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【第三章】亜人種

【第二十一話】魔術師 ⑥

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「クク…………。頃合いだな」


恭司は住民たちの後ろで幻影に紛れながら、嫌らしい笑みでそう呟いた。

こうなれば、後は簡単なものだ。

"住民たちに"、始末させればいい────。

何も、恭司が直接やる必要はないのだ。

攻撃できないならそのまま、守るべき者たちの手によって失意と無念の中で死ねばいい。

自分の安全は確保できるし、下手に反撃される恐れが無い分効率的だ。

コレが終われば、後はトバルを殺って身を隠すだけ────。

街に潜って、街を滅ぼせるだけの力を蓄えるだけだ。

恭司は命じる。


「やれ、奴隷どもよ────。その女を、全員で八つ裂きに……ッ!!」


しかし…………

その瞬間だった。

いざ、恭司が奴隷に命令を下そうとした、その瞬間────。


「そこまでだよ」

「…………ッ!?」


ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!


何か声が聞こえてきたかと思うと、恭司はいきなり、その場から吹き飛ばされた。

不意打ちだ。

完全に意識外の一撃で、受け身の一つすら取れない。


「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ッッッ!?!?!?」


いきなりすぎて、言葉が上手く出てこなかった。

完全に意味不明の事態だ。

訳が分からない。

その男は、数多の幻影の中にいた恭司を、まさかの"ピンポイントで"蹴り飛ばしてきたのだ。

本来なら、これだけ沢山いる恭司の中からオリジナルの居場所など分からないはず────。

対応策なんて、『幻影ごと一気に殲滅』くらいしかないはずなのだ。

そうさせないために、恭司はわざわざ住民や獣人たちと一緒に紛れていたのだから、それ以外の対処法なんてあるはずがない。

なのに──────。


「何だァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?」


恭司は反射的に叫んだ。

向こうから一方的で派手にやられたにも関わらず、やられた側の恭司は事態がまるで把握できないのだ。

もちろん、油断したつもりはない。

気配も予兆も何もなかった所に、突然オリジナルの恭司だけが唐突に吹き飛ばされたのだ。

今度は恭司の方がパニックになって、恭司はすぐさま自分がさっきまでいた場所に目を向ける。

そこにいたのは、垢抜けた顔立ちをした一人の男────。

見たことのない服を着た、童顔の青年だった。

その男は他に3人の女性を連れていて、女性たちはそれぞれ剣と大盾と杖を持っている。

男性が持っているのは、"刀"だ。

男は刀を持ちながら、自身の周りに"複数"の"火の玉"を展開している。

アレは、知っている攻撃だ。


「ファイアーボールッ!!」


男はそう叫ぶと、その無数の火の玉を恭司に向けて一斉に放ってきた。

どうやらこの男についても、魔法に詠唱は必要ないようだ。

火の玉自体はローリーと一緒だろう。

ついさっきも見ている分、対処は容易い。


「クソが…………ッ!!」

ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドォォォオオオオオオオオオオオオオオ…………ッ!!


恭司は混乱しながらも、自らに向かってきたそれらを全て三日月で撃ち落とした。

だが、

撃ち落とした頃には、もうそこに男の姿は無い。

それもまた、知っているスキルだ。

スキル、『ソニックムーブ』────。


「く…………ッ!?」


ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ!!


一瞬にして自分の目の前にやってきた男の繰り出してきた斬撃を、恭司は辛くも刀で受け止めた。

足下の地面が勢いで抉れ、恭司自身も後ろへ押される。

思いの外…………強い力だ。

見た目に反して、剣技も出来るらしい。

あの刀は、飾りでもフェイクでもなかったということだ。

魔法だけではない。

すると…………


「…………ッ!!」


鍔迫り合いの最中、今度は足下に妙な気配を感じた。

コレは、知らない気配だ。

恭司はすぐさま男の刀を弾くと、上へ跳ぶ。


ドガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!


その途端────。

さっきまで恭司のいた所に、大きな土のトゲが出来上がっていた。

土が急に形態を変えたのだ。

いきなり来て、知らないモノを持ち出されて、状況がさっきから何一つ理解できていない。


「流石…………"実戦"は違うな…………。なら、これならどうだッ!?」


男はさらに苛烈に攻撃を仕掛けてきた。

『水』が『土』が『火』が『風』がいくつも何度も、同時に放たれ展開される。

相も変わらず訳の分からない状況だ。

恭司はひたすら、回避に専念することしかできない。


「な、何だ、コレはァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」


『ウォーターボール』『ストーンブラスト』『ファイアーランス』『ウィンドカッター』『アイスボール』『ストーンバレッジ』『ファイアージャベリン』『ウィンドボム』────…………。


全てが全て、知らない魔法ばかりだった。

回避し続けるにも限界だ。

初見で予想するには、コレらはいくら何でも多様すぎる。


「ば、バカな…………ッ!!『4属性』だとッ!?」
「こんなの、見たことも聞いたこともない……」
「あのローリー様だって、『3属性』が限界なのに…………ッ!!」


男の周りの女性たちから声が上がった。

言っている内容はよく分からないが、とにかくこの男がヤバい存在だということだけは確かだ。

恭司は使うことにする。


「クソ…………ッ!!来い、奴隷どもォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

「…………ッ!!」


恭司は住民たちを呼んだ。

そう…………

"盾"にするのだ。

その瞬間────。

ローリーの前に集まっていた住民たちは恭司の前に移動し、怯えた表情でその男を見る。

それでも尚、男はまだ余裕のある様子だ。

男は住民たちに向け、手をかざす。


「なるほど、『隷属の首輪』か…………。罪のない住民たちを一方的に奴隷化するなんて、"信じられない"話だ…………。大丈夫。今、楽にしてあげるからね」


すると…………

その男がそう言った途端、眩い光が辺りを包んだ。

コレも、恭司の知らない魔法だ。

神々しく輝いた光────。

男は言う。


「"光属性""最上級"魔法…………『ホーリーキュア』…………ッ!!」


その時────。

その光が徐々に粒子に変わっていったかと思うと、まるで雪のように住民たちへ降り注いだ。

"解呪"の魔法だ。

その粒子が身体に触れると、住民たちの首にかけられていた『隷属の首輪』が、ガシャガシャと一斉に取り外されていく。


「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!?」


恭司は何が起きているのか分からず、驚愕に慌てふためいた。

たった一つの魔法────。

そんなモノで…………そんな簡単に…………『隷属の首輪』が外れる────?

そんなことができてしまうのなら、この『奴隷』という制度自体が壊れてしまうはずだ。

こんなデタラメが、あり得ていいはずがない。


「ひ、『光属性』…………ッ!?しかも『最上級』ッ!?そんなの、『教皇』様しか使えないはず……ッ!!」
「嘘…………。『5属性』なんて……」
「こんなの普通、あり得ないぞッ!!」


また女性たちから声が上がった。

彼らは外野でワーワーと騒いでいるが、恭司としてはそれどころじゃないほどの展開だ。

コレも『職業』や『スキル』によるものだとすれば、流石に贔屓が過ぎている。

まるで努力や発想、秩序を、土足で踏み躙るかのような存在だ。

あの神ならそれもあり得るのかもしれないが、だとしてもコレは…………やり過ぎている。


「バカな…………」


絶望に満ちた声────。

この男がやってきてから、どうにも不測の事態だらけだった。

さっきから、やたらと不可思議なことばかりが起きているのだ。

幻影と一緒にいた恭司のオリジナルをすぐに見抜いてきたことといい、『多種多様』な知らない魔法を『連発』できることといい────。

さらには、隷属の首輪を奴隷商人無しに一方的に取り外すなど────。

『規格外』にも程がある。

しかし…………

その当の本人はというと、何か都合の悪いことでもあるのか、ずいぶんと気まずそうな様子をしていた。

まるで、自分が普通だとでも思っていたかのような顔だ。

男は女性たちの方を振り返ると、半笑いで呟く。


「あの…………。俺また何か、やっちゃいました?」


ブ チ 殺 す ぞ 、 ガ キ が ッ ! !


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