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【第二章】基本技の習得

【第十一話】聖騎士 ⑤

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「な…………ッ!?何だ、コレは…………ッ!?」


恭司は驚愕に目を見開いた。

コレは、恭司の知らないスキルだ。

見たことも…………

そして、

聞いたこともない。

完全に初見のスキルだった。

恭司は急遽作戦を変更する。

どこからどう考えてもヤバい予感しかしないからだ。

すると…………


ドガァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!


さっき発光した地面から、眩い光の粒子砲が一斉に吹き上がった。

発光した地面全てだ。

ユーラットを除く全ての発光箇所が、真上に向かって破壊の光線を一斉に打ち放つ。


「コレがッ!!神ッ!!ロスベリータ様の…………ッ!!力の一端だァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」


スキル『シャインエクスプロージョン』────。

正に、聖騎士の奥義とも呼べるスキルだった。

ホーリーインパクトに驚いている場合じゃない。

発光した地面からただただ真上に光の光線を放つこの技は、おそろしく広範囲で圧倒的な破壊力を持っていたのだ。

当たった時のことなんて考えたくもない。

コレは、聖騎士の中でも高レベルまでステータスを上げた者にしか使うことはできないスキルだった。

文字通りの、"最上級"スキル────。

ユーラットの奥義だ。


「くそ…………ッ!!」


恭司は舌打ちを零しつつ、建物の上に避難する。

発光しているのは地面だけだったから、建物の上はセーフだったのだ。

建物には傷を付けず、綺麗に範囲指定された場所のみを対象にしている。

ユーラットの正義感に救われた。

だが、

それでホッとしている場合ではないのだ。

恭司はその光景を見ながら、歯をギシリと噛みしだく。


「フザッッッけるな…………ッ!!」


何とか助かったとはいえ、いくらなんでもチート技すぎて体中から冷や汗が止まらなかった。

どうやら突き立てた剣を中心に地面が光るようだが、とにかく範囲が途轍もなく広い技だ。

動作も早い。

連発されれば叶わないだろう。


「ハハハッ!!どうだッ!!ロスベリータ様のお力は素晴らしいだろうッ!!」

「チ…………ッ!!それが誰にでも平等ならな……ッ!!」


恭司は何も分からないまま、とりあえず剣を振った。

今は時間をかけて対応策を考えている余裕はないのだ。

とにかく仕掛けるしかない。

その数は1、2、3、4、5 連撃────。

途端、

5つの三日月が剣から飛び出した。

剣を使うことによって大きさを増した三日月はユーラットに向かってまっすぐ飛び進み、その猛威を奮う。

5連撃なんて初めてだ。

当然、ユーラットも見たことがない領域になる。

恭司の現状における、切り札とも呼べる技だった。

慌てて防いでくれたりすれば御の字だ。

そこから瞬動で一気に距離を詰め、接近戦に持ち込める。

しかし…………


「甘いんだよ、バカがァッ!!」


そこでまたしても、ユーラットの身体が光った。

聖騎士のスキルはやたらと光る物が多いようだ。

分かりやすくていいが、今は嫌な予感しかしない。

光はさっきと違ってユーラットの前に集約され、厚みを帯びているようだった。

どんなものかは大体予想がつく。

そして、次の瞬間────。


ドォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!


ユーラットの前にいきなり光の壁が現れたかと思うと、光の壁は向かっていた三日月を全て消し飛ばしてしまった。

案の定、反則的な展開速度だ。

発動してから顕現されるまでの間隔があまりにも短すぎる。

そう…………

コレも聖騎士が故の上位スキル────。

その名も、

スキル、『ホーリーウォール』────。


「畜生…………ッ!!スキルの乱発で凌ぐつもりかァッ!!」


恭司は三日月を放った建物の屋上から、怒り混じりに叫んだ。

もはやユーラットはさっきからスキルしか使用していない。

普通の剣技は一切使用してこなくなっているのだ。

職業で侮らなくなったユーラットは、実力で打ち負かすことを諦め、確実に勝つための手法に切り替えたのだろう。

非常に厄介極まりなかった。


「僕は"聖騎士"ユーラット・ソフラテス…………ッ!!貴様に剣技で負けたのは悔しいが、女神ロスベリータの御心に従いッ!!もう何が何でも貴様を断罪すると決めたのだッ!!」


要はスキルごり押しの遠距離技ラッシュだった。

技術を介さない完全なパワーゲームで、スキルだけの勝負に持ち込もうとしている。

恭司としては、コレは許してはならない流れだった。

技の多様さで言えば、スキルほど優れたものは他にないのだ。

安定して高威力なスキルをこう何度も使用されれば、いずれは分かっていても対応しきれなくなってくる。

だが…………

恭司はそれでもまだ、諦めてはいなかった。

それならそれでやりようはあるのだ。

遠距離に徹したことを、後悔させてやる。


「だったら…………ッ!!無理矢理にでも接近戦に付き合わせてやるまでだッ!!」


恭司はそう言うと、瞬動で辺りを跳び回りながら、目に映る建物を全てザクザクに斬り裂いていった。

その間もユーラットからスラッシュの嵐が吹き荒れるが、むしろそれすらも利用して建物という建物を斬り刻んでいく。

狙いは明確だ。


「目眩しのつもりかァッ!!」


恭司に斬り刻まれた建物の残骸は、上からユーラットにどんどん降り注いでいった。

石造りの建物がバターのように易々と斬り裂かれていき、崩壊音がその場を蹂躙する。

しかし…………

ユーラットは剣でそれらを斬り飛ばし…………あるいは避けながら、悠々とその状況に対処していた。

完全に余裕のある様子だ。

もちろん、恭司もコレだけで殺せるとは思っていない。

狙いは当然…………別にあった。

建物の崩落で立ち上がる砂埃────。

明らかに陽動だと分かるこの展開────。

どう見ても"次"に対する伏線だ。

そして、

"互いに"思惑を抱える中…………

恭司は気配を断ち、ユーラットは剣を構える。


(さぁ、来い…………ッ!!どこから来ようとも対処してやるぞ…………ッ!!)


ユーラットはニヤリと笑った。

砂埃で視界の悪くなったこの状況────。

こんな状況下で何をするつもりかなんて、大体予想がつく。

『奇襲』だろう。

ユーラットは恭司が"飛び込んできた"所に、カウンターを当てるつもりだった。

この状況で"攻撃しようと思えば"、それが最も効果的だ。

だが、

砂埃で多少視界が悪くなった程度では、ユーラットは隙など見せない。

恭司が奇襲をかけてきた所で、逆に攻撃を当てる自信があった。

ユーラットの口から笑みが浮かぶ。

しかし…………


「何………………?」


待っていた奇襲は、いつまで経ってもやっては来なかった。

それもそのはず────。

恭司は砂埃が上がっている内に、ユーラットとは"逆"の方向へ移動していたのだ。

戦闘とは"まるで関係のない"場所────。

スキルでも届くはずのない距離────。

ユーラットから"敢えて"離れた位置に立った恭司は、したり顔でニヤリと笑う。

なんせ、『ユーラットから離れる』────。

それこそが、恭司の狙いだったのだ。

今さらもう…………どうしようもない。


「フハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ…………ッ!!さァ、ヒューマン贔屓のロスベリータ様を頂く"聖騎士"様は………………この状況をどうするかな────ッ!?」

「え…………?」


ユーラットは声がした方向にすぐ目を向けると、恭司はこの戦場からかなり離れた、ここらで最も高い建物の屋上の上に立っていた。

瞬動で跳んだのだろう。

それを見た途端…………

ユーラットの頬から汗が一筋流れ落ちる。

悪い予感が止まらないのだ。

この状況で恭司が自ら戦場から離れていく理由なんて、ユーラットには1つくらいしか思いつかない。

考えれば考えるほど、冷や汗が滝のように流れ落ちてくる。


「ま、まさか…………ッ!!お前…………ッ!!」


驚愕と絶望のあまり、響く声────。

ここは食料庫の近くで、倉庫などが密集した、元々人の少なかった場所だった。

だからこそ、

こんなにも派手に戦闘できていたのだ。

だが、

倉庫があるということは、その倉庫を置いた商人たちも近くにいるということ────。

つまりは、商人たちが根城にする"繁華街"も近くにある…………ということだ。

そんな場所に、散々人を殺した凶悪犯が"移動したり"などすれば、正義を旨とする聖騎士は一体どうするのか────。


「楽しもうじゃないか…………。今日という祭りの、フィナーレといこう────」


恭司は笑う。

そして、

恭司はそのまま、この街区の繁華街に向け、瞬動で跳んでいった。

そこには、"人質"となる人間たちが山のように溢れているのだ。

スキル重視で遠距離しか行わないというなら、それが出来ない状況にすればいいだけの話────。

ユーラットが傷付けられない存在の近くにいれば、解決する話だ。

何も向こうの流儀に合わせてやる必要などない。

それこそが、聖騎士としての"誇り"を持つユーラットの弱点────。

脱獄初日の惨劇が、いよいよ"最終演舞"に突入した瞬間だった。


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