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ひとつの恋が終わった日

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 それは、もうすぐ夏に差し掛かろうとした時期だった。

「悪いね。 今までのは嘘だったんだよ。 罰ゲームだったんだよ」

 そう告げた女子の発言に、俺…大谷(おおたに) 真人(まさと)の頭は真っ白になった。 いわばその女子は、元から俺の事なんて好きじゃなく、罰ゲームだから付き合っただけだったのだ。
 今までの時間が…、一ヶ月が無駄に終わった。 さらに、先ほどの女子の発言に俺の心は砕かれた。
 去っていく女子の姿を見ながら、俺は完全に立ち直れなくなり、重い足取りで家に戻った。

「ただいま…」

 ショックを受けたまま、足取りが重いまま家に戻ってきた俺はそのまま二階に上がり、自分の部屋のベッドに飛び込んで声を殺して泣いた。
 幸い、妹は友達の所に遊びに行っているために家におらず、両親も仕事でいない。
  涙を流しつくすには、十分すぎる時間帯だった。

「何もしたくない…」

 泣きつくしてもなお、ショックによって無気力になり、何もしたくない気分だった。
 そんな中、ドタドタと階段を上る音が聞こえる。直後、豪快にドアが開けられた。

「お兄ちゃん!!」

「静香?」

 豪快にドアを開けた中学二年の妹、大谷(おおたに) 静香(しずか)が驚愕の表情をしたまま入ってきた。
 俺は何とか起き上がって、静香を見る。 息が荒い事から走って帰ってきたのだろう。

「お兄ちゃん、本当なの!?  あの付き合いが嘘だったって…」

「ああ、本当だよ…」

 静香がどこからその話を聞いたのかは分からないが、力なく肯定する。 事実だしな。

「酷すぎる…罰ゲームだなんて…」

 肯定の答えを聞いた静香が、怒りに全身を震わせる。
 俺は、何とか体を起こして気になった事を聞いた。

「でも、なんで静香がその事を知ってるんだ?」

「それは…」

「私の兄が、その現場に居合わせたようなのです」

 静香が俺の疑問に答えようとした時、遅れて入ってきた少女が代わりに答えたようだ。 おそらくは静香の友達だろう。

「柚希(ゆずき)ちゃん」

「柚希ちゃんって…?  もしや、あいつの…和人の?」

 静香の友達の柚希ちゃん。
 彼女は、名前だけは和人から聞いてはいたが、こうして顔を合わせるのは初めてだ。
 何せ、和人が俺の家に来ることが多いし、柚希ちゃんの方は、静香から遊びに行っているからだ。

「はいなのです。 楠(くすのき)  和人(かずと)は私の兄なのです」

「という事は、あの現場に和人が…!?」

「はいです。 お買い物から帰る時に居合わせたそうです。 それを私や静香ちゃんに伝えたそうです」

 まさか、親友の和人があの現場に居合わせていたとは…。 

「あいつに恥ずかしい所を見せちまったな…」

「いえ、むしろ兄様は怒ってるのです。 真人お兄ちゃんの純情を踏みにじった女子生徒に」

「おおぅ…」

 静香や柚希ちゃんに報告する程だ。
 よほどあの女子生徒を許せなくなったのだろうな。

「あの女子生徒と繋がりのあるグループを徹底的に調べるとも言ってたのです」

「ああ…。 さすが御曹司。 行動力半端ないな」

 そう。
 親友の楠 和人は、最大手の楠グループの御曹司。 つまり、和人の妹である柚希ちゃんは令嬢というわけだ。
 その御曹司が徹底的に調べると言ってきた辺り、行動力も凄いのだ。ある意味羨ましいくらいだな。

「お兄ちゃん、ひとまず夕飯はどうする?」

「そうだな、食べよう。 色々あって疲れたけど飯は食べたいからな」

「真人お兄ちゃん…」

 静香と夕飯についてのやり取りをする傍らで、柚希ちゃんが心配そうに俺を見つめていた。

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