魔力極振りの迷宮探索

大山 たろう

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七章 試練

恋の試練1

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 デート二日目。

 今日はもう行き当たりばったりなところは見せたくないので、ある程度デートコースを考えてきた。

 予定は遊園地だ。
 デート初心者の俺でも簡単にコースを決められて、なおかつ楽しめそうだからな。

 今日も早く来てしまったが、今日はあえて遅れていくことにする。
 そのほうが昨日と違った顔を見られそうだからだ。

 集合を九時半としていたが、紗耶香は二十五分に着いたようだ。

 俺はトットット、と軽く走っていく。

「お待たせ、待った?」

「ううん、全然。それじゃ、いこっか。」

 紗耶香はそういうと、俺の手を握って入場ゲートへと向かっていった。

 しかし、今見ると......

 最初はつんつんしてたやつが、しおらしくなったな......

 なんとも言えない違和感を覚えてしまう拓海だった。

「まずどこいこっか?」

 紗耶香がそう聞いてきたので、俺はまず最初といえば、と前置きを置いてある所へと向かう。

 ジェットコースター。

 数ある主人公キャラの弱点であることの多いこの悪魔の乗り物へと、俺は意を決し乗り込む。

 開園してから間もないからだろう、結構すいていて、すぐに乗ることができた。

 二人で並んでたが、もし分かれて乗ることになったら心細いな......

 しかし、いらぬ心配だったようで、二人で隣どうしだ。

 俺が今か今かと待ちわびていると、紗耶香が手をぎゅっと握ってきた。

 なに、そんな最初とは急変した態度をとっちゃって!

 どうしてもあった当初のツンツン感を思い出してしまう。いうなれば柿の種とピーナッツから急に柿の種がなくなってしまったような、そんな感覚。

 いやなわけじゃない、だが、俺が無理をさせてはいないだろうか......いや、そんなことを心配しても変わらない、ここは気楽にいこう。

 一人で慰めまで済ませるボッチ技術の中級技を披露していく。披露する相手もいないのだが。

「そぉれではー、いってらっしゃいませー!」

 無駄なことを考えているうちに、発射の時刻となったようだ。
 少し特徴的な話し方をする女性が、ジェットコースター発射のボタンを押した。

 だんだんと上昇していく目線と気持ち。

 隣を見て風景を見るふりをして紗耶香を眺めるくらいには余裕がある。

 俺はいろんなラノベの主人公のような感じにはなれなさそうだ。紗耶香のほうはというとずっと前を見てガチゴチに凍っている。しかし泣くほどジェットコースターが好きなようでうれしい限りだ。
 なんて考えているうちに一番高いところまできた。
 紗耶香がこちらを見る。その目じりには涙が浮かび、絶望の表情に顔を染めていた。なぜ絶望......と思っていたが、紗耶香がジェットコースターを嫌いな可能性を失念していた。これは不覚。

 そんな俺の後悔ももう遅く、ジェットコースターの戦いの火蓋が切って落とされた。

 急降下、一回転、急速旋回からの急上昇、急降下。

 そんなえげつねぇ動きをした結果、降りたときに紗耶香はなかなかグロッキーな顔をしていた。口から魂が抜け落ちそうなほどに白くなった顔。しかもよく聞くと小声で「ジェットコースター怖い」とずっと言っている。確かに今回のやつはすごかった。最後のほうは罪悪感九割爽快感一割ぐらいだった。

「ごめん、そんなに苦手だと思ってなくて......」

「いや、いいよ、けどちょっと休憩させて......」

 その言葉にすぐ応じ、俺は予定を前倒ししてフードコーナーに入るのだった。

「ふぅ......」

 どうやら落ち着いたようだ。

「それで? 何か弁明はあるのかしら?」

 叱られているはずなのに、なぜかシナシナの葉物が息を吹き返してシャキシャキになったようだ。少しうれしい。前のような元気を取り戻してくれて。

「あーもう、作るのやめ、やめ。彼女っぽくしようとしたけど、性格に合わない! ずっとこんなのしててみんな正気かしら?」

 先ほど買ったドリンクをチューチューと吸っていく。しかし、作ってたのか、もう紗耶香も入学の時から変わったなぁ......ってお父さんみたいにするところだった、あぶねぇ。この演技力は女子特有なのか、それとも紗耶香の実力なのか、はたまた俺が鈍いだけなのか。最後はないにしても、紗耶香が相当な実力者ってことを覚えておこう。紗耶香すげぇ。

「それで、次行くところは決めてるの? 一応教えてほしいのだけれど」

「うーん、そうだな......それじゃ、ここらへんで昼まで遊ぶか?」

 そう言って指さしたのはメリーゴーランドとかお化け屋敷とかの、ソフトなものの集まったところだ。

「いいわね、休憩にもちょうどいいわ。それじゃ、そこ行きましょ」

「おっけ、行くか」

 俺が立ち上がったとき、紗耶香は「それと」と言いながら俺のほうを見る。

「これから行くところは、先にすべて確認をとること。いいわね?」

 あい、ごめんちゃい。

「この年でもメリーゴーランドは楽しいもんだなぁ、あれ何で楽しいんだろうか。」

 そんなことを言ってみる。しかし「そんなこと知らないわよ」とそっけなく返されてしまった。これだよこれ!ってなんか病みつきになってる感じがする。俺もテンション上がっておかしくなってるのかな......

「ほら、いくわよ」

 適当に時間を潰せて、紗耶香もおなかがすいたようだ。俺たちはさっきまでいたフードコートへと戻った。



 何店舗か店が並ぶ中、俺はラーメンを受け取り席へと戻った。先に戻った紗耶香はチュロスを買ったようだ。それでおなかは膨れるのだろうか、また無理はしていないだろうかと心配になるが、その程度自分が一番わかるだろうと好奇心を抑えた。これがボッチ初級技、無言の構えだ。とはいっても上級者になるほど無言の構えが必要なくなるのだが。っと、紗耶香を待たせないようにさっさと食うか。

 昼食を食べ、ゆっくりしたので、またどこかのコーナーでも行ってみようと思う。

 と思って席を立ちあがったときだった。

「なんだあれ!」

 平穏の崩れる音がした。
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