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それぞれの行き先

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優「…ぐすっ…」

涙が止めどなく溢れてくる。

確かに自分の欲望に忠実に親友が襲われている姿を驚きはしつつも後半は楽しんでワクワクしながらその部屋の壁になったように鑑賞していた。
だが、この世界に来たのはこちら側の人間の思惑によって連れてこられた。そういう場面を覗いてみたいから願った訳じゃない。

優が、皆が望んで来た訳じゃない。でも、皆と一緒だったから、だから笑っていられた、家族もそうだし打ち込んできたものが無くなっても、寂しいが知ってる人がいる、親の顔より見た存在がいたから。

でも今そんな心の拠り所であるヴェイルを始め、親友5人はもう優の近くにはいない。皆誰かの物になった…。
笑いあっていた学校生活、高校もそれなりに進学校で皆一緒の高校で優を含め学力で入った奴もいれば、スポーツ推薦で入った奴もいる。
高1だったから高校生活は長くは無かったがそれでも毎日楽しくなるべく会える日は一緒に遊び笑いあったそれまでの日々を思い出しまた涙した。

優「あっちに戻りたい…」

ポロリと出た言葉はただただ本音だった。
改めて1人だと実感した今急激に寂しく辛く虚無感に満ちた現状に優は打ちのめされていた。

ただ足は目的もなく動きつづけていたようで気づけば大浴場、あの大きな露天風呂がある所が見えるところに着いていた。
ふと入り口を見ると扉が開き、そこから明とゼインが出てきた。

咄嗟に身を隠し物陰に隠れていると2人の方から会話が聞こえてきた。

ゼイン「なっ!いいとこだったろココ!また来ような?」
明「お前とはもう来ない!なんで風呂場でまでヤられなきゃならないんだよ!」
ゼイン「そりゃもちろん明が色っぽいからだ」
明「ぐ…と、とにかく今度来るときは1人で来る!」
ゼイン「ダメだ」
明「な、なんで」
ゼイン「俺の嫁を他の奴らに見せたくねぇから。今日は無理言って1時間貸し切りにしてもらってたし、俺とだったからいいけど」
明「…なんだそれ…」



2人はなんだかんだ良い雰囲気で話しているようでその事実も今の優には追い討ちをかけた。

見えないように移動してその場を走り去り、暫くすると今度は前の廊下を歩く昴とシュラが遠くに見えたので急いで止まる。
2人は昨日の時から雰囲気が良かったのだが改めて今日見てみると甘々なムード全開でこれはこれで見ていてため息が思わず出る

シュラは昴の腰に手を当てながら昴の頭に何度もキスをして柔らかい笑顔を向けながら何か言葉をかけている。
遠いし先程の明とゼインの時とは違い昴はもちろんシュラもあまり大声を出すタイプではないのだろう。

ただシュラの口元を見る限り好きだとか愛してるとかかわいいとか歯の浮く様なセリフを言っているような気がする。
昴もシュラを見つめながら困った様な笑顔を向けていることから恥ずかしいけど言われて嬉しい…そんなところだろうか?

2人はその後昴の部屋に入っていったので改めて深いため息をつくと、優はこの皆の部屋の前にいて誰かに見られても面倒だと思ったので当てもなく再び歩いていく。

1人自分の部屋に入っても色々考えてしまうからそうしたのだがふと今度はいい匂いが前の方から漂ってきた。
余り先程までは気にしていなかったが腹は減ったので特に考えず転移者専用の食堂へと足を運ぶ。

するとそこから賑やかな会話が聞こえてくる。
思わず部屋の近くに居ると話の内容と誰が話しているのかが聞こえてきた。

バルク「ほらよ、食え!」
アッシュ「いらねぇよ!自分で食えよ!」
バルク「そう言うなよ嫁にはたらふく食わして栄養つけさせてやりてぇんだ!」
アッシュ「だから誰が嫁だっつーんだ!」
バルク「お前以外に誰がいんだ?」
アッシュ「うるせーっ!帰るっ!」
バルク「よっ…と!そうはさせねぇぜ!」
アッシュ「ちょ…離せよ!つーか下ろせ!」
バルク「嫌だね!」

その後もあーだこーだ言っている2人に声をかける人がいた。

敦「…でも、なんか仲良さそうでいいな!」
ソル「それで言ったら俺らもだろ?」
敦「ソルは旨いご飯作ってくれるから好きだぜ!」
ソル「それだけか?」
敦「気持ちいい事も好きだぜ!」
ソル「分かってんな!敦!」
アッシュ「ってか薬盛られたのになんでそんな能天気なんだ敦」
敦「結果的に気持ち良かったからいいんだよ!旨いご飯も作ってくれるしいい人だぞ?」
ソル「嬉しいこと言ってくれるぜ」
敦「まぁでも薬はもう勘弁な」
ソル「あぁ分かった!もう素面でも感じてくれるのは分かったしな?」
敦「…それは…言わんでもいい!」
ソル「ははは!」
バルク「俺らももっと仲良くしようぜ?ほれ、あーん」
アッシュ「やめろ!きもいんだ…んぐっ!」
バルク「口に入れられたらなんだかんだ言いつつモグモグして…かわいいやつ」



4人のバタバタとしつつも楽しげな笑い声を含んだ声を聞いて優の気持ちは更に落ち込みUターンしてその場を去る。

ギルドの入り口に一番近い階段付近に近づこうかと言うとき服は着込んでいるが腹の膨らんだヴェイルをお姫様抱っこの要領で抱えたジオが前から歩いてきた。
ヴェイルは腕の中で眠っているのか意識を失っているのか静かにしている。

ジオ「よぉ」
優「お前…」
ジオ「お前か…このギルドでそんな口利く奴らいたらこのギルドを二度と跨がせないくらいの事を言っているが…今日は特別に許してやる。俺は今気分がいい」
優「お前はそうだろうな…ヴェイルにとっては災難だろうけど」
ジオ「それは今日だけだ。今日以降は幸せに暮らすし俺がこいつを守るから安心しろよ?」
優「…っ!ヴェイルっ!!」

問答してても平行線だと感じた優はヴェイルを助ける為、ジオに走って行こうとした時後ろから手が伸びてきて口を布のようなもので覆われ身動きも取れなくなった。

視線だけで後ろを向くとヴェイルが襲われているときに優を拘束した男がいつの間にか後ろで優をまたしても拘束していた。

優は踠いて逃れようとしたがその前に布のようなものから奇妙な臭いが鼻につき動きを止めると今度はからだ全体が急に力が入らなくなり、優は混乱の中意識も遠ざかりつつあった。

そこにジオが殊更ゆっくりと話しかける。

ジオ「お前がヴェイルや他の奴らに会うことはもう無いだろう。お前には貰い手がつかなかったからな」
優「…っ!?」
ジオ「安心しろよ、ヴェイルはこのケイネアで一番幸せだと思わせるくらい幸せにするからお前は安心して眠れ」
優「ヴェ…イル…」



そうして優は意識を失くした。
この後俺はどうされたのか、ヴェイル達はどうなったのかは分からない。


俺があの時変に隠れて皆の様子を見ていなければ状況は変わっていたのか今となっては分からない。
もうなにも分からない…



ごめん!でも、ごちそうさま   完







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一旦こちらで本編完結です。
ただただ色々救いの無い作品に仕上がってしまいました。

「地道に行くしかないみたい」を優に救いのある続編として作る予定ではいます(主人公の名前違いますが秘密があります)。今まで以上にのんびり投稿ではありますし、此方以上の長編にする予定ではあります。

この後は番外編を何話かお届けします。


ここまでご覧いただきありがとうございました    エシカ
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