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【第二章】基本技の習得

【第十話】鬼ごっこ ③

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「フハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!皆様、色々とご協力ありがとうッ!!とても有益な時間だったぞ…………ッ!!これで、これから先の戦闘がウンと楽になるッ!!それもこれも、実験に付き合ってくれたお前たちのおかげだッ!!心から感謝を申し上げるよッ!!」


恭司はナイフを構え、膨大な殺気を放った。

不吉で邪道で不気味なオーラが、ここら一帯をジワジワと侵食する。

さっきまではずっと抑えていたのだ。

恐怖で動けなくなられては実験にならないから、敢えて何も出さないようにしていた。

兵士たちはその殺気を身に浴びると、言葉を失って立ちすくむ。

表情はもはや絶望に染まりあがり、力の差をヒシヒシと感じて、諦めの感情しか浮かんでこないのだ。

抵抗しても無駄だと────。

感じてしまう。

分かってしまう。

コレはもう、自分たちの想定していた事態とはあまりにも大きく異なりすぎていた。

すぐにでも踵を返し、増援を呼んで対処すべき状況だ。

だが

そんな悠長なことを大人しくさせてくれる相手には到底思えない。

さっきの瞬動を見ているのだから尚更だ。

兵士たちのリーダーとなっている男は、内心で決意する。


(こうなればもう…………致し方がない…………ッ!!)


こういう時の対処については、騎士の訓練過程でもよく言われていることだった。

騎士は基本的に対象を"守る"ための職業で、常にチームワークが重視される。

だからこそ…………

勝てないと分かれば、とにかく情報を持ち帰ることが最優先であり最適解だ。

より多くの人々を守るため、"自分たちに犠牲を出してでも"、次に繋げることが重要になる。

となれば…………


「各自散開…………ッ!!バラバラになり、"ユーラット"様にこの事態をお伝えするのだッ!!誰か一人でも辿り着ければ、それでいい…………ッ!!」

「「「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」」」


そうして────。

兵士たちは踵を返して、バラバラに走り去っていった。

即断即決にして、思い切りがいい。

覚悟もあって、優秀な判断能力だ。

それを見て、恭司は楽しそうに笑う。


「ハァーッハハハハハハ…………ッ!!逃がすわけねぇだろうがァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」


恭司はナイフを手に、兵士たちを順に始末していくことにした。

向こうは数が多いため、しらみ潰しになる。

この食料庫近くには色々な施設や街区があるのだが、外に繋がる門になど辿り着かれれば面倒なのだ。

それに…………

さっき聞いた『ユーラット』という名前が気になる。

この状況で頼るのだから、恐らくは彼らの上司にあたる人物なのだろう。

チンピラたちから聞いていた話と合わせても、職業はおそらく騎士以上だ。

となれば、

『上級職』である可能性が高い。

この状況で上級職と当たるのは避けたい所だ。

今の恭司と戦えば間違いなく接戦になる上、あまりモタモタしていると外や出入口を固めている他の上級職たちが戻ってくる可能性もある。

早急にして迅速に、片付ける必要があった。


「まずは武器だな…………ッ!!」


恭司は瞬動で一人の兵士の背後に付くと、叫ぶ間すら与えず後ろから兵士の首を突き刺す。

斬り口から血が激しく飛び散り、地面が真っ赤に染まり上がった。

速攻の瞬殺技だ。

そして、

大量の血を失った死体は、そのまま力を無くして地に倒れ込む。

恭司はその兵士の死体に近づくと、剣を奪い取った。

コレが欲しかったのだ。

ここにきて、この先もわざわざナイフを使う必要はない。

剣を振る筋力なら手に入れたし、もういちいち血管を斬って殺す必要もないからだ。

今なら剣を使って首を骨ごと斬り飛ばせるし、リーチがある分そっちの方が効率的に決まっている。

恭司はそこからすかさず、奪った剣を何もない所で振り上げた。

追撃だ。

恭司は逃げ惑う兵士たちの背中に刃先を向けると、思いっきり剣を振る。

その途端────。

剣から先ほどの『三日月』が飛び出し、一人の兵士の背を追った。

文字通り三日月状の真空の刃だ。

剣を使っている分、三日月はさっきまでのナイフを使っていた時よりもさらに大きな斬撃となっている。

そして…………


「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」


三日月は兵士の体を捉えると、そのまま容赦なく身体を真っ二つにした。

血が弾け飛び、腹の中身が零れ落ちる。

残虐な光景だ。

また一人の兵士の命が奪われ、刻まれた死体だけがそこに残る。

しかし…………

そんな中、他の兵士たちは特に死体を振り返ることもなく、脇目も振らずに街の物陰へと入り込んでいった。

正直、彼らが仲間の死に全く動じないのは予想外だ。

てっきり、足を止めて怒るものとばかり思っていたのに────。

恭司は舌打ちを零す。


「チッ、少しは動じるかと思ったがな…………。面倒な真似させやがって…………ッ!!」


この東門近くの街区には、門の他に商店街や居住区なども混じっていた。

障害物や人が多く、隠れるには絶好の場所なのだ。

恭司はため息を吐き出しつつ、行動を開始する。

鬼ごっこなら得意だ。

前世では隠れる側にいることの方が多かったが、だからこそ人がどこに隠れやすいかなら十分に分かっている。

10人いた内2人殺したから、残りは8人────。

さらにその中の1人は腕を丸々斬られているのだから、放っておいてもそのうち出血多量で勝手に死ぬだろう。

その程度なら、多少時間はかかろうが"ユーラット"とかいうのに報告される前には間に合うはずだ。

ここからは時間との勝負────。

恭司は瞬動で一瞬にして建物の上に移動すると、上からそれぞれの居場所を予想する。


「フハハハハハッ!!見つけたぞ…………ッ!!」


暗い路地裏をコソコソと走り回る人影────。

恭司は建物の上から場所を視認すると、見つけた人影に向かって、三日月を幾度も繰り返した。

触れれば身を斬り裂く真空の刃が街に向けて容赦なく放射され、街中を逃げ惑う兵士たちが、それによって次々と打ち倒されていく。

死角からいきなり攻撃しているのだ。

目にも見えない以上、反応できるはずもない。

パッと目に付く者は三日月でこの場からどんどんどんどんと始末していった。

瞬動も三日月もまだ基本技に過ぎないが、こういう時には本当に便利な技だ。

『瞬動』で一気に距離を詰め、遠距離に対しては『三日月』で攻撃する────。

単純にしてシンプルな組み合わせだが、だからこそ使いやすい。

恭司の最強の武器は、この戦闘における経験値だ。

前世で何千何万と人を殺してきた経験が、この技のレパートリーの少なさをカバーしてくれる。

本当なら『中伝』や『奥義』も使いたい所だったが、それはまだ今の身体では難しそうだった。

流石にそこまでの体は出来上がっていない。

まぁそれでも…………この程度の相手なら特に問題はないのだ。

基本技だけで十分に蹂躙できる。

恭司は逃げ回る人間のうち4人を三日月で始末すると、残りは瞬動で追うことにした。

上から見下ろして見つからなかっただけで、そもそも向こうが隠れている場所も、これから行きたい場所も、恭司には検討がついているのだ。

ならばそこから逆算すれば良い。

恭司は三日月を放っていた建物の屋上から飛び降りると、追撃を開始した。

目撃者は全て皆殺しだ。

恭司は瞬動で建物の上を移り走っていると、すぐに一人見つける。


「まずは一人目…………ッ!!」


キョロキョロと周囲を見回している1人の兵士────。

その兵士は、まだ恭司には気が付いていない様子だった。

好機だ。

恭司はそのまま気づかれない内に、頭上から強襲する。


ズシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!


音も気配もない速攻技────。

瞬動でいきなり背後に立ち、首を一閃────。

血が豪快に弾け飛ぶ中、恭司はすぐに切り替え、次へと向かった。

首をそのまま斬り飛ばせるのは良いことだ。

余計な叫び声が出ない。

死ぬのも早いし、食料庫様々だ。

恭司は瞬動で追って追っては、見つけて殺して次へと向かう。

その姿は、かつて街一つを潰した当時そのもののようだった。

気分爽快だ。

こうやって逃げる者を狩り続けていると、楽しくなってくる。


「ハ、ハ、ハ、ハ、ハ、ハ、ハ、ハ、ハ、ハ、ハ、ハ、ハ、ハ、ハ、ハ、ハ、ハ、ハ、ハ、ハ、ハ、ハ、ハ、ハ、ハ、ハ、ハ、ハ、ハ、ハ、ハッ!!」


目にも留まらぬ速度で走り続けているからだろう。

もはや笑い声すらおかしくなっていた。

景色がパッパッパッパッと一瞬にして切り替わっていき、その度に人が死んで、夜の王都に首無し死体が量産されていく。

夜の王都を襲う殺人鬼────。

コレは、自分への祝いだ。

復活の狼煙だ。

血が湧き立ち、肉が躍って仕方がない。

正に、最高の気分だった。
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