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第四部 ダンジョンマスター 後編

終わりの始まり

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「なぁ、ぜっちゃん」

「どうしたの、たろー」

 いつものやり取りもどこか久しく感じる。まぁ実際久しいやり取りなんだろうけど、いまいち実感がわかない。

「もうすぐ、決めないか」

 その言葉だけで伝わったのか、あるいは心を読んだのか。少女は少し悩む素振りを見せた後、回答する。

「......分かった、罰ゲーム、たろー負けたら裸でグラウンド逆立ち一周」

「何その古典的な罰ゲーム......ぜっちゃん負けたら、俺の言うこと一個聞いてもらう」

「ん、わかった」

 いつかしたようなしてなさそうな約束をしてみる。
 ちなみに俺の願いは決まってるけど、それは言わない。面白くないから。

「それじゃ、始めよっか」

「あぁ」

 二人の仕事が始まった。



 この日、誰もが自身を守ることに注力していた中、あるイベントが開催された。
 このダンジョンマスターという制度が始まって以来、初めてのことで、そしてその内容は頭がおかしい、と八割のダンジョンマスターに言われた。

 ・ヒト種討伐イベント!

 ヒト討伐時のポイント1.5倍! どしどし倒そう!


「これ、どうしてこんなことするの? 私たちだけで王国をつぶせばいいじゃない」

「ま、これで全世界のダンジョンが活発化して、王国の敵が弱く成ればいいなって」

 強くなった時はまぁ、その時だ。

「そう。私の予知に支障はないから。先に私が行く」

「あいわかった、行ってこーい」

 俺は端末を操作する彼女を横に見ながら、侵略隊の編成を始めるのだった。


 そして世界は動き出した。
 魔物が少なくなった、と世界は騒ぎ、彼らは武力を蓄えていく。
 王都でその時を待つ者、魔物が少なくなった迷宮に潜る者。迷宮の少ない他国に逃げる者。それぞれが行動を起こしていた。

 そして、彼女もまた――――

「動き出した。銀髪だ」

 俺の見ているモニターには、あの日スパイを提案してきた彼女の姿が。
 身に白銀の軽装を纏い、レイピアを腰に構えた彼女は、どうやら現地人に紛れて王都で指揮を取っているようだ。もう何が原因かもわからない。聞いたような聞いていないような、そんなおぼろげな過去を思い出そうとするも、大抵思い出せない、と切り捨てた。

「それでたろー、どうするの? 数こそ少ないけど、警戒されてるとそれだけ物資も豊富に蓄えられてる」

「まぁ、策なんて講じる必要もない、物量作戦だ」

「やっぱり、二人ともそうするしかなさそう。少し前に強いやつ、死んじゃったみたいだし」

「それは朗報。まぁ、生きていても作戦に変化はないけど」

「それもそう」

 二人はまた端末を操作し始める。
 もう二人に言葉は必要ない。あとは戦力のぶつかり合いを眺めるだけだ。
 このダンジョンマスター、という新たな人員を投入した作戦は、最終局面を迎えようとしていた。
 しかし最終局面を迎えるのは、二人の勝負であるこの王都襲撃作戦だけではなかった。
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