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第四部 ダンジョンマスター 後編

勝者と敗者、約束と願い

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「急げ、急げ! 民を守るために命を賭すのが我々騎士だ! 今こそ、その身をもって王都を守るのだ! またあの日の二の舞になんてさせぬぞ!」

 大声で指揮を取るのは少し見慣れた、珍しい銀髪の髪を持った少女だった。
 声を張りさけそうなぐらいに張っているが、兵士はともかく実力を認められた騎士すらも、絶望していた。

 そんな時、銀髪少女の頭の中はある一つの思いで占領されていた。

 これはあの世界の全能神とやらのせいか、と。

 その想像は完全に当たっており、動機ももはや二人の勝負に決着をつけるというだけ。
 しかし、それを知らなくてもこの惨状を見て、怒りを蓄積していた。

「――――ああもうやってられん!」

 そして爆発した。
 もう燃えてない家が珍しいぐらいにあちこちに火がついており、石造りの家は倒壊していた。そう、すべて。
 そこには王城も例外ではなかった。世界を征服できるとまで言われた大国。その権威の象徴ともされる王城は、見るも無残な石の山に成り代わっていた。
 誰がどう殺した、なんてどうでも良い。

「やってくれたな全能神!」

 空に吠える。青空なんて見えないくらいに黒い煙が立ち込める中、彼女はスキル――――否、ギフトを使用した。

「『時空操作』!」

 神に与えられた能力、というよりかは譲渡された権能。
 その力は規格化され規模もリスクも縮小されているが、それでも世界一つ越えることくらい余裕だった。
 すぐさま世界を超え、全能神のいる世界へ。

 戦場は、この世界だけではなかった。




「まずい」

「ちっ」

 二人して、その侵入者に気づいた。
 というか、たろーに関してはあれを見たところで薄々察しては居た......が、まさか向こうが収束しないうちにこっちに飛んでくるとは。

 にゅっ、と空間が揺れた。

「覚悟ぉぉぉぉお!」

 その動きは衝動的、感情的で、理性が見当たらなかった。
 まるで、若かりし彼女。と言うような――――って、そう言うことか。

「ようこそ、俺と会うのは初めてかな?」

「側仕えがいるとは聞いていなかったが」

 剣を構えながら、そう答えた。やはり。

「昔の彼女か。ここで君を倒せば面倒ごとが消えると思いたいんだけど......」

「私を倒す? はっ、笑止!」

 そう言って剣を振り上げる。

「はい停止、それから転送」

 すぐさま空間から追い出される。
 転送先は――――どうやら、彼女にギフトを与えた人の元らしい。

「私も、時空操作はある程度できる」

 どうやら空間を止めて動きを抑え、送り返した、というところまでやってくれたらしい。

「いや、助かる。俺この体に能力は分けられた管理権限程度しか今ついてないからな......」

「早めに着けておくことを進める」

「そうはいってもなぁ......乗り気じゃない」

 そう、単純にそうやってずるみたいに能力を、みたいな話じゃない。ただ、持っていても使えないのなら、持っていないほうがすっきりしているし気楽でいいってだけだ。つまり気分の問題。

「それだけなの......まぁいいよ。それより王城壊れてる。国王で決めよ」

「お、ほんとだ。国王だな。どっちがやったかな、っと」

 世界のログを辿る。
 ヒト種の生命活動停止に絞っても、全然王のログが見当たらない。

「にしても良かったのか?」

「いい。これが一番納得できる」

 反応からして、俺がどうやって決めるか悩んでいるのを読んでいたらしい。

「「あ」」

 二人同時に発見した。
 現国王の死んだ理由は――――







「俺の勝ちだ!」

「ぐぬぬ」

 俺のゴーレムが投下された時に踏み潰されて、らしい。
 全く戦闘要素がないが、勝ったものは勝った。

「俺の願い、聞いてもらう!」

「ん......これは負けた。エイリアンをずっと捜索に当たらさせてたけど見つからなかった」

 言い訳がましく下を見る。しかしエイリアンを攻めることはしなかった。

「俺の願いは私利私欲にまみれてるけど、いいのか?」

「いい。そう言う約束。それに、たろーならきっと、他人に迷惑はかけない」

 他人に迷惑はきっとかけないけど、その言い草的に俺の願いは聞かないようにしていてくれたらしい。

「それなら俺の願いは―――
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