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【第一章】脱獄

【第七話】外の世界へ ③

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「んーーーー!!んーーーー!!んーーーー!!んーーーー!!んーーーーーーッ!!」

「うるせぇな、暴れるなよ…………。うっかり手が滑りそうになる」


出てきた男は料理人の格好をしていた。

どうやらここは厨房のようだ。

部屋の中を見ても、やはりこの男以外には誰も見当たらない。

恭司は男の喉元にナイフを当てたまま、速やかにその部屋の中へと入っていった。

殺意をナイフに込めつつ、刃は喉元に当てているだけで、ギリギリ殺さないようにする。

なんせ、せっかく得た情報収集の機会なのだ。

他に人もいないし、簡単に殺ってしまっては勿体ない。

恭司は中に入ると、静かにドアを閉めた。

食材と料理による、美味しそうな匂いが広がっている。

どうやら作っている真っ最中だったようだ。

恭司は男の生殺与奪を握った状態のまま、部屋の奥の方へと進んでいく。

部屋の中には、恭司とその男の2人だけになった。

先ほどの兵士たちの様子を見る限り、時間はあまり多くは残されていないのだ。

無駄なことはせず、キリキリと話を進めていくことにする。


「いきなりだが、俺が誰か分かるか…………?分かるなら首を縦に、分からないなら横に振れ」


恭司は男の口を塞ぎながら、静かに問いかけた。

男は首をブンブンと横に振る。

様子を見るに、嘘を吐いている訳では無さそうだ。

おそらく、カザルの存在自体は知っていても、今の姿は知らないのだろう。

知っていたとしても、あの牢屋に入れられる前の姿のはず────。

すなわち5歳だ。

あれから10年も経っているのだから、見た目で分からなくても仕方がない。

恭司はこの調子で、どんどん質問していくことにする。


「今日はカザル・ロアフィールドの処刑日だったな…………?カザルが今どうなっているかを知っているか?」


男はまたしてもブンブンと首を横に振った。

妙な話だ。

こんなにすぐ側の距離に厨房があるというのに、知らないなどあり得るのだろうか────?

男の言葉に疑問に感じた恭司は、口を塞いでいた手を解き、男を壁に向けて蹴り飛ばす。


「ぐあ…………ッ!!」


男の体は顔ごと壁に打ち付けられた。

もちろん、カザルの筋力では死ぬまではいかない。

手を解いたのは、喋らせるためだ。


「おい…………。下手なことをすると、あのメイドたちと同じ運命を辿ることになるぞ…………?お前はただ、俺の質問にしっかり答えてくれたらいいんだ。その時には、その命と一緒に解放を約束しようじゃないか…………」

「ほ、保証は…………?その保証はあるのか…………?」

「あ…………?」


恭司はナイフを逆向きに持ち、柄で男の喉を突いた。

喉打ちだ。

喋れないほどではない。

大きな声は出しにくくなっているはずだが、対処としてはこれて十分だろう。

まずは身の程というものを教えてやらなければならないようだ。

男は首を抑え、苦しそうにもんどり打つ。


「あァ…………ッ!!がァ…………ッ!!」

「口答えするなよ…………。今のお前には、ここで死ぬか喋るかの2択しかないんだ。余計なことを言って…………俺をイラつかせるな」


恭司は男に向かうと、盛大に殺気を浴びせ掛けた。

何千何万と人を殺してきた、本物の殺人鬼の殺気だ。

その殺意は膨大で強大で、人によってはコレだけで死んでもおかしくない。

男はガタガタと身を震わし、ただただブンブンと首を縦に振った。

効果は抜群だったようだ。

顔は恐怖に染まり上がり、股間は無惨なほどに大きく濡れてしまっている。


「ご理解いただけたようで何よりだ…………。先ほどの質問をもう一度しよう。カザル・ロアフィールドが今どうなっているかを知っているか?」

「し、知りま…………せん…………。我、々は、カザルに関す、る、ことを、話しても聞いても、ならな、い、決まり、なのです……」

「どこにいるかは知っているか?」

「は、い…………。その廊下、を…………先に行っ、た所に、奴、の、独房があり、ます」


喉を突いたせいで喋りにくそうだったが、見たところ嘘では無さそうだった。

場所くらいは知っているが、それ以上のことは秘匿されている…………といった所だろう。

やはり、公然の秘密となっているようだ。

兵士は普通に来ていたあたり、戦闘職の人間は知っている…………ということなのかもしれない。


「カザルの処刑される場所は知っているか?」

「知っ、て…………います…………。屋、敷正、面口…………の、大広場です」


屋敷正面口の大広場────。

それはカザルの記憶にも残っていた。

この邸宅はとにかく敷地が広いのだが、屋敷の周りには花壇やら噴水やら、景観を整えるものが色々と揃っている。

貴族として、見栄えを意識しているのだ。

大広場もその内の1つで、主に隊の訓練や何かしらのイベントにもよく使われていたのを覚えている。

昔はシャーロットやスバルともよくそこで遊んだものだ。

恭司は続けて質問する。


「時間は何時からだ?」

「13……時…………です」


恭司は今の時刻を見た。

時計は現在、12時20分をさしている。

どうりで兵士たちが慌てているわけだ。

普通なら、もうとっくに準備が整っていないとおかしい。

父親はさぞかし苛立っていることだろう。

来賓も既に集まっているはずだ。

メインイベントの役者がいつまで経っても現れないなんて、主催者としては困り果てているに違いない。


「来賓の数はどんなものだ?」

「護衛、の、方も、数多……くいらっ、しゃっている、ので、一概には…………。料、理は…………50名様ほど、ご用、意、いたしまし、た……」

「なるほどな……」


料理を用意しなければならない相手が50人となると、来賓の連れてきた護衛や兵士たちを考えれば、その倍以上の数が集まっていると思われた。

四大貴族が1つ、ロアフィールド家の呼ぶ貴族たちだ。

当然、そんじょそこらの貴族ではあり得ないし、カザルを悪役にして処刑するなら、さらに厳選された人間に絞られているはず────。

護衛の数もレベルも、決して並なはずはないはずだ。

何とも厄介極まりない。


「ありがとう…………。色々と参考になったよ。そろそろ時間も近づいてきたし、質問は、コレで最後にしよう」

「…………??」


恭司は少しだけ、間を持たせた。

当然、脅しの意味だ。

殺伐とした雰囲気が漂う中、男は生唾をゴクリと呑み込む。

恭司はその様子を見ながら、ゆっくりと問い掛けた。
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