上 下
100 / 140
幕間の章 海水浴と結婚式

100 魔族領での結婚式④

しおりを挟む
「君が噂のアキト君だな? 俺はザッケローニ・ギラン。  虎の獣人で第7防衛部隊の隊長をしているんだ。 よろしくな」

「そして、私の兄でもあります」

「さ、 暁斗あきとです。 こ……、こちらこそよろしくお願いします……」

「暁斗くん?」

 俺は、春菜達の婿でありシンシアさんの兄であるザッケローニさんと対面した。
 彼から放つ強さに気圧されながらも、俺は自己紹介を済ます。
 同時にいきなり何か苦しいものが隆起してきそうだった。

(まさか、あの威圧感を……! うぐっ)

 彼の威圧感に当てられ、無意識の自己防衛とでもいうのか……。
 それが働き出してしまう。
 急に苦しくなり、吐きそうになるのを堪える。
 それを見たアルトは……。

『主、あまり警戒を敷くのは良くないぞ。 特に今は結婚式だ』

「あ、ああ、悪いアルト……。 相手の強さで気圧されてな……」

「あのー、兄は確かに強いですが……。 アキトさんも人の事は言えないですよ?」

「え!?」

 後ろからシンシアさんが俺に声を掛けてくる。
 一人警戒態勢を無意識に敷いていた俺を見て、思う事があったようだ。

「俺達も警戒していたあのバーサクバッファローを拳で止めを刺したって聞いてる。 しかも気の力で内臓だけを破壊したってクリストフ国王様が言ってたさ」

「国王……」

 国王様……。
 あまりそういう事をベラベラと話さないで欲しかったなぁ。
 何とか吐き気を堪えているが、威圧感を押さえていないのかこれは不味い……。

「俺はここにいる春菜達との結婚式を挙げる際に可能ならば、アキト君に近づきたかったんだよ。 まさかここまで避けられそうになるのは」

『強者と出会った事による無意識の自己防衛らしい。 気にしてはいけないぞ』

「そうだな。 強者たる故にどこで強者狙いが潜んでるかはわからないから、自然に警戒するだろうな」

「すみません……」

「暁斗先輩、大丈夫ですか!?」

 アルトがどうにかそう言ってごまかしてくれたが……。
 実際はそうではなく、あの威圧感でかつてのガルタイトの出来事を思い出してしまったのだ。

 アルトの言うように無意識に強者を感じたが故の無意識の自己防衛が、ここまで厄介な雰囲気になろうとは。
 ますます居心地を悪くしてしまったか。
 だが……、どうしても放たれた威圧感が……あの時の事を思い出してしまう。

「暁斗くんはガルタイトで無能扱いにされてから、威圧感に敏感になっちゃったね」

「ひなたちゃん達から聞いたけど、相当のトラウマが拭えてないという事だね」

 一方で、由奈とエミリーが今の俺の原因を予測していたようだ。
 由奈が怖くて動けなかったとされるあの威圧は、当時俺にも伝わってたからだ。
 その後すぐに睡眠の呪いで意識を刈り取られたのだが、この時点では素質が判明してない故に呪いが掛かったんだろうな。

「にい……?」

『きゅーん』

 俺の顔色が悪くなったのを気にしだしたのか、胡桃とリリが俺を見上げている。
 そこまで顔色が悪かったのか?

『今日はあまり無理せずに宿に戻ったらどうだ? 我らが付き添うぞ』

「そう……だな。 そうさせてもらうか。 俺の自爆でこうなったし」

「暁斗くん……」

 アルトから宿に戻ることを提案され、それを受け入れる事にした。
 由奈やエミリーが心配してるが、それを見ている余裕はない。
 俺も最低な人間だという事か……。

「すみません、俺は……ここで失礼します」

「分かりました。 他の皆さんにもお伝えします」

 みんなに申し訳ないと思いながらもシンシアさんに一言告げて俺は宿に戻ることにした。

「由奈、エミリー、後は任せるよ。 胡桃も見てやってくれ」

「うん」

「分かった、アキト君」

 心配そうに見ている二人に会場の様子と胡桃を任せて、俺はアルトに乗せてもらってからまずは宿に戻ることになった。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

「うげぇぇ! げほっ、げほっ!!」

『主様、大丈夫ですか!?』

『相当無理してたか。 あの威圧感で様子がおかしかったが……』

 宿に戻った俺は自室に戻るなり、すぐにトイレで嘔吐した。
 威圧感がトラウマを隆起してしまい、会場内では吐きそうになるのを堪えていた。
 サクラが驚いて、俺を気に掛けるが、アルトは相当の無理をしていた事を見抜かれていた。

「まさか、と同じ威圧感を抱えていたとは……」

『当時、主がガルタイトに無能扱いにされたと言っていたが、それが原因によるトラウマか』

「ああ、あの時もあいつらがザッケローニさんと同質の威圧を放っていた」

 ひなたや由奈の前で恰好をつけたかったが、今回は逆に格好悪い所を見せてしまった。
 あの威圧感は忘れられない。
 周りに罵倒され、威圧で身体が竦んだあの時は……。

『どうする? このまま居ても厳しいと思うが……』

「戻るよ、ガイアブルクに。 国王にはアイリスに連絡してもらうし、俺の代役は由奈やエミリーに任せたい」

『分かりました。 アイリス様達に私からそう伝えますね』

『我の転移魔法で自宅前に戻るように出来る。 すぐに戻るか?』

「ああ、戻るさ。 頼む」

『承知した』

 アイリス達への連絡をサクラに任せて、俺はアルトの転移魔法でガイアブルクの自宅へと戻る事に決めた。
 どっちにしても、あんな事をしたのだ。
 もう居心地は悪くなってるだろう。

 何とか持ち直し、サクラがアイリス達に連絡したのを確認してから、アルトの転移魔法でメイジフォックスウルフの一家と共にガイアブルクに戻るのだった……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません

青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。 だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。 女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。 途方に暮れる主人公たち。 だが、たった一つの救いがあった。 三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。 右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。 圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。 双方の利害が一致した。 ※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております

劣等生のハイランカー

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ダンジョンが当たり前に存在する世界で、貧乏学生である【海斗】は一攫千金を夢見て探索者の仮免許がもらえる周王学園への入学を目指す! 無事内定をもらえたのも束の間。案内されたクラスはどいつもこいつも金欲しさで集まった探索者不適合者たち。通称【Fクラス】。 カーストの最下位を指し示すと同時、そこは生徒からサンドバッグ扱いをされる掃き溜めのようなクラスだった。 唯一生き残れる道は【才能】の覚醒のみ。 学園側に【将来性】を示せねば、一方的に搾取される未来が待ち受けていた。 クラスメイトは全員ライバル! 卒業するまで、一瞬たりとも油断できない生活の幕開けである! そんな中【海斗】の覚醒した【才能】はダンジョンの中でしか発現せず、ダンジョンの外に出れば一般人になり変わる超絶ピーキーな代物だった。 それでも【海斗】は大金を得るためダンジョンに潜り続ける。 難病で眠り続ける、余命いくばくかの妹の命を救うために。 かくして、人知れず大量のTP(トレジャーポイント)を荒稼ぎする【海斗】の前に不審に思った人物が現れる。 「おかしいですね、一学期でこの成績。学年主席の私よりも高ポイント。この人は一体誰でしょうか?」 学年主席であり【氷姫】の二つ名を冠する御堂凛華から注目を浴びる。 「おいおいおい、このポイントを叩き出した【MNO】って一体誰だ? プロでもここまで出せるやつはいねーぞ?」 時を同じくゲームセンターでハイスコアを叩き出した生徒が現れた。 制服から察するに、近隣の周王学園生であることは割ている。 そんな噂は瞬く間に【学園にヤバい奴がいる】と掲示板に載せられ存在しない生徒【ゴースト】の噂が囁かれた。 (各20話編成) 1章:ダンジョン学園【完結】 2章:ダンジョンチルドレン【完結】 3章:大罪の権能【完結】 4章:暴食の力【完結】 5章:暗躍する嫉妬【完結】 6章:奇妙な共闘【完結】 7章:最弱種族の下剋上【完結】

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

処理中です...