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【第三章】亜人種
【第十六話】奴隷商人 ⑤
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「な…………ッ!?」
あまりに突飛すぎて、トンカーは言葉がすぐには出てこなかった。
住民…………?
捜索隊…………?
一体何故、そんなことを…………?
いや…………その答えは分かっている。
というより、他に考えようもないのだ。
(どうりで…………『奴隷』よりも『奴隷"商人"』である私に興味を持つわけだ……)
恭司は戦闘力に期待できるあの少女の奴隷を、ただ生かしただけで放置してきた。
恭司は最初から、1人2人程度の奴隷なんて求めていないのだ。
欲しいのは数と、"注目度"────。
奴隷の戦闘力になんて、特にこれといって期待なんてしていない。
恭司は何の罪もない人間や亜人種たちを、"これから"奴隷にして、目眩しや道具に使うつもりだった。
特に亜人種や捜索隊は、奴隷にできれば酷く使い勝手が良いことだろう。
敵である聖騎士や冒険者たちも、そんな奴らに向かってこられては流石に放置はできないはずだ。
そして、
放置できなければ、そこに隙ができる。
そうすれば、
恭司がロアフィールド家に侵入して目的を達成することも、可能になるのだ。
街の混乱や他戦力に陽動をさせれば、勝手知ったる屋敷に侵入など容易い。
仮にそれで全ての実力者を釘付けにすることができれば、それでさらにより大きな企みだって実行しやすくなることだろう。
正に、悪党そのものの考え方だった。
恭司はどこまでも…………相手の『良心』や『モラル』の心を利用しようとしている。
何番煎じだろうと、自分から『正義』を掲げる相手に、人質は極めて優秀な成果を発揮してくれるのだ。
さらに、
街中であるここは、恭司にとっては正に人質の宝庫────。
敵にとっての人質たり得る人材が、そこら辺に山ほど存在している。
恭司は昨日もユーラット相手に同じようなことをしているが、彼らはまだ住民の避難などの具体的な対策は取れていなかった。
それもそのはずだ。
これは未だ昨日の今日の出来事で、住民がカザルに利用されることが分かっていようと、この短期間では彼らを逃がすための場所も言い分もない。
本来はその逃がす先こそが、この王都であるべきなのだ。
ここで無理矢理にでも近隣の街に王都の住民を移動させようものなら、多大な混乱を招くのは必至だろう。
場合によっては、反乱の火種にすらなりかねない。
だから…………
今のところ、彼らは大掛かりな対応策は何も取りようがない状況だった。
恭司にとっては、その今こそがチャンスだと言える。
それでも殺せば目立ってしまうだろうが、奴隷にして無理矢理操ればその視線も多少は躱すことができるのだ。
王都の住民たちを、知らず知らずのうちにこっちへ引き込んでしまうことも可能かもしれない。
そうなれば本当に面白いことになるだろう。
やりようによっては、国の乗っ取りだって現実的な話になるかもしれない。
しかし…………
「ふ、不可能ですッ!!神、ロスベリータ様の名において、奴隷とできるのは"亜人種"か"犯罪者"のみなのですッ!!ヒューマンの一般人を奴隷になど、出来るはずもありませんッ!!」
『隷属化スキル』は、決して万能などではなかった。
職業『奴隷商人』の『ユニークスキル』ではあるものの、奴隷商人自体がそこまで珍しい職業でもないし、元々それほど大層なスキルでもないのだ。
『人を強制的に従わせる』スキルは非常に強力な効果を発揮する反面、制約はその分沢山ある。
その中で最も大きいのが、その"犯罪者"という縛りだ。
奴隷に落とされるには相応の理由が必要で、「人を殺した」や「金を払えない」などの"教会法"上の罪を犯していなくてはならない。
さらには、
その奴隷落ちした者に『隷属の首輪』まで付ける必要があった。
『隷属の首輪』も、奴隷商人だけに許された『生産スキル』だ。
奴隷商人のみが、その首輪を作成することができる。
そして、
その首輪もまた、犯罪者か亜人種相手にしか効果を発揮しない代物だった。
結局は全て、そこに繋がってしまうのだ。
どれだけ便利でも、犯罪者と亜人種相手にしか使えない。
ここまでくれば、『奴隷商人』は商人というよりは、警察のような自治スキル程度の代物になってしまうのが現状だった。
一方的に支配なんて以ての外だ。
流石に職に炙れるほどではないが、希少性もないが故に、数ある職業の中では『不遇』と言っていい。
しかし、
恭司は続けた。
「ふーん…………。ちなみに、その犯罪者というのは、どうやって見分けるんだ?」
「犯罪を犯せば、我々ヒューマンは"ステータスプレート"に罪科の『称号』が付きます!!それを『鑑定』のスキルを持つ者にチェックしてもらうのですッ!!ステータスだけは、誰も欺けませんからねッ!!」
「ほぅ…………。ステータスプレートとやらはよく分からないが、要は"犯罪者"ならいいわけか?」
「え…………?え、えぇ…………。まぁ、その通りですが……」
「ふむ…………。なるほどな」
恭司はそう言って顎に手を当て、考えた。
それならまだ、"何とかなる"。
時間は多少かかってしまうかもしれないが、対処自体は非常に"簡単"な話なのだ。
だが、
"足りない"────。
それではまだ、足りないのだ。
だから、
恭司はさらに尋ねる。
「聞きたいんだが…………この国には、一体どれだけの"亜人種"の奴隷が確保されている…………?」
「え…………ッ!?あ、亜人種ですかッ!?」
トンカーは言いどもり、見るも明らかなほどに狼狽えていた。
心当たりなら…………"ある"。
ありすぎているのだ。
でもそれは、安易に肯定するのはあまりに危険な情報で、受け答えは慎重にならざるを得ない。
下手をすれば今よりもさらに悲惨な結果になるかもしれないのだ。
できることなら何も話したくはない。
しかし、
恭司は引き下がらなかった。
むしろ、このトンカーの反応を見るに当たりのようだ。
恭司は尚も、トンカーを追い詰めていく。
あまりに突飛すぎて、トンカーは言葉がすぐには出てこなかった。
住民…………?
捜索隊…………?
一体何故、そんなことを…………?
いや…………その答えは分かっている。
というより、他に考えようもないのだ。
(どうりで…………『奴隷』よりも『奴隷"商人"』である私に興味を持つわけだ……)
恭司は戦闘力に期待できるあの少女の奴隷を、ただ生かしただけで放置してきた。
恭司は最初から、1人2人程度の奴隷なんて求めていないのだ。
欲しいのは数と、"注目度"────。
奴隷の戦闘力になんて、特にこれといって期待なんてしていない。
恭司は何の罪もない人間や亜人種たちを、"これから"奴隷にして、目眩しや道具に使うつもりだった。
特に亜人種や捜索隊は、奴隷にできれば酷く使い勝手が良いことだろう。
敵である聖騎士や冒険者たちも、そんな奴らに向かってこられては流石に放置はできないはずだ。
そして、
放置できなければ、そこに隙ができる。
そうすれば、
恭司がロアフィールド家に侵入して目的を達成することも、可能になるのだ。
街の混乱や他戦力に陽動をさせれば、勝手知ったる屋敷に侵入など容易い。
仮にそれで全ての実力者を釘付けにすることができれば、それでさらにより大きな企みだって実行しやすくなることだろう。
正に、悪党そのものの考え方だった。
恭司はどこまでも…………相手の『良心』や『モラル』の心を利用しようとしている。
何番煎じだろうと、自分から『正義』を掲げる相手に、人質は極めて優秀な成果を発揮してくれるのだ。
さらに、
街中であるここは、恭司にとっては正に人質の宝庫────。
敵にとっての人質たり得る人材が、そこら辺に山ほど存在している。
恭司は昨日もユーラット相手に同じようなことをしているが、彼らはまだ住民の避難などの具体的な対策は取れていなかった。
それもそのはずだ。
これは未だ昨日の今日の出来事で、住民がカザルに利用されることが分かっていようと、この短期間では彼らを逃がすための場所も言い分もない。
本来はその逃がす先こそが、この王都であるべきなのだ。
ここで無理矢理にでも近隣の街に王都の住民を移動させようものなら、多大な混乱を招くのは必至だろう。
場合によっては、反乱の火種にすらなりかねない。
だから…………
今のところ、彼らは大掛かりな対応策は何も取りようがない状況だった。
恭司にとっては、その今こそがチャンスだと言える。
それでも殺せば目立ってしまうだろうが、奴隷にして無理矢理操ればその視線も多少は躱すことができるのだ。
王都の住民たちを、知らず知らずのうちにこっちへ引き込んでしまうことも可能かもしれない。
そうなれば本当に面白いことになるだろう。
やりようによっては、国の乗っ取りだって現実的な話になるかもしれない。
しかし…………
「ふ、不可能ですッ!!神、ロスベリータ様の名において、奴隷とできるのは"亜人種"か"犯罪者"のみなのですッ!!ヒューマンの一般人を奴隷になど、出来るはずもありませんッ!!」
『隷属化スキル』は、決して万能などではなかった。
職業『奴隷商人』の『ユニークスキル』ではあるものの、奴隷商人自体がそこまで珍しい職業でもないし、元々それほど大層なスキルでもないのだ。
『人を強制的に従わせる』スキルは非常に強力な効果を発揮する反面、制約はその分沢山ある。
その中で最も大きいのが、その"犯罪者"という縛りだ。
奴隷に落とされるには相応の理由が必要で、「人を殺した」や「金を払えない」などの"教会法"上の罪を犯していなくてはならない。
さらには、
その奴隷落ちした者に『隷属の首輪』まで付ける必要があった。
『隷属の首輪』も、奴隷商人だけに許された『生産スキル』だ。
奴隷商人のみが、その首輪を作成することができる。
そして、
その首輪もまた、犯罪者か亜人種相手にしか効果を発揮しない代物だった。
結局は全て、そこに繋がってしまうのだ。
どれだけ便利でも、犯罪者と亜人種相手にしか使えない。
ここまでくれば、『奴隷商人』は商人というよりは、警察のような自治スキル程度の代物になってしまうのが現状だった。
一方的に支配なんて以ての外だ。
流石に職に炙れるほどではないが、希少性もないが故に、数ある職業の中では『不遇』と言っていい。
しかし、
恭司は続けた。
「ふーん…………。ちなみに、その犯罪者というのは、どうやって見分けるんだ?」
「犯罪を犯せば、我々ヒューマンは"ステータスプレート"に罪科の『称号』が付きます!!それを『鑑定』のスキルを持つ者にチェックしてもらうのですッ!!ステータスだけは、誰も欺けませんからねッ!!」
「ほぅ…………。ステータスプレートとやらはよく分からないが、要は"犯罪者"ならいいわけか?」
「え…………?え、えぇ…………。まぁ、その通りですが……」
「ふむ…………。なるほどな」
恭司はそう言って顎に手を当て、考えた。
それならまだ、"何とかなる"。
時間は多少かかってしまうかもしれないが、対処自体は非常に"簡単"な話なのだ。
だが、
"足りない"────。
それではまだ、足りないのだ。
だから、
恭司はさらに尋ねる。
「聞きたいんだが…………この国には、一体どれだけの"亜人種"の奴隷が確保されている…………?」
「え…………ッ!?あ、亜人種ですかッ!?」
トンカーは言いどもり、見るも明らかなほどに狼狽えていた。
心当たりなら…………"ある"。
ありすぎているのだ。
でもそれは、安易に肯定するのはあまりに危険な情報で、受け答えは慎重にならざるを得ない。
下手をすれば今よりもさらに悲惨な結果になるかもしれないのだ。
できることなら何も話したくはない。
しかし、
恭司は引き下がらなかった。
むしろ、このトンカーの反応を見るに当たりのようだ。
恭司は尚も、トンカーを追い詰めていく。
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