49 / 140
第3章 春日部由奈に救いの手を
49 閑話~その頃のガルタイト国内④~
しおりを挟む
「な、なんだと!? 我が討伐部隊が惨敗しただと!?」
「はい。 魔族領最南端を守る防衛部隊にわが軍はなすすべもなく惨敗しました。 兵士は全滅、勇者も二人死亡したとのことです」
「お、おのれ……、魔族め……!」
ガルタイト国の王城、そこにある応接室にて宰相が国王のヘイト・ゾア・ガルタイトに惨敗の報告をしていた。
凶報を受けて、国王は怒りに震えていた。
自分の血を使い、強力なホムンクルスの兵士を量産し、さらにその力で自国の周辺にある国々を武力支配できる力を得て、ざぁ魔族ということで息巻いていたが亜人の集まりである魔族の力の前には無力を証明させる形となった。
「それだけではありません。 第三の追手部隊も一人の裏切りもあり、全滅しました」
「な、何ぃ!? 裏切りだと!? あの一件からそうさせないように対勇者の呪いを掛けてたはずだ!」
「それが、我々が無能と罵った男によってあっさり解呪されたようでして……」
「あ、あの無能が!?」
「第三の追手部隊の兵士や勇者の全滅もその男が関わっています」
「な、なんたることだ……!!」
ガルタイト国にとっては勇者でないために無能と罵った暁斗によって追手部隊の第二陣が全滅に追い込まれた事実に国王は顔色を悪くした。
宰相も報告の際に、顔面蒼白だったのは言うまでもない。
それほどまでに、信じられない結果だったからだ。
「それで、アンは無事なのか?」
「ええ、拠点代わりの『アキレス』の街におられます」
「そうか……」
アンの無事を知り、安堵する国王。
そしてすぐに、宰相に向き直り、こう言った。
「しばらく新たなホムンクルス兵士を作る。 それまでの国政は任せたい」
「はっ、了解しました」
「ついでに、もう一度、あの術式の用意もしておいてくれ」
「新たな勇者召喚を行うのですね。 こちらも承りました。 占拠したエリアから生贄を連れてまいります」
「頼むぞ」
国王が応接室から出て、宰相一人になる。
「あの一件から……、彼を無能扱いした時から我が国は追い詰められたかも知れんな」
宰相はそう独り言ちながら、あらゆる準備をし始めた。
◇◇◇◇◇◇◇
「だ、第三の追手部隊も……ですって!?」
「はい。 例の無能と罵った男に、一人の勇者を解呪して裏切りの要因を作っただけでなく、多くの兵士と勇者を圧倒的に切り伏せたとの事」
「あ、あの男が……、くぅっ!!」
第三の追手部隊の全滅の報を受けたザナ王女は、今まで以上に怒りを滲ませた。
第二の追手部隊以上に彼によって屈辱的な痛手を負わせられたのだ。
「あの無能が……、なんでここまで……」
「どうも、勇者じゃない代わりにこの世界の存在する全てのジョブの素質を授けられたみたいですね。 ほぼ半分のジョブを極めただけでなく、Sランクの魔物のメイジフォックスウルフとの契約までしていたそうです」
「な、あ、あのSランクの魔物を!?」
「ええ」
Sランクの魔物をテイム契約したと知って顔を青ざめるザナ王女。
プライドが高いSランクの魔物は、基本的にテイムできないが、きっかけによって契約を願った場合のみ特例で契約できることを知らないのだ。
「第四の追手部隊の編成は?」
「現在、人選を選んでいる最中ですので時間がかかるかと」
「それで構わないわ。今は時間を掛けて取り組んで頂戴」
「畏まりました」
ザナ王女の命を受けて、メイドが部屋を出る。
一人になったザナ王女、そこには前回と違い恐怖に彩られていた。
「あの男がここまで強くなってたなんて……。 どうすれば……」
頭を抱えながら呪詛のようにザナ王女は嘆いていた。
◇◇◇◇◇◇◇
一方、ガルタイト国王城近辺にある安置室。
これは、逆らった者を処刑した際の死体を冷凍保存して安置する部屋。
だが、今まで利用したことはなくずっと放置されたままだ。
幾ら冷凍保存した場所とはいえ、魔法の力なのでそれが弱まれば腐敗する。
そんな中、一人の少女が目を覚ました。
「ん……、ぐ……、死体の臭いで目を覚ますとか……、いくら何でもタイミングが……。 しかし、愚父も愚姉妹も困ったものです。 考え方が違うからって私を勇者召喚の生贄にするなんて」
異臭に鼻をつまみながら少女は、悪態をついた。
「私は一度死んだはずなのにこうして生き返ることはある意味奇跡かもしれませんね」
彼女がホムンクルスである事は自覚しており、それでも一度死んだ身としては複雑な思いだろう。
「ですが、これはチャンスかも知れませんね。 早くここを出ましょうか……」
少女は安置室から裸のまま脱出し、王城に忍び込んだ。
「ステルス魔法がなければ、皆に裸を見られるわけですから…服を盗んで着替えましょうか」
ステルス魔法を掛けたまま、彼女は王城のとある部屋にある予備のメイド服と下着を盗み、すぐに着替えて王城から脱出しようとした。
その時……。
(話し声……? あれは愚父と宰相?)
聞き耳を立てているととんでもない事を知った。
改めて勇者召喚を行おうとしている事に……。
(これはまずいです……! 早くこの事を他国に知らせないと……!)
少女は脚力強化の魔法を使い、すぐさま城を出て、ガイアブルクへ向けて走っていった。
「はい。 魔族領最南端を守る防衛部隊にわが軍はなすすべもなく惨敗しました。 兵士は全滅、勇者も二人死亡したとのことです」
「お、おのれ……、魔族め……!」
ガルタイト国の王城、そこにある応接室にて宰相が国王のヘイト・ゾア・ガルタイトに惨敗の報告をしていた。
凶報を受けて、国王は怒りに震えていた。
自分の血を使い、強力なホムンクルスの兵士を量産し、さらにその力で自国の周辺にある国々を武力支配できる力を得て、ざぁ魔族ということで息巻いていたが亜人の集まりである魔族の力の前には無力を証明させる形となった。
「それだけではありません。 第三の追手部隊も一人の裏切りもあり、全滅しました」
「な、何ぃ!? 裏切りだと!? あの一件からそうさせないように対勇者の呪いを掛けてたはずだ!」
「それが、我々が無能と罵った男によってあっさり解呪されたようでして……」
「あ、あの無能が!?」
「第三の追手部隊の兵士や勇者の全滅もその男が関わっています」
「な、なんたることだ……!!」
ガルタイト国にとっては勇者でないために無能と罵った暁斗によって追手部隊の第二陣が全滅に追い込まれた事実に国王は顔色を悪くした。
宰相も報告の際に、顔面蒼白だったのは言うまでもない。
それほどまでに、信じられない結果だったからだ。
「それで、アンは無事なのか?」
「ええ、拠点代わりの『アキレス』の街におられます」
「そうか……」
アンの無事を知り、安堵する国王。
そしてすぐに、宰相に向き直り、こう言った。
「しばらく新たなホムンクルス兵士を作る。 それまでの国政は任せたい」
「はっ、了解しました」
「ついでに、もう一度、あの術式の用意もしておいてくれ」
「新たな勇者召喚を行うのですね。 こちらも承りました。 占拠したエリアから生贄を連れてまいります」
「頼むぞ」
国王が応接室から出て、宰相一人になる。
「あの一件から……、彼を無能扱いした時から我が国は追い詰められたかも知れんな」
宰相はそう独り言ちながら、あらゆる準備をし始めた。
◇◇◇◇◇◇◇
「だ、第三の追手部隊も……ですって!?」
「はい。 例の無能と罵った男に、一人の勇者を解呪して裏切りの要因を作っただけでなく、多くの兵士と勇者を圧倒的に切り伏せたとの事」
「あ、あの男が……、くぅっ!!」
第三の追手部隊の全滅の報を受けたザナ王女は、今まで以上に怒りを滲ませた。
第二の追手部隊以上に彼によって屈辱的な痛手を負わせられたのだ。
「あの無能が……、なんでここまで……」
「どうも、勇者じゃない代わりにこの世界の存在する全てのジョブの素質を授けられたみたいですね。 ほぼ半分のジョブを極めただけでなく、Sランクの魔物のメイジフォックスウルフとの契約までしていたそうです」
「な、あ、あのSランクの魔物を!?」
「ええ」
Sランクの魔物をテイム契約したと知って顔を青ざめるザナ王女。
プライドが高いSランクの魔物は、基本的にテイムできないが、きっかけによって契約を願った場合のみ特例で契約できることを知らないのだ。
「第四の追手部隊の編成は?」
「現在、人選を選んでいる最中ですので時間がかかるかと」
「それで構わないわ。今は時間を掛けて取り組んで頂戴」
「畏まりました」
ザナ王女の命を受けて、メイドが部屋を出る。
一人になったザナ王女、そこには前回と違い恐怖に彩られていた。
「あの男がここまで強くなってたなんて……。 どうすれば……」
頭を抱えながら呪詛のようにザナ王女は嘆いていた。
◇◇◇◇◇◇◇
一方、ガルタイト国王城近辺にある安置室。
これは、逆らった者を処刑した際の死体を冷凍保存して安置する部屋。
だが、今まで利用したことはなくずっと放置されたままだ。
幾ら冷凍保存した場所とはいえ、魔法の力なのでそれが弱まれば腐敗する。
そんな中、一人の少女が目を覚ました。
「ん……、ぐ……、死体の臭いで目を覚ますとか……、いくら何でもタイミングが……。 しかし、愚父も愚姉妹も困ったものです。 考え方が違うからって私を勇者召喚の生贄にするなんて」
異臭に鼻をつまみながら少女は、悪態をついた。
「私は一度死んだはずなのにこうして生き返ることはある意味奇跡かもしれませんね」
彼女がホムンクルスである事は自覚しており、それでも一度死んだ身としては複雑な思いだろう。
「ですが、これはチャンスかも知れませんね。 早くここを出ましょうか……」
少女は安置室から裸のまま脱出し、王城に忍び込んだ。
「ステルス魔法がなければ、皆に裸を見られるわけですから…服を盗んで着替えましょうか」
ステルス魔法を掛けたまま、彼女は王城のとある部屋にある予備のメイド服と下着を盗み、すぐに着替えて王城から脱出しようとした。
その時……。
(話し声……? あれは愚父と宰相?)
聞き耳を立てているととんでもない事を知った。
改めて勇者召喚を行おうとしている事に……。
(これはまずいです……! 早くこの事を他国に知らせないと……!)
少女は脚力強化の魔法を使い、すぐさま城を出て、ガイアブルクへ向けて走っていった。
0
お気に入りに追加
74
あなたにおすすめの小説

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜
水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。
その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。
危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。
彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。
初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。
そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。
警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。
これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。
果たして、阿宮は見知らぬ世界でどう生きていくのか————。
月が導く異世界道中
あずみ 圭
ファンタジー
月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。
真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。
彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。
これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。
漫遊編始めました。
外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

スライムと異世界冒険〜追い出されたが実は強かった
Miiya
ファンタジー
学校に一人で残ってた時、突然光りだし、目を開けたら、王宮にいた。どうやら異世界召喚されたらしい。けど鑑定結果で俺は『成長』 『テイム』しかなく、弱いと追い出されたが、実はこれが神クラスだった。そんな彼、多田真司が森で出会ったスライムと旅するお話。
*ちょっとネタばれ
水が大好きなスライム、シンジの世話好きなスライム、建築もしてしまうスライム、小さいけど鉱石仕分けたり探索もするスライム、寝るのが大好きな白いスライム等多種多様で個性的なスライム達も登場!!
*11月にHOTランキング一位獲得しました。
*なるべく毎日投稿ですが日によって変わってきますのでご了承ください。一話2000~2500で投稿しています。
*パソコンからの投稿をメインに切り替えました。ですので字体が違ったり点が変わったりしてますがご了承ください。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています

俺だけ成長限界を突破して強くなる~『成長率鈍化』は外れスキルだと馬鹿にされてきたけど、実は成長限界を突破できるチートスキルでした~
つくも
ファンタジー
Fランク冒険者エルクは外れスキルと言われる固有スキル『成長率鈍化』を持っていた。
このスキルはレベルもスキルレベルも成長効率が鈍化してしまう、ただの外れスキルだと馬鹿にされてきた。
しかし、このスキルには可能性があったのだ。成長効率が悪い代わりに、上限とされてきたレベル『99』スキルレベル『50』の上限を超える事ができた。
地道に剣技のスキルを鍛え続けてきたエルクが、上限である『50』を突破した時。
今まで馬鹿にされてきたエルクの快進撃が始まるのであった。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第三章フェレスト王国エルフ編
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる