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第二章
2-1 俺の目も腐ったものじゃあなかった。
しおりを挟むそして巻き戻る世界が完全に記録された地点と同じになったところで、世界は再び、正しく時を刻み始めた。
「――――はぁっ、はぁっ」
一人、息を荒くする。
もう、少し慣れてきたまであるこの『読み込み』。だけど、ペースが明らかに速すぎる。もうこの問題に使えないんだけど......
焦る気持ちを抑え、前の通りに行動する。
ここで逸れたら、情報がすべて無駄になる。それだけは回避しないと。
「それでは、ここに血を」
そう言って用意されたのは二本のナイフと三枚の紙。全く同じ文面がそこに書き記されていた。三度目ともなるともう慣れたものだ。これが最後になればいいんだが......
慣れた国王を見ながら、俺もナイフで指を切る作業へと入る。
ぴっ、とナイフについていた血を払い、指で血をつけた。
両者の血が紙に付着したその瞬間。そこに置かれていた紙から黒い魔法陣が現れたと思うと、すぐに消えてしまった。
「これで契約は終了です。一つはそちらで控えておいてください」
そう言って高身長の男は俺に契約書を手渡してきた。
とりあえずその契約書を制服のポケットに突っ込む。やっぱり消えている。
「それでは、最初に依頼、と行きましょうか。異世界人の知識をこちらに提供していただく代わりに、衣食住の保証と戦闘訓練、そしてこちらの世界の知識をお教えするというのはどうでしょう」
もはや国王を置いて高身長の男が話を持ち掛けてきた。こいつが、今回の鍵。
「それはこちらとしても願ったりかなったり、ですね、よろしくお願いします」
そう言って、高身長の男と握手を交わした。全く同じように。
そして翌日からの座学も同じ結果が出されたためにトイレに逃げ込んだ。
はぁ、次は戦闘訓練か。ことを起こすならここだが......
今朝に一応、長身の男の姿はちらっと確認した。
様子もおかしいところなんて特になく、前日と特に変わらなかった。
まぁ、そりゃあ前回と同じなんだから、行動が変わるほうがおかしいが。
トイレの中で思考整理をする。
襲撃してくるのは魔王軍幹部。目的は異世界召喚者一行を戦闘不能、もしくは殺害すること。
死体を確認してないのは長身の男と講師の女性。さっきまでいたが、こっちも前回とそこまで変わらなかった。
ならば今回は過激に、どちらかを殺害して襲撃が起きるかどうか確認......? いや、死んだのを確認できるかもしれない。そうなったら結局襲撃の未来は変わらない。
それなら答えは一つ。襲撃回避だ。
「スキルも試し打ちできたでしょうから、これから......そうですね、スキルを使わない訓練をしてから、昼食、そしてスキルを使って戦闘をしてみましょう!」
その一声を聞いて、前から歓声が上がった。
「ほーら、何そんなに固くなっちゃってるの!」
折原さんの声。いつもなら誤解される表現だ、とか考えていられたのだろうけど、今はそんなに楽観視してはいられない。
「あ、ごめんね。すぐに行くよ」
そう声をかけておけば、彼女は先に行く。そう知っている。
「お時間、いいですか」
「......えぇ、どうぞ」
このタイミング、この聞き方に対してこう答える。そう知っている。
が、これからは知らない。
それは、今回聞くことは前とは違うからだ。
「先生、どうして魔王の力量差を知ってるんですか」
それは少し前――――死体を探していた時から疑問に思っていたことだった。
しかしそのあと二度と彼女と会うことはなかったので、結局謎が謎のままだったのだ。
そう思うと、この先生もう少し何か隠してそうだけど......
「......伝承よ」
先生は、悩んだ末にそう答えた。
「それにしては、やけに実感がこもっているようでしたが」
追及をしてみる。
思えば彼女は、この火力でこれだけしか、と言っていた。その言葉は、実際に見たことがないと出てこない。
「まぁ、そういった言葉が飛び出してしまったのよ、結構詳細に書かれていたから」
「そうですか」
うむ、やはり理由付けは弱かったらしい。期待外れ、と言った表情だろうか。見るからに落胆の表情を浮かべていた。
二週目と違い、何を言おうと、そこから先は言ってくれなさそうだ。
しかし、それだけでいいだろう。
彼女は、きっと言えないのだ。
もしスパイなら、言えないということそのものを隠してくる。
が、彼女はその言葉を繰り出す速度と言い、言い訳しているようにしか見えない。
本当に答えたくなければ、もっと突き放せば良い。
「ありがとうございました」
俺はお礼だけ言うと、部屋を出た。
戦闘訓練。同じように教官を倒しても構わないだろう。が、問題はそのあと、三人からのリンチを受けて死亡した場合、俺が死体から復活するまでの時間で襲撃が始まってしまう。俺が連れ去られた時にはもうすでに何もかも終わっていたのだろう。
ま、そりゃMPが回復するまで死体のままなので動けませんなんて言っていたら、間に合うはずもない。
となると、ここで復活というカードを切るべきではない。
しかし、ここをトイレに逃げ込んでやり過ごすとどちらにしろ襲撃が始まる。
「一回戻るか」
先ほどはぐらかされたが、別件なら話を聞いてくれるだろうか。
「すみません、もう一ついいですか」
「はぁ、なに?」
「これから、魔王軍の襲撃が王城にあるって言ったら先生......信じますか?」
その瞬間、空気が数段冷えたような錯覚に陥った。
「それをどこで知ったの?」
「......信じてくれますか?」
俺のスキルの情報はばれていない。最悪『予知』とか適当に嘘ついて協力をお願いしたいが......
俺の中では白、こちら側の人間だと思ったからの相談だった。
が、動きは鈍い。俺の見る目がなかっただけか......? と冷や汗をかいていた。
先生が口を開いた。
「わかったわ。一度だけ信じましょう。どうすればいいの?」
「そ、それがわからないんで......異世界召喚されたメンバーを、何か理由をつけて王城から出せないですか? 例えば、買い出しとか」
もし目標が王城、そして目的も政の妨害だけならそれでいいんだが......もしかしたらそれに巻き込まれる形で襲撃を食らっているかもしれないし。
正直国王は知らん。
「それなら、街を探検してみようとか、適当に戦闘訓練の教官と話をつけて街に行かせるわ」
良かった.....しかし、状況は何も変わっていない。二週目は俺が本を読んでいたとはいえ、昼寝の時間――――あと二時間程度だろうか。しかも連れ去られるのが、何もかも終わるのがその時間だから、正直一時間程度だろう。
「すぐに。もうすぐ来ます」
「......分かったわ。すぐに話をつけてくる」
そう言って、先生は飛び出すようにして戦闘訓練をしているところへと走っていった。
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