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【第二章】基本技の習得

【第九話】決行の時 ⑤

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「ハァーッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!笑いが止まらないぞッ!!ようやく…………ッ!!ようやくこの時が来たんだッ!!」


視点は移り変わり────。

恭司と5名のチンピラたちは、今は東門近くの『食料庫』の中にいた。

この街は王都というだけあって、緊急時用に食料が蓄えられていたのだ。

見張りや警備の者たちは既に全て殺し終わっている。

最初にチンピラたちにこの場所を聞いた時点で、恭司はずっとここに来ることが目的だったのだ。

騎士たちも、まさかたった一人の逃亡者の目的が食料庫などとは夢にも思わなかっただろう。

別に今は飢饉が起きているわけでもないし、軍でもないカザルがたった一人でここを狙うなんて普通に考えておかしな話だからだ。

恭司は目の前に広がる大量の食料を視界に入れると、ジュルリと舌を舐めずる。

恭司にとってこの光景は、正に宝の山だった。

一都市分の食料なんて、普通に考えれば1人の人間が食せるはずもない量なのだが、恭司には前世の時の一族に伝わる『秘術』があるのだ。

その秘術を使えば、この一都市分の食料庫にある食料を一気に取り込み、半ば強制的に筋肉へと変えることが出来るだろう。

それもこれだけの量があれば、完全に元通りとはいかなくても最低限の『基本技』を使えるくらいの筋力は得ることができるに違いない。

前世で既に習得済みの技術だからこその、裏技だった。


「いやぁ、上手くいきましたねぇッ!!まさか、ここまで順調に事を運べるとは思いやせんでしたよッ!!」


チンピラたちのリーダーである男が、嬉しそうに声を上げる。

彼らは恭司にとって、いわば作戦の肝とも呼べる存在だった。

恭司が行った作戦は非常にシンプルなものだ。

簡単に言うと、東門以外の場所に手掛かりとなる物を沢山残しておいただけ────。

街中で戦力が外と出入り口に集中していくのを確認した恭司は、彼らを使って東門以外の全ての門の近くに手掛かりとなりそうな物を色々と仕掛けさせたのだ。

あとは、この何も仕掛けていない東門へ行って、チンピラたちと一緒にこの食料庫を襲うくらいしかしていない。

恭司が運良く"初日"から仲間を得られたことも、その成功要因に大きく貢献しているだろう。

普通に考えて、脱獄初日の男がその日中にこんな大掛かりなことが出来るとは誰も思わないからだ。

そればっかりは運が良かったとしか言いようがない。

ただ、恭司はチンピラたちから相手に上級職である『聖騎士』がいると聞いて、さらにもう一手間かけることにしたのだ。

それが、あの小屋にいた"子どもたち"────。

"時間稼ぎ"を狙った、火炙りだ。

恭司にとって、アレほど楽な仕事はなかった。

恭司はカザルが脱獄したなんて全く伝わっていない昼のうちに、人を攫えるだけ攫ったのだ。

瞬動と前世の技術を組み合わせれば、戦士でもない一般人を攫うことなど容易い。

それも今回は子どもばかりを狙って攫いまくったため、疲労度的にも時間的にも完全に余裕だった。

元々前世で暗殺者のようなことばかりやって来た恭司としては、例えカザルの体であったとしてもこのくらいは何でもないことだ。

あとは、その攫ってきた子どもたちを木製の小屋に閉じ込め、油を撒いて火を付けただけ────。

たったそれだけのことであの厄介な聖騎士を釘付けにすることができたのだから、恭司としては正に御の字といった所だろう。

恭司は達成感のあまりニッコリと笑うと、リーダーに向けて言葉を返す。


「あぁ、本当にその通りだなッ!!俺一人ではこれほど上手くはいかなかっただろうッ!!お前たちのおかげで、ようやくここまで来ることが出来たッ!!」

「えぇ…………ッ!!力を合わせた甲斐がありやしたねぇッ!!」


チンピラたちと恭司の間に、和やかな雰囲気が生まれる。

恭司の屈託のない笑みなんて見たのは、恭司とリーダーであるこの男が出会って以来、初めてのことだった。

悪魔のような笑みなら何度も見たことがあるのだが、恭司のこんな純粋な笑顔なんて見たことがない。

まるで年相応の子どものようだ。

それくらい、今回は本当に嬉しかったのだろう。

恭司が邪心なく笑う所なんて、早々見られるものじゃない。


「それで…………ッ!!こんなにいっぱいの食料を、旦那は一体どうなさるおつもりなんですッ!?」

「ん……………………?」


恭司は少し、違和感を覚えた。

何故そんな問い掛けがくるのかを考えているのだ。

すると、

数秒して、恭司は彼らに食料庫を襲う目的を何も話していなかったことを思い出す。

恐怖支配で押さえ付けるようにやらせたから、別に向こうも聞いてこなかったし、わざわざこっちから言う必要もなかったのだ。

恭司は少し考える。

恭司にとって、彼らにはもう使い道がそれほど見つかりそうもなかった。

というより邪魔だ。

命じれば見張りくらいは出来るだろうが、所詮は恐怖支配の間柄────。

信頼関係なんて無いに等しいし、もしそのまま逃げられでもしたら面倒なことこの上ない。

そして、

彼らは恭司の顔と正体を知っているし、街中で自由にさせておくわけにもいかなかった。

恭司は再びニッコリと笑うと、無造作にチンピラたちへと歩み寄っていく。

まぁ恭司からすれば、特に迷う余地もないことだ。

その手には、1本のナイフがある。

仄かに感じる殺気────。

こういうことは、何事もシンプルに片付けるのが一番だ。

いらない物なら、捨てればいい。
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