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【第二章】基本技の習得

【第十二話】大殺戮 ③

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「この外道がァ…………ッ!!正々堂々と戦えェェェエエエエエエエエエエエエエエエエッ!!」


ユーラットは叫びながら、何度も住民のためにホーリーウォールを展開せざるを得なかった。

自分が狙われるよりよっぽど大変だ。

住民に向けてひっきりなしに放たれる三日月に対し、ユーラットは逐次スキルを発動していく。

それは、ユーラットにとっては正に最悪の状況だった。

前述した通り、スキルにはそれぞれ1日あたりの『使用回数』が存在しているのだ。

当然、『ホーリーウォール』にだってそれはある。

使用回数はレベルと『熟練度』によって増えていくのだが、レベル60のユーラットでさえ、聖騎士のスキルをそう何度も使用し続けることは不可能だった。

ホーリーウォールは上位スキルの中でもまだマシな方だが、それでもこのままいけばいずれはスキルを使えなくなり、住民たちを守れなくなってしまうだろう。

スキルで攻撃に転じようとも、接近系のスキルは読まれてしまっているし、広範囲にしたら確実に住民たちにも当たってしまうのだ。

となればもう…………

選択肢は、一つしかない。

そう…………

カザルが言っていた通りの、"接近戦"だ。

ユーラットは叫ぶ。


「畜生…………ッ!!やってやるよ、クソッタレェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエッ!!」


ユーラットはカザルがスラッシュを放ったと同時に、動き出した。

スキル『ソニックムーブ』だ。

ソニックムーブで住民の前に立ったユーラットは、生身の剣技で三日月を弾き返す。

そして、

そこから流れるように足が動いた。

聖騎士ならではの職業補正で与えられた剣技が、ユーラットの動きを細かい所までサポートしてくれるのだ。

半自動で手も重心も速く細かく動き出し、剣技の型が整っていく。

1秒もした頃には、ユーラットの姿はカザルの目の前にあった。


「死ねェェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエッ!!」


さらに、

そこから即座に繰り出される一撃────。

光ってはいない。

そう、コレは…………

スキルを使っていない、聖騎士としての"素の剣技"だ。


「ハァーッハッハァッ!!待っていたぞ、この時をォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」


ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ!!


剣と剣の、ぶつかりあう音が響く。

ユーラットのそれに対し、カザルは嬉々として応じてきた。

元々そのためにこんなことをしていたのだ。

スキルによる遠距離技の使えない位置で戦いたいからこそ、カザルは今、住民たちに姿を晒してまでここにきている。

本来なら逃亡者であるカザルは、こんな表舞台にわざわざ来たくはなかったのだ。

自分の正体を知る者を自ら増やしたいわけがない。

そして、

ユーラットは怒りに身を任せながら、そんなカザルに向けて幾度となく斬撃を繰り出していった。

職業補正による卓越した剣技────。

聖騎士による『剣技(上)』だ。

カザルもまたそれに合わせて剣を振るい、再び剣戟が始まる重なる紡ぎ出す。


「「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」」


もはや3度目になる、スキル未使用の斬り合いだった。

剣と剣が目まぐるしくぶつかり合い、お互い相手を斬れずに続く攻防────。

見た目だけはさっきと同じだ。

攻撃したら防がれ、攻撃されたら防ぐやり取りを、さっきの続きとばかりに何度も何度も交わし合う。

しかし、

その攻防は、どこまでもさっきと同じとはいかなかった。

"予想外"は続く。

そう…………

剣戟を始めて数合打ち合ったらすぐに、カザルはユーラットを"押し始めた"のだ。


「な…………ッ!?」


ユーラットは驚愕に目を見開く。

訳が分からない状況だった。

さっきまでは互角だったはずだ。

互いに押し切れなかったはずだ。

それなのに…………

今では確実に、カザルがユーラットを圧倒し始めている。

全くを持って意味不明だった。

というより、こんな展開はあり得ないのだ。

どう考えても、あり得るはずがない。

なんせ、さっきと今で、時間としてはホンの数十分程度しか経っていないのだ。

それなのに…………

この短時間で成長した────?

最初から手を抜かれていた────?

いやッ!!そんなはずはないッ!!


(なのに何故────ッ!!)


カザルはそんなユーラットの様子を見ながら、嫌らしく笑った。

カラクリは非常にとてもかなりシンプルかつ、簡単なことだ。

単に、恭司がユーラットの剣技を覚えただけ────。

聖騎士が故の数多くある全ての剣技のパターンを、1つずつ理解しただけのことでしかない。

上級職だけあって騎士や上位剣士よりも倍近く時間はかかったが、元々時間さえ掛ければ問題なくできる作業だった。

だからこそ────。

恭司はこの直接の斬り合いに持ち込みたかったのだ。

スキルを使えない状況にさえしてしまえば、素の剣技で恭司が負けるはずなどない。


「フハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ…………ッ!!さァ、どうしたどうしたァッ!!住民たちが見ているぞッ!?ロスベリータを頂く聖騎士様が、こんな『無能者』相手に手こずっていても良いのかァッ!?」

「く…………ッ!!」


恭司はユーラットに剣技で畳み掛けながら、嘲るように言葉を投げ付けた。

ユーラットはもはや悔しさのあまり涙を流しつつも、ただただ防戦一方となるしかない。

反撃の機がこないのだ。

さっきからずっと、カザルにされるがままの状態になっている。

こちらの攻撃は全て読み切られ、こちらはただ…………ただ相手の攻撃を防ぐだけの状況になっていた。

いや、もはや防ぐことすらもギリギリだ。

さっきと違って、剣技にあまりにも差がありすぎる。


「何故だ…………ッ!!一体…………ッ!!一体、何故ェェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエッ!!」


無力────。

ただただ、無力────。

聖騎士という恵まれた職業を手にした上でも、ユーラットはこれまで散々努力を積み重ねてきた。

住民たちを守るため────。

子どもたちを守るため────。

そして…………

聖騎士としての誇りを守るため────。

ユーラットはずっと…………ずっと努力し続けてきたのだ。

それなのに、結果はこの通りだ。

自分の土俵である『戦闘』ですら、『無能者』を相手に遅れを取る。

こんな時こそ、自分が役に立たなければならないのに────。

皆の模範とならなければならないのに────。

スキルが使えないはずの相手に、これほどの無様を晒している。

そんな事実だけが、ユーラットの背中に重くのしかかってくるのだ。
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