失恋した少年は、妹の友達に癒される

記者逮捕の報告と敵対的買収

「え？ アイドルの一人が住むマンションに侵入しようとしたゴシップ記者二人が逮捕？」

「ああ、昨日の夜の出来事らしい。 あそこのマンションは入り口からセキュリティを高めていたが、どうも壊されていたらしく警察に通報したらそいつらが壊して侵入し、しかもピッキングをしようとした所だったって話だ」

「『住居侵入罪』に問われた訳か」

　楠家に匿ってもらってから８日目。
　静香と柚希ちゃんが通う葉月中は学校の開始を遅らせているが、俺や和人が通う高校は通常通りに始まっているので、おじさんに車で送迎してもらう形で通学している。
　そして、和人と縁、裕也と昼食をしていた時に裕也から昨日の夜に起こった出来事を教えて貰った。
　まさか、マンションのセキュリティを壊してでもアイドルの粗を探して記事にしようとはなぁ。
　その根性を別に回せばいいのにな。
　まぁ、アンチを対象にした記事を売りにしているから、手段は選ばないんだろうが。

「逮捕される前に『報道の自由を無視するな』とか喚いていたらしい」

「だからといって、他人のプライバシーを侵害していい訳じゃないけどね……」

「奴らにはそれを知ろうとしない……か。 ゴシップのラインすら越えてるな」

　逮捕前の記者の喚きの内容にも、呆れてモノが言えない。
　奴らは常に『報道の自由』を振りかざす。
　その為には他人のプライバシーも侵害しようとする。
　しかも、奴らはあの『葛川くずかわ新聞社』の記者だったようで、葛川新聞社にも捜査のメスを入れるかもと言う。

「あれであの新聞社がなくなってくれるといいんだがなぁ」

「そう簡単にはいかなさそうだ。 ほれ」

「なんじゃこりや！？」

「呆れるでしょ？ やっちゃいけない事をして逮捕されたのに、こんなタグを付けてまで抗議してるのよ」

　裕也がスマホを俺に見せてきた。
　別のＳＮＳのようだが、どうも今回の記者の逮捕が記事になったらしいが、それが気にくわないのか『葛川新聞社の記者の釈放を求めます』やら『葛川新聞社の記者の逮捕に反対します』やらの訳のわからないタグがトレンドになっていた。

「阿呆らしいな。 そいつらグルだろ？」

「間違いないわ。 でも、そいつらもすぐに垢を永久凍結、さらに新たに垢の登録は出来ない仕様にするらしいわ」

「なんでまた？」

　俺がどういう事かと聞くと、和人が口を開いた。

「今回の件、お袋がキレてな……」

「おばさんが！？」

　まさか、おばさんがキレるとは……。
　柚希ちゃんや和人に危機を晒したからか？

「やっちゃいけない事を平気でやる奴を支持して、逮捕に抗議したからだ。 んで、該当のＳＮＳ運営会社を敵対的ＴＯＢで買収したんだとさ。 元々、お袋は該当のＳＮＳ運営会社に対して改善を求めててな、協議してはいたんだが……」

　うわぁ。
　敵対的ＴＯＢで買収に踏み切るとか、えぐい事を仕掛けたなぁ。
　敵対的ＴＯＢは、相手側の同意なしで買収が可能になるやつだが、相手側にも防衛策があるから失敗もあるらしい。

「敵対的ＴＯＢが成立し、ＳＮＳ運営会社がお袋の会社になったからな。 規約や垢の管理とか相当厳しくするみたいだ。 何せ、誹謗中傷も野放しにしてきたわけだしな。 誹謗中傷を通報しても聞く耳持たなかった運営だから」

「それでか……」

　確かに特定のアイドルへの誹謗中傷は、見るに耐えない位に酷かったからな。
　今回の買収で犯罪を犯した記者の逮捕に関する抗議投稿してきた垢を含め、アイドルの中傷してきた垢に対しても厳しい対処になるだろうな。
　これで解決してくれればいいけど……。