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【第四章】魔族

【第二十六話】中伝 ②

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「…………そういえば、この辺りの魔族っていうのは、このオーク以外にもいるのか?」


とりあえず、状況を把握するための質問をしてみた。

どうせなら、今後の活動に役に立ちそうな情報を得ようと思ったのだ。

恭司の前世にも魔族はいたが、ニーニャ自身が然りで、恭司も知らない魔族はそれなりに数多くいる。

単に恭司が知らないだけなのか、この世界だからこそ存在しているのかは不明だが、とりあえず知れる範囲で知っておくのは重要なことだ。

場合によっては、それが今後のキーポイントになるかもしれない。

恭司は身体と準備が整い次第、再びクロスロード帝国へと攻め込むつもりだが、流石に先と同じ轍を踏むつもりはないのだ。

もし可能そうなら、『魔族を使う』というのも、選択肢としては有りかもしれないと思っている。


「んー、まぁ…………けっこういるニャよ?『リザードマン』とか『オーガ』とか…………あとは『ゴブリン』に『コボルト』に『トロール』…………『リッチ』なんかもいるニャ」

「ほぉー、けっこう多彩だな…………。一応知っている奴ばかりだったのは幸いだが……」

「そうなのかニャ?正直、こことは別の世界とか言われても、あんまりよく分からないニャ」

「まぁ、そうだろうな…………。ちなみに、今さらだが、ニーニャは何の種族なんだ?前世では一度も見たことがない種族なんだが……」


恭司がそう尋ねると、ニーニャはいきなり「フッフッフッフッ」と笑い出した。

本人曰く、やたらと『孤高』だとか『周りが慄いて近づいてこない』とか色々言っていたから、何かは知らないが、おそらくは自慢できる種族なのだろう。

実はそこまで強い興味があるわけでもないものの、所詮は時間潰しだ。

ニーニャが喋りたそうにしているから、恭司はとりあえず聞いてやることにする。


「フフフフフフ…………。聞きたいかニャ?聞いてみたいかニャ?そうニャねぇ…………。カザルもやっぱり気になるよニャ~」

「………………」


…………ちょっとウザかった。

まぁ、ホンの数時間とはいえ、これだけ一緒にいればこんな絡みも慣れたものだ。

変な奴だしお調子者だが、ついつい"前世の時の幼馴染"を思い出して、甘くなってしまっているのは否めない。

それに、

ニーニャはこれでも、一応は恭司の命の恩人なのだ。

いくらイライラしていても、刀にだけは手をかけないでおく。


「やれやれ…………。仕方ないニャア~。そこまで聞きたいのであれば、教えてやるニャ…………。驚いても腰を抜かすニャよ?」

「………………」

「私は実は……………………そうッ!!『竜種』なのニャッ!!」

「猫じゃないのかッ!?」

「違うニャッ!?何でそんな風に思うのかニャッ!?この耳かニャッ!?」

「語尾だよッ!!」


まさかここまで「ニャーニャー」言っておきながら、猫じゃないとは思わなかった。

確かに驚きだ。

人は…………いや、魔族は、見た目によらない。


「失礼しちゃうのニャッ!!この喋り方は生まれ付きニャッ!!名前のことといい、コレといい…………カザルはとても無礼なのニャッ!!」

「いや、コレは仕方ないと思うがな…………。というか、生まれつきなら、やっぱり猫なんじゃないのか?」

「まだ言うのかニャッ!?もうこの話はおしまいニャッ!!私は機嫌を損ねたニャッ!!」


ニーニャはそう言って、プンプンと顔を背けてしまった。

本人がそう言っている以上、確かにこの話はここまでにした方が良さそうだ。

きっと、本当は猫なのに自分を竜だと言い聞かせている可哀想な奴に違いない。

どうりで、周りの魔族たちが近づかないわけだ。

独りが長すぎた弊害なのかは分からないが、周りからも痛すぎて距離を置かれているのだろう。

流石に不憫だ。

世の中には、色んな奴がいる。


「…………何か失礼なことを考えているニャ?」

「考えてねぇよ」


考えていた。

意外と鋭い一面もあるようだ。

本当に、見かけによらない。


「まぁ、別にいいけどニャ…………。それより、その作業はまだ終わらないのかニャ?アレからもうけっこう経ったニャ」

「そろそろだよ…………。そういえば、このオークどもは人里が近いからこの辺りにいたんだよな?ニーニャも人里にはよく行くのか?」


恭司はニーニャが最初にヒューマンの豚肉を持ってきたことを思い出していた。

「奪った」とも言っていたし、関わりはあるのだろう。

最初にニーニャと会った場所は死の森の『奥地』だと言っていたから、少し気になったのだ。

これから攻める上でも、ヒューマン側の動きもなるべくは知っておきたい。


「まぁ…………そこそこ行くニャよ?オークと違って、ヒューマンは家畜……?とかいう技術で、わりかし美味い肉を作るのニャ。カザルもヒューマンなら、オークなんかよりそっちを食べるべきニャッ!!」

「いやまぁ、嗜好は人それぞれだからなァ…………。ちなみに、その人里の連中は何でそんな所に街なんて作ってるんだ?ヒューマンにとっては、この死の森は危険な場所なんだろ?」

「んー、その辺りのことは私も詳しくは知らないニャー?でも、なんかよく武装した奴らが魔族を狩りにやってくるニャ。もしかして、カザルと同じような奴らなのかニャ?」

「いや…………」


おそらくそれは…………『冒険者』だろう。

先日、その辺りのことはあのチンピラに聞いたばかりなのだ。

冒険者は、魔族を狩って報酬を得たり、部位を剥ぎ取って金に変える連中だと聞いている。

その冒険者が拠点にしている街ということは、この辺りは彼らにとっての"狩場"になっているに違いない。

ヒューマンはこの死の森を開拓していきたがっているとも聞いているし、おそらくは先遣的な意味合いになっているのだろう。

少し興味のある話題だ。

恭司はさらに話を深掘りしていく。


「状況的にはどうなんだ?魔族の方が優勢なのか?」

「いやー、最近はそうでもないニャアー…………。あいつら、何かよく分からないけど、倒しても倒してもすぐ回復してくるのニャ…………。一人やったと思ったら、トドメを刺す前にすぐ次の奴らが出てきて、それを相手している内に最初の奴が復活してくるニャ…………。めっちゃ鬱陶しいニャ」

「あぁ…………。なるほどな」


『すぐ回復してくる』については、心当たりがありすぎていた。

十中八九、『ヒールポーション』によるものだろう。

恭司自身もそれによって生きながらえたということもあり、アレの脅威は非常によく分かっている。

アレを敵に使われるのは確かに面倒だ。

恭司はいつも使われる前に始末出来ているからまだマシだが、一撃で殺せないオークやゴブリンなんかにとっては、正直キツいに違いない。

さらに、

ヒューマンは魔族と違って集団行動が基本だし、『魔法』や『スキル』なんて反則技も有しているのだ。

前衛と後衛に分かれて連携でもされれば、確かに厄介な存在かもしれない。
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