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【第二章】基本技の習得

【第八話】スラム街 ④

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「とりあえず、基本的にはこんな感じですかねェ…………。まぁ、魔族も亜人種も、国の外にでも出ねぇ限り会うことも無いでしょうが……」

「『亜人種』ってのは、この国にはいないのか………….?」


恭司は男に尋ねてみた。

恭司からすれば純粋に興味のある所だ。

男は恭司からの初めての質問にドギマギしながらも、慎重に口を開く。


「へ、へぇ…………。その通りです。この国の王族や貴族たちはこぞって亜人種のことを嫌ってやすからねェ…………。噂によると、一部の王族は亜人種を囲って弄んでるって話もありやすが、基本的にはいねぇはずです…………」

「へぇ…………。そうなのか」


今度その一部の王族とやらを襲撃して、ジックリ観察してもいいかもしれない。

どうせいらないと見做されているなら奪ったって問題ないだろう。

場合によっては戦力として使える可能性もある。

恭司はそう思った。


「とはいえ、流石に囲ってるってのは、ただの噂話だと思いやすがねェ…………。そんなことをしていたら女神様を頂く『ロスベリータ教会』が黙ってねぇでしょうし、流石の王族もそればかりはないとは思いやすが……」

「待て。何でそこで『ロスベリータ教会』…………?というものが出てくる?」

「あれ…………?それも知らねぇんでやすかい…………?亜人種は女神『ロスベリータ』様の加護を受けられねぇんですよ。だから、奴らは"スキルも職業も持ってねぇ"んです。スキルが当然のヒューマンからすれば、『女神に見捨てられた種族』とか言われて蔑まれたとしても仕方ねぇ話でしょう」

「………………」


男の話を聞く限り、その女神『ロスベリータ』というのは、恭司がカザルとして転生した時に現れた神と同じ存在だと思われた。

恭司が前世で散々殺した相手もヒューマンだったから、おそらくは間違いないだろう。

そのロスベリータ……?は同じ人族でも『ヒューマン』にしか恩恵を与えない神ということだ。

ある種、その亜人種たちは恭司と同じ存在ということになる。

その流れでいくと、魔族もおそらくは同様の扱いなのだろう。

話を聞いて、恭司はより興味を抱いた。


「まぁ、旦那みたいに"強力なスキルを持っている"方にとっちゃあ耳障りな話でしょうがねェ…………。あっしらスキルを持つヒューマンにとって、女神ロスベリータ様は唯一絶対の存在でやすから。旦那も、冗談でもロスベリータ様のことを知らないなんて言っちゃあダメですよ?教会の連中が飛んできちまいやすからねェ…………」

「………………」


別に冗談でも何でもないし、恭司はその女神という存在からスキルも何ももらっていないのだが、ここは敢えて黙っておくことにした。

言っても確実に厄介なことにしかならないし、勘違いしてくれているならその方が都合も良いのだ。

恭司は詮索されてボロが出る前にと、話を次に進めることにする。


「よし…………。それなら、話はいったんここまででいい。とりあえず、お前の選りすぐりの仲間とやらを呼んできてくれ」

「え…………?あっしの仲間を…………ですかい…………?」

「そうだ。お前の仲間を、だ」


恭司は敢えて言葉少なめに、威圧的にそう話した。

男は首を傾げている。

納得していないようだ。


「え、えっと…………その…………理由は…………?」

「あぁ…………ッ!?」

「し、失礼致しやしたッ!!」


男は恭司に殺気を向けられると、脱兎の如く廃屋から出ていき、仲間を呼びに出かけていった。

その姿が見えなくなったのを確認すると、恭司は次第にプルプルと身体を震わせながら、不気味にニヤリと笑う。

とうとう…………表情を固く保っているのがしんどくなってきたのだ。

ここまであまりにも上手くいきすぎて、もはや堪えきれなくなってきているのだ。

恭司は椅子に腰掛けながら、次の段階に想いを巡らせる。

長かった。

恭司からすればとても…………とても長かった。

ようやく来るのだ。

この非力な身体を、どうにかする時が────。


「クク…………。クククク…………」


まだまだ入口に立ったばかりとはいえ、歓喜に満ち満ちた思いだった。

食料事情を解消してもすぐに前世と同様とまではいかないだろうが、恭司には"秘策"があるのだ。

恭司の昔生きた一族の中では、一度に多くの栄養を取り込み、半ば強引に筋肉へと変える秘法がある。

当然、恭司はその方法を覚えているし、それを使えば短期間で一般人程度の体を作ることが可能になるだろう。

恭司はその時が楽しみで楽しみで…………仕方がなかった。


「ふ、ふふ…………。力を得る時が来た────。もう、こんな体に我慢しなくても良いんだ……。ふ、ふふ、ふふふふふふ……ふふふふふふふふふふ…………。ハァーッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!ようやくだ…………ッ!!ようやくだぞッ!!あのクソッタレなロアフィールドのゴミどもに…………ッ!!鉄槌を下す力を得るんだッ!!」


とうとう笑いが声に出てしまった。

恭司にとっては、それほど嬉しいことなのだ。

もうナイフなんて使わなくても良くなるかもしれない。

成功すれば、今後は人1人殺すための労力がずいぶんと軽くなることだろう。

楽しみで仕方がない。

恭司はこれまでずっと────ずっと、我慢してきたのだ。

自分の思い描く動きが出来なくて、しょうもない敵に苦戦して…………ずっとずっとずっと我慢してきた。

それがようやく解消されると言うのだ。

興奮が収まらない。

耐えに耐えてきたことだけに、喜びを抑えきれなかった。

そして…………

それから数分もすると、男がぞろぞろと仲間を引き連れて戻ってくる。

全員男で、汚らしい格好をしている所は一致しているが、年齢は20~40代くらいと幅広かった。

数は8人────。

10人ほどと聞いていたのに、数が2人ほど合ってない。

男は答えた。


「えっと、あと2人はその…………さっき…………」


どうやら、恭司が路地裏で斬った相手らしかった。

アレが選りすぐりの一員なのだとしたら、やはりそれほど期待は持てないだろう。

恭司はため息を吐き出す。

楽しい気分に水をさされた気分だ。

連れて来られた仲間たちは、それを見て大きく反発する。


「おいおい、リーダーッ!!何なんです?このヒョロっちい兄ちゃんは?新しい仲間ですかい?」
「人の顔を見てため息なんて失礼だぞッ!!」
「あれ…………?そう言えば、その人が着ている服って、リーダーの……」
「あっ、ホントだッ!!一体どういうことなんですッ!?」


理由も何も分からずに連れて来られた男の仲間たちは、口々にそんなことを言ってきた。

まぁ、呼んだ理由も目的も、恭司はリーダーであるその男にすら話していないのだ。

当然の反応と言える。

恭司はそんな彼らの様子を見回すと、一息置いて、強烈な殺気を放った。


「「「…………ッッッ!!」」」


肌がひりつくような、強大な殺気────。

息を呑むほどの、圧倒的存在感────。

体が強ばり、心臓がやかましく音を立てる。

彼らは動揺に身を震わせた。

急に雰囲気が変わって、空気が重たくなって…………彼らも何かを感じ取っているのだ。

この、目の前にいる、凶悪にして邪悪にして禍々しい"ナニカ"────。

同じ人族とは思えないほどに威圧的で絶望的なオーラ────。

仮に魔族相手でも、ここまでのプレッシャーは感じないだろう。

恭司はそんな彼らを見ながら口を開くと、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
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