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【第三章】亜人種

【第十四話】屋敷にて ①

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~トバルサイド~


「な、何だ…………。コレは………………」


一方、時は遡り────。

カザルが屋敷を出た後すぐのこと────。

トバルは来賓たちの対応や事後処理を終えると、改めて状況の確認に動いていた。

さっきのセリフは、その確認のために外から屋敷に戻った瞬間のことだ。

『凄惨』────。

ただただ、その一言に尽きている。

屋敷は焼け焦げ、その中にいたのであろうメイドや従業員たちの焼死体が、屋敷内のそこかしこに散在していた。

見るも明らかなほどに残虐な状況だ。

どこからどう見ても間違いなく、全滅している。

トバルはグッと息を呑み込んだ。

火を付けられたのだから焦げているのは当たり前だが、その被害があまりに大きすぎていたのだ。

トバルはあの時、煙を見てすぐに魔術師へ指示を出し、消火にあたらせたはず────。

それなのに、まるでそんなことがあったとは思えないほどに、火の回りが早すぎている。

"至近距離"で"油"を使われたのは間違いないだろう。

その場所にも検討がつく。

状況を考えれば、ほとんど一択みたいなものだ。

トバルは再びゴクリと唾を呑み込むと、護衛を連れて、引き続き屋敷の中を進んでいくことにする。

焼死体を避け、黒々とした廊下の上を歩いていった。

取り急ぎの目的は、カザルのいた独房を見ることだ。

この正体不明の大惨事にあって、そこだけは欠かすことはできない。

おそらくはその道中に、この火事の発生源もあるのだろう。

だが、

トバルは今はまだ見ないことにした。

もちろん確認すべきだし、当然気にはなっているが、一旦は部下に任せることにしたのだ。

トバルはこれでも"四大貴族の中では"それなりに責任感の強い男だったが、世の中には優先順位というものがある。

聞いた話によると、料理長が瀕死な上に気絶した状態で見つかったそうだが、トバルにとっては今はそれどころではなかった。

その男については目を覚まし次第話を聞くとしても、今はそれよりも独房の方が圧倒的に優先順位が高いのだ。

この事態のそもそもの原点────。

全ての始まりの場所────。

トバルは怒りと焦燥に歯を食いしばりながら、思わず足を急がせる。

トバルからすれば、かつてないほどに火急の緊急事態だった。

本来は別に状況の確認くらい他の人間に任せても良かったのだが、トバル自身が居ても立っても居られなかったのだ。

内容が内容だけに、他人に任せ切れなかったということもある。

そこはトバルが今回の失態を犯した場所で、カザルが"脱獄"した場所でもあるのだ。

むしろ、トバルにとっては、そこが全てのスタートラインで、終着点とも言える。

いわゆるターニングポイントだった。

そこを確認しないことには、今回の件は何も始まらないのだ。

何故こうなったのかの原因は、そこに全て詰まっていると言っても過言ではない。


「くそッ!!カザルめ…………ッ!!あの無能者風情に、この私がここまで振り回されるとは…………ッ!!私が一体、何をしたと言うのだッ!!」


怒りと憎しみに支配された声音────。

しかし、

トバルは一人でそんな悪態をつきながらも、内心はここで見定めたいと思っていた。

省みると言い換えてもいい。

ここで何が起きていたのかを、トバルは自分自身がちゃんと見て、受け入れなければならないのだ。

そう…………

トバルは何故、失敗したのか────。


(想定外のことが起きていたのは間違いないだろうが…………これから"奴ら"は間違いなくそこを追求してくるだろうからな…………。あの神の威を借る狐どもめ…………ッ!!まったく、忌々しい話だッ!!)


トバルは一人、イラつき気味に盛大な舌打ちを漏らす。

そもそもの話を言えば、トバルが2度に渡って軍隊を動かした時点で、普通ならそこで片が付いていたはずだった。

トバルは確かにカザルのことを侮っていたが、スキルも何も持っていないカザルが相手なら、それで十分お釣りがくるはずだったのだ。

普通に考えて、戦闘訓練はもちろん、食事すらマトモにさせてないはずの男に、波いる兵士たちを殺し尽くせるわけがない。

50人単位の兵士を2回送った時点で、むしろ過剰戦力だったはず────。

それなのに────ッ!!


「一体、何がどう起こればこうなるというのだ…………。奴が何のスキルも得られないことは、神託の時にハッキリと分かっている…………。そこについては、何も間違いはなかったはずだ…………」


そう考えれば…………やはり、外部犯という線が濃厚だった。

理もある。

カザルでないのならば、他の誰かが…………と考えるのは自然な発想だ。

だが、それならそれで…………

●この厳重な防犯体制の中、外部からどうやって侵入したのか────。

●あの認識システムをどうやって潜り抜けたのか────。

といった疑問が出てくる。

考えられるとすれば内部からの裏切りだが、神託で行われる処刑を邪魔をしてその人間にメリットがあるとは到底思えなかった。

神の怒りを買って困るのは、トバルだけでなくヒューマン全ての共通事項なのだ。

例外はない。

トバルも一応防犯体制を取ってはいたものの、正直それが必要になるとはまるで思っていなかった。

この処刑は神ロスベリータの神託によるもので、トバル自身の意思じゃない。

それなのに、わざわざ神の怒りを買ってまでカザルを助けにくる愚か者がいるなどとは、トバルには決して思えなかったのだ。

ロアフィールド家の凋落を狙って誰かを雇ったのだとしても、結局は神の目を欺くことなどできないし、その人間にとってのリスクが高すぎる。

リスクばかりが高くてメリットがないのだから、その可能性を軽んじるのは当然のことだ。


「くそッ!!まったく分からん…………ッ!!あの恩知らずの落ちこぼれが…………ッ!!この私に一体どこまで迷惑をかければ気が済むのだッ!!」


護衛を連れながら一人でそんなことを呟いていると、トバルはいつの間にか独房の入口があった所まで辿り着いていた。

認識システムは、どうやら破壊されてはいないようだ。

トバルは意を決すると、プレートをかざして入口の扉を開ける。

ようやく…………対面の時だ。

ゴコンと…………扉の開く音が聞こえてくる。

トバルは生唾を飲み込むと、扉の向こう側へと入り込んでいった。

すると…………

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