55 / 68
七章 試練
通達
しおりを挟むこの魔力量、そして俺の手札では、この相手には勝てない。
元から、運がよかったのだ。
魔弾がそこまで使い勝手がいいのなら、もっと使用者が多くていいはずなのだ。
しかし使用者が少ないのは、単純な威力不足という大きなハンデがあるからである。
それを魔力のごり押しで強化していたが、それは完全にデメリットが消えたわけではない。
ほかだってそうだ。
俺の魔法をはじめとするすべての戦い方は、魔力効率を無視している。効率を無視するとどうなるか、それは魔力が切れる、もしくは魔法を使えない状況になったときが俺の終着点。
それはいつも肝に銘じていたはずだ。
しかし、いつ肝に銘じても、勝てないものは勝てないし、できないものはできない。
これだから、一点特化タイプの探索者は。ただただ己のやり方を貫くことで強みを発揮するそのやり方は裏を返せばそれ以外となると一気に弱くなると同義。
守りたいものすら、守れない。
こんなの、いくら何でもひどすぎる。
もっと紗耶香と話をしたい、もっと手をつなぎたい。もっとその笑顔を見たい。
もっと―――――
ずっと、一緒にいたい、それだけなんだ。
だから、俺は排除する。
紗耶香を傷つけるもの、仇なすもの、泣かせるもの。
紗耶香の敵は、俺が排除する。
「うおおぉぉぉぉぉぁああああああ!」
俺は、ただ最後の最後まで魔力を振り絞る。
どこか弱点だの、どこが能力の根源だの、そんなことは聞いちゃいねぇ。
ただ、俺の矛で、すべてを貫く。
ただ、それだけだ。
右手に持っていた魔法銃の銃口を向ける。
相手も俺の最後の攻撃だと分かっているのか、構えてくる。ただ、その力を正面から打ち破って、その心を折ってやらんとばかりに。
ここでドラゴンが速効できる魔法を撃っていれば。ここで障壁を張っていれば。未来は変わったかもしれない。少なくとも、ここに運命の強制力は働いていなかった。
そして未来は一点の現在へと収束する。
「『魔弾』!」
そこに生成されたのはいつものように見ていた魔弾。どうやらドラゴンも見えているらしく、それに合わせて口に魔力をためていた。ブレスを吐くつもりだろうが、そんなもので倒させやしない。
引き金を引いた。いつもの数十倍込めた射出は、俺の眼に残像だけを残して飛んで行った。
しかしそれすらドラゴンはとらえていたらしく、おおきく息を吸うと、それを吐き出した。
魔力の込められた大きなブレスが、電気を纏って放出された。
一点に魔力を込めた魔弾と、拡散された巨大な波のようなブレスが襲い掛かった。
準備万全の敵にかなうはずもない、だが、せめて相打ちに。
魔力が切れ、新たな俺を生成することもできなければ、指輪による蘇生もあの継続攻撃の前には無駄に終わるだろう。
それでも、紗耶香のもとへは、行かせない。
その覚悟を持って、抜けかけていた銃を持つ手に力を込めた。
しかし、予想は良い意味で外れていった。
ドラゴンの頭に、穴が開いていた。
魔弾が波の中を貫通し、ドラゴンの頭を直撃したのだろう。
一瞬で頭をつぶされたドラゴンはブレスを維持できず、俺に被害は来なかったようだ。
なにはともあれ。
紗耶香を......
「......ん」
どうやら、寝ていたらしい。寝てなかったのと、最後まで魔力を絞り切ったことが災いしたのだろう。......って、知らない天井するの忘れてた! 起きたとき頭が回らないのはいつもだな......
知らない天井というか、しらない部屋を見回す。
俺はベッドの上で寝ていて、壁も床も天井も白い。そしてそばには紗耶香が寝ていて......って、紗耶香!?
俺がびっくりしてベッドから転げ落ちた震動で、ベッドにうつぶせになる姿勢で寝ていた紗耶香も目が覚めたらしい。
「拓海! 起きたのね!」
「う、うん。結構寝てすっきりしたよ」
「そりゃそうよ、だってあなた、丸一日は寝てたのよ!」
「丸一日!?」
となると、たしか夜は二回明けたのを見たからドラゴンとの戦闘が火曜日。そして倒してから一日だから......もう水曜日か。ここまでくると、もう一週間全部休みたい。
「一週間休みたい、でしょ」
「う、うん、なんでわかったの?」
「拓海なら、そう考えそうだなって......って、何言わせるのよ!」
そういうと、顔を真っ赤にして部屋から出て行ってしまった。
と思ったら、部屋に白衣を着た人が入ってくる。
「体調のほうは、どうですか?」
「あ、えぇ、まぁ、大丈夫です」
「そう緊張なさるな。まぁ、もう少し、具体的に言うと二日間ぐらいはここで様子を見てもいいかもしれん。なに、金はとらん。なにせ英雄様だからな。」
「???」
「ん、どうやら、わかっていないらしい。彼女が説明をしたと思っていたのだが......まぁ、俺の口から伝えさせてもらうぞ。ここは病院、それも探索者が送られてくる病院だ、聞いたことあるだろ?」
「あ、はい」
「それで、丸一日寝込んでいた。原因は魔力失調とレベルアップ酔い、それから睡眠不足だな。ぶっ倒れてからすぐに救急車で病院へ運んで、今はこの通り、ってわけ」
「なるほど」
俺はまだ回転しない頭の中にできるだけ情報を詰めていく。
「本当にわかったのかね?」
「うん、まぁ、だいたい」
「わかっとらんだろ......また後で説明に来る」
そう言って、扉から出て行ってしまった。
さて、独りぼっち、どうしよう?
暇だしステータスでも見るか。
「ステータス」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
藍染 拓海 人間 男 魔力堤防lv100
HP10/10
MP error
筋力10
体力10
敏捷10
知力10
魔防10
器用10
幸運10
スキル
魔力譲渡lv10
魔力回復増加lv10
魔力操作lv10
支援魔法lv8
感覚強化lv10
隠密lv8
暗視lv9
#狂化_バーサーク__#lv7
幻術眼lv8
偽装lv8
罠感知lv5
双子座
スキルポイント 209
双子座 人間 男 双子座lv―――
HP10/10
MP―――――
筋力10
体力10
敏捷10
知力10
魔防10
器用10
幸運10
スキル
魔力譲渡lv10
魔力操作lv10
支援魔法lv8
感覚強化lv10
隠密lv8
暗視lv9
#狂化_バーサーク__#lv7
幻術眼lv8
偽装lv8
罠感知lv5
双子座
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
なんと、四次職がもう最大か。次は五次職、つまり最後だが......どうなることやら。
そしてついにエラーを吐きやがったこのステータス! もう少し頑張ってくれよぉ!
まぁ、これで百階層到達を本気で狙えるだろう。
さて、最後の職業は......また一つか。
魔の力の到達者
ほう、今までずっと容量みたいな話してきてたからどうしたのかと思っていたが......まぁ、名前は重要ではない。大事なのはまだステータスが伸びるかどうか。
とりあえず最終職へと転職をした。
今までと同じように、職業が変わった。が、そのあとがいつもと違った。
頭の中にアナウンスの声が響く。
・魔なる力の到達者が誕生しました。これにて、九人の到達者は揃いました。
間をおいて、次のメッセージが届く。
・迷宮第百階層にて力の継承を行って下さい。
出た。迷宮百階層についての言及が。
俺はここに向かうために、装備を着て部屋を飛び出した。
しかし、急いで飛び出した俺の足は、すぐに止まることとなった。
「何処へ行くの、拓海......」
壁に背を向けた紗耶香が、どこか悲しそうな音色を響かせながらもそう聞いた。
0
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!
夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。
ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。
そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。
視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。
二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。
*カクヨムでも先行更新しております。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
クラス転移したからクラスの奴に復讐します
wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。
ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。
だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。
クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。
まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。
閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。
追伸、
雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。
気になった方は是非読んでみてください。
百花繚乱 〜国の姫から極秘任務を受けた俺のスキルの行くところ〜
幻月日
ファンタジー
ーー時は魔物時代。
魔王を頂点とする闇の群勢が世界中に蔓延る中、勇者という職業は人々にとって希望の光だった。
そんな勇者の一人であるシンは、逃れ行き着いた村で村人たちに魔物を差し向けた勇者だと勘違いされてしまい、滞在中の兵団によってシーラ王国へ送られてしまった。
「勇者、シン。あなたには魔王の城に眠る秘宝、それを盗み出して来て欲しいのです」
唐突にアリス王女に突きつけられたのは、自分のようなランクの勇者に与えられる任務ではなかった。レベル50台の魔物をようやく倒せる勇者にとって、レベル100台がいる魔王の城は未知の領域。
「ーー王女が頼む、その任務。俺が引き受ける」
シンの持つスキルが頼りだと言うアリス王女。快く引き受けたわけではなかったが、シンはアリス王女の頼みを引き受けることになり、魔王の城へ旅立つ。
これは魔物が世界に溢れる時代、シーラ王国の姫に頼まれたのをきっかけに魔王の城を目指す勇者の物語。
俺が死んでから始まる物語
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。
だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。
余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。
そこからこの話は始まる。
セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる