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【第四章】魔族

【第二十七話】虐殺の宴 ①

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「…………ようやく、終わったのかニャ?」


もはや日も変わり、朝のこと────。

ニーニャの呆れた声が聞こえてきた。

少し怒気も含まれているように思える。

ふと空を見上げると、もう夜は明けて朝に差し掛かろうという所だ。

恭司は改めて…………自分の身体を見つめる。


「あぁ………………。"成功"したよ」


落ち着いたように見えるが、気分はこれ以上ないくらいに高揚していた。

テンションはもう最高潮だ。

笑みが深く深く濃い影を作り、悪どい笑顔が表に現れている。

これでようやく、『中伝』を使えるようになったのだ。

身体に力が漲っているのが分かる。

これなら、あのレオナルドやローリーとも、互角に渡り合えるだろう。

最高だ。

昔の感覚が…………身体に染み付いて離れない戦闘の記憶が、この身体に馴染んでいくような気にさせられる。


「へぇー、それは良かったニャー。私のことを放置してずいぶんとお楽しみだったみたいだしニャー。私は独りで待ちぼうけ…………。ホントやってられないニャッ!!」


ニーニャは一人でひたすら怒っていた。

色々と手伝ったのに何もご褒美を得られなかったのだから、それも当然のことだ。

楽しみにしていた分、怒りが倍増している。

しかし、

恭司はそんなニーニャに構っている余裕はなかった。

気分がこの上なく上がってしまったおかげで、もう身体が今にも暴れ出しそうになっているのだ。

せっかく使えるようになった数々の技たちを、今すぐにでも試してみたい。


「てか…………カザル、なんかデカくなったニャ?明らかに身体付きがおかしくなっているニャ…………。出会った時はもっとスラッとしてたニャ?」


今回の強化で、恭司の身体は以前よりもさらに一回り大きくなっていた。

この世界で目覚めてから3日目────。

もう最初の時とは完全に別人だ。

腕が足が胴がそれぞれビルドアップされ、元々怖かった雰囲気がより禍々しいものへと変化している。

そこに『中伝』の技まで使えるようになったのだから、既に元のカザルの時とは雲泥の戦闘力だ。

シバから奪った最高峰の武器の存在や、その凶悪な精神性も手伝って、完全にヒューマン史上最悪の怪物と化している。


(マズいな…………。今すぐにでも何か斬らないと…………ニーニャを斬ってしまいそうだ…………)

「カザル…………?ちょっと、聞いているのかニャ?さっきから一体どうしたのニャ?やっぱりオークなんか食べたから、具合が悪くなったのかニャ?」


ニーニャはそう言って表情を曇らせた。

こんな仕打ちを受けておきながらまだ心配してくるあたり、本当に性格の良い猫だ。

恭司は刀に手を掛けると、ニーニャを無視して、瞬動ですぐさま跳ぶ。


「ニャニャッ!?」


瞬動も以前より速くなっていた。

足の筋肉が強くなったおかげだ。

驚くニーニャを他所に、恭司は少し離れた所に立って、狂気に満ちた笑顔と共に目を見開く。

明らかにヤバい空気と雰囲気だ。

白い覇気が口から漏れ出ている。


「え……ッ!?え……ッ!?」

「悪いな…………。気分が高揚して…………今はそれどころじゃないんだ…………。少し………………"静めて"くる」

「ち、ちょっと、カザ……ッ!?」


止めようとするニーニャの声すらも無視して、恭司は夜明けの死の森を瞬動で跳び回った。

身体が軽く、前世の自分により近づいているのを感じる。

まだ完全ではないものの、これだけでも充分すぎるほどに好調だ。

早く速く誰か斬らないと、理性が吹き飛んでしまいそうな気さえする。


「ハァハァハァハァハァハァ……ッ!!フハハ……ッ!!ハハハハ……ッ!!」


森を一人で進む傍ら、恭司の表情は狂気と殺意に歪みきっていた。

もう本能だけで動いているようなものだ。

獲物が欲しい────。

何か斬りたい。

早く斬りたい。

この疼きを衝動を、どうにかする生贄が欲しい。

欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい────ッ!!


「フハッ!!フハハハハ…………ッ!!ハァーッハハハハハハハハハハハハハハハハハハァァァアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」


森中に響き渡る、不気味で狂気的な笑い声────。

…………それはまるで、飢えたケモノのようだった。

凶暴で制御のきかない鬼の本性が、力の解放と共に猛り狂っているのだ。

兎にも角にもその牙を突き立てる相手が欲しくて、恭司は朝になったばかりの森の中を駆け回る。

腹が減りすぎたら食べ物を探すように────。

不眠の限界がきたら寝てしまうように────。

ここにきて、殺人衝動が抑えられなくなっているのだ。

力が有り余りすぎて、行き場を失っている。

異常なテンションだ。

この疼きを満たすまではもう…………もう、誰にも止められない。

そして…………

森を走って数分────。


「見 ツ ケ タ ゾ ッ!!」


瞬動でバカみたいに広く速く跳び回ったおかげで、恭司はあっという間に森を歩く『コボルト』の一団を見つけられた。

『コボルト』はオークよりもさらに弱く、冒険者たちの間では『Dランク』に類する魔獣だ。

さらに、コボルトはオークと違って食べても美味しくない上に、知能もそれほど高くないときている。

貧弱で頭が悪くて食べても美味しくない不要物────。

それでも、一応戦力として兵隊にでもしておけば何かしら使い道もあるかもしれないが、あいにく今の恭司は、"ご機嫌"なのだ。

だから…………

どんな奴だろうともう…………関係ない────ッ!!


「が、ガウ…………ッ!?」


遠くから瞬動でいきなり近づいてくる恭司を遠目で見て、1匹のコボルトが反応した。

遠くからホンの少し影が見えた程度だが、野生の本能が危険を察知したのだ。

しかし…………

1匹気づいた所で、もう遅い────。


「ハァーッハッハァァァァアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」


恭司は強化された瞬動で勢いよく彼らに近づくと、『技』を放った。

三谷の『中伝』が一つ、『一線』────。


「ガ…………ッ!!」

ズシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!


ホンの数瞬の出来事だ。

横向きの一本の線がコボルトの一団に引かれたかと思うと、そこをなぞるように斬撃が"後に残る"。

そして、

ただその一瞬にして、その場は血と肉がバラバラに吹き散らかった。

叫び声なんて、上げる暇も時間もない。

10匹はいたであろう彼らは、気づいた頃にはもう全員この世にいなかったのだ。

惨たらしい10匹分の死体だけが、そこに投げ捨てられたかのようにベシャリと取り残されている。
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