もよぉぉぉぉぉく分かっているさ。だから…………これは"競争"だよ」
「…………望むところ」
2人のやり取りを見て、5位と7位は完全に固まってしまっていた。
もちろん、この競争に割って入ろうなんて感情は皆無だ。
むしろ…………この2人にここまで殺意を向けられて、未だにのうのうと生きているであろうカザルのことが信じられないでいる。
噂で聞いた『無能者』の激変については信じられなくても、目の前にいる1位同士の執念は信じられるのだ。
格上である彼らはどちらも本気の本気で、並々ならぬ怒りと憎しみ…………覚悟を持っている。
7位の男からすれば、カザルがこの2人にここまで本気を出されていながら、どうやって生き延びたのか不思議なほどだった。
空気を震撼させるほどに冷たい殺意に、吹き飛ばされそうなほど激烈に放出された迫力の嵐────。
それは、既にこの2人が"全力でやったにもかかわらず"取り逃してしまったという証明に他ならないのだ。
レオナルドもローリーも、彼ら5位と7位たちに意識を変えてほしいわけでもない。
ただ、自分がしたいことを邪魔するなと言いたいだけ────。
足だけは引っ張るなと釘を刺されているだけだ。
その事実だけで、カザルの脅威を知るには十分すぎる。
「で、でも…………別に、相手がカザルだと決まったわけでもないんですよね……?」
そこで、マーリックは恐る恐る手を上げた。
マーリックはそこの5位や7位の彼らとは違う。
マーリックは、最初から明確にカザルを恐れているのだ。
だからこそ、
"願望"の意味で、そんな言葉が出てしまう。
だが……
「それは儚い希望だな…………。これは間違いなく、カザルの仕業だよ」
レオナルドの言葉はやけに確信的だった。
カザルが覚醒してからの期間を考えても、そこまで関係性は深くないはずだ。
なのに、
その言葉はただただ分かりきった事実を話すかのように、淡々と事務的に紡がれている。
「私も同意見ね…………。あの男だけは本当に油断ならないわ。あんなに突拍子もなく、平然と人殺しをおっ始める奴なんて…………私は他に知らないもの」
ローリーの言葉もまた、感情が篭りに篭っていた。
カザルに殺された人間の中に、大切な人でもいたのだろうか────。
そんなことを邪推してしまうくらい、吐き捨てるような怒りが込められている。
マーリックはそれを聞くと、ただ「分かりました」とだけ言って、それ以上は何も言えなくなった。
これ以上は藪蛇だ。
下手をすれば、こちらに怒りが向いてきかねない。
「まっ、そういうことだから。そろそろ行こうか。日が暮れたら厄介だ。奴は足が速く、とんでもなく身軽だからね」
「えぇ、そうね…………。時間を掛ければ掛けるほど、また何か厄介な罠を仕掛けてくるかもしれないわ。…………ホント狡猾な奴だからね」
「「「………………」」」
2人はそう言って、門を開けて森の中へと進んでいった。
マーリックたち3人もその後ろに続き、門番が代わって門を閉めるのが見える。
カザルの武器や能力や見た目は、おそらく道中で話すつもりなのだろう。
流石のこの2人でも、情報共有の重要性くらいは知っているだろうし、そこは無用の心配だ。
しかし…………
(この2人がこれほど警戒するカザル…………か。強くて狡猾な殺人鬼ってくらいは分かったけど…………そんな奴が、大人しく僕らを待ち構えているだろうか……)
マーリックは内心で一抹の不安を覚えていた。
レオナルドもローリーも、カザルの怒りが強すぎて冷静ではなくなってしまっている。
それに、
本当にカザルがこの森の魔物たちを一掃したのだとすれば、こんな調査隊が来るくらいのことはカザルも予想出来ているはずだ。
罠があるのか、他に思惑があるのか────。
そこまでのことは、カザルのことをよく知らないマーリックには分からない。
ただ、この胸の中を掻き回すような嫌な予感だけは、さっきから一向に、止まる様子を見せなかった。
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「…………望むところ」
2人のやり取りを見て、5位と7位は完全に固まってしまっていた。
もちろん、この競争に割って入ろうなんて感情は皆無だ。
むしろ…………この2人にここまで殺意を向けられて、未だにのうのうと生きているであろうカザルのことが信じられないでいる。
噂で聞いた『無能者』の激変については信じられなくても、目の前にいる1位同士の執念は信じられるのだ。
格上である彼らはどちらも本気の本気で、並々ならぬ怒りと憎しみ…………覚悟を持っている。
7位の男からすれば、カザルがこの2人にここまで本気を出されていながら、どうやって生き延びたのか不思議なほどだった。
空気を震撼させるほどに冷たい殺意に、吹き飛ばされそうなほど激烈に放出された迫力の嵐────。
それは、既にこの2人が"全力でやったにもかかわらず"取り逃してしまったという証明に他ならないのだ。
レオナルドもローリーも、彼ら5位と7位たちに意識を変えてほしいわけでもない。
ただ、自分がしたいことを邪魔するなと言いたいだけ────。
足だけは引っ張るなと釘を刺されているだけだ。
その事実だけで、カザルの脅威を知るには十分すぎる。
「で、でも…………別に、相手がカザルだと決まったわけでもないんですよね……?」
そこで、マーリックは恐る恐る手を上げた。
マーリックはそこの5位や7位の彼らとは違う。
マーリックは、最初から明確にカザルを恐れているのだ。
だからこそ、
"願望"の意味で、そんな言葉が出てしまう。
だが……
「それは儚い希望だな…………。これは間違いなく、カザルの仕業だよ」
レオナルドの言葉はやけに確信的だった。
カザルが覚醒してからの期間を考えても、そこまで関係性は深くないはずだ。
なのに、
その言葉はただただ分かりきった事実を話すかのように、淡々と事務的に紡がれている。
「私も同意見ね…………。あの男だけは本当に油断ならないわ。あんなに突拍子もなく、平然と人殺しをおっ始める奴なんて…………私は他に知らないもの」
ローリーの言葉もまた、感情が篭りに篭っていた。
カザルに殺された人間の中に、大切な人でもいたのだろうか────。
そんなことを邪推してしまうくらい、吐き捨てるような怒りが込められている。
マーリックはそれを聞くと、ただ「分かりました」とだけ言って、それ以上は何も言えなくなった。
これ以上は藪蛇だ。
下手をすれば、こちらに怒りが向いてきかねない。
「まっ、そういうことだから。そろそろ行こうか。日が暮れたら厄介だ。奴は足が速く、とんでもなく身軽だからね」
「えぇ、そうね…………。時間を掛ければ掛けるほど、また何か厄介な罠を仕掛けてくるかもしれないわ。…………ホント狡猾な奴だからね」
「「「………………」」」
2人はそう言って、門を開けて森の中へと進んでいった。
マーリックたち3人もその後ろに続き、門番が代わって門を閉めるのが見える。
カザルの武器や能力や見た目は、おそらく道中で話すつもりなのだろう。
流石のこの2人でも、情報共有の重要性くらいは知っているだろうし、そこは無用の心配だ。
しかし…………
(この2人がこれほど警戒するカザル…………か。強くて狡猾な殺人鬼ってくらいは分かったけど…………そんな奴が、大人しく僕らを待ち構えているだろうか……)
マーリックは内心で一抹の不安を覚えていた。
レオナルドもローリーも、カザルの怒りが強すぎて冷静ではなくなってしまっている。
それに、
本当にカザルがこの森の魔物たちを一掃したのだとすれば、こんな調査隊が来るくらいのことはカザルも予想出来ているはずだ。
罠があるのか、他に思惑があるのか────。
そこまでのことは、カザルのことをよく知らないマーリックには分からない。
ただ、この胸の中を掻き回すような嫌な予感だけは、さっきから一向に、止まる様子を見せなかった。
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