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七章 試練
選択の日は遠く、されど確実に近づいて
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デート当日。
俺は緊張した結果三十分前に到着してしまった。
少し寒くなってきて、吹き付ける風が痛く感じる。
大人しく椅子に座って待っていることにする。
急に冬って感じがしてきたな......
『今日は迷宮に行かないのか?』
そう問いかけてくるのは魔銃だ。あの後結構探したら、木陰に隠れてるのを発見した。見つけたとき、
『やっと来てくれたのじゃぁぁぁぁあああ!』
恐らく体があれば半べそをかいているレベルで大きな声を出していた。
まぁ、それは置いといて、今日は一応の護身用としてこいつだけ持ってきた。
ホルスターを本当は作りたいのだが、文化祭騒動と後片付けで結構忘れることも多かった。
ちなみに今はズボンと体の間に挟んでいる。結構きつめにズボンを締めたからどこかでなくすことはないはずだ。
モロに風を受けている手を息で温めていると、電車の改札から見覚えのある人が歩いてくる。
紗耶香だ。
いつもは制服か迷宮の時の服装で、私服なんて見たことなかったなぁ......いや、そもそも私服で学校の人と遊びに行くこと自体がはじめてだ。
言ってて悲しくなりながらも、紗耶香のところへと走る。
「ごめん、待った?」
「うーん、そんなに?」
いつもならテンプレ通りの返答である「いや、俺も今来たところだよ」を使うのだろうが、テンプレ通りの返答をするのも俺じゃない感じがしたからか避けた。
「それじゃ、行こっか。」
二人の、デートが始まる。
「まずはどこ行く?」
「どこいこっか?」
「とりあえず、のんびりいこっか。」
その一、女子の「まずはどこ行く?」質問は「ここ行きたいけどいいよね?」という本音の裏返し。
なので俺は彼女の横にいるのだが、行く先は彼女にゆだねている。
というか、隣にいるクソ可愛いこの子が俺の彼女なんて......考えらえれねぇ。今でも夢を見ているんじゃないかと心配になる。
すると、急に紗耶香はこっちを「はっ!」と言いながら見てきた。
ぼーっと眺めていた俺はびっくりしてつい大きな声を上げてしまった。
「ふふ、びっくりした?」
その太陽のような笑顔を見ると、その天使のような声を聞くと、そのたびに心が震えるような感覚に襲われる。
惚れた男の弱み、というやつなのだろうか。
中学の時に置いてきたと思った感情が、ここでくるだなんて。もう中学のあの子に未練はない。ただ紗耶香と一生を添い遂げたい、そんな思いまでこみあげてくる。
と、そこで横断歩道が目の前で点滅し始めた。小さいとはいえ、信号無視はちょっと初デートでするのは......
とか考えているうちに紗耶香は俺の前へと来る。
「ほら、行くわよ」
そう言うと、紗耶香はその左手で俺の右手をつかむと、点滅した横断歩道を走っていく。
もうすぐ赤になる、通り抜けようとした車にクラクションを鳴らされないだろうか。この光景を誰か知り合いに見られてはいないだろうか。
そう考えると、どんどんとドキドキしてきた。
渡り終えたとき、二人は顔を真っ赤にしていた。俺は走ったのが原因ではないが。
「手、握ってごめんね。ほら、行くよ」
しかし、俺はその手をとっさに握り返す。
「今日は、これで行こう」
そう勇気を振り絞って言う。恋人ってこんなにも大変なものなのか、と思ったが、この手を放したくないと思ったこの気持ちは少なくとも俺の本心だろう。
「わかった!」
その横断歩道を渡り切った達成感を出した、素直な彼女の顔を、俺はやっと見ることができた。
やっぱり、女の子は笑顔が一番って、よく言ったもんだ。
「あ、ここ行こ!」
彼女が指さしたのはクラスメイトの間で話題になっているというカフェ。俺は聞いたことないと答えたら、「それは拓海の情報網が限定的すぎるからよ」とド正論を返されてしまった。
中に入って、注文を頼む。
俺はコーヒー、紗耶香はコーヒーとケーキを頼んだようだ。
二人で席に座り、ゆっくりとした時間を過ごす。
時の流れが遅くなったようで、されど実際はとても早く過ぎてしまう、そんな儚いひと時を堪能した。
天ノ川も来ないし、誰かが殺しにも来ない。魔力を使うこともなければ、銃を抜くことすらない。
二人でそんな世界で生きられたら、どんなに楽しいだろうか......
そんな夢物語を考える余裕なんて、高校入ってからなかったな......
そのあとも、二人で一緒にいろんなことをした。
俺は、紗耶香といることがこんなに楽しいと思わなかった。
俺は、紗耶香がこんなに温かいと思わなかった。
その太陽のような温かさに触れて、どうしたらいいのかもうわからなくなった。
「俺は、何をしてお返ししたらいいんだ?」
そう、帰る間際で聞いてみた。
紗耶香の顔が一気に凍る。しかし、それも一瞬のことで、すぐに笑顔に戻ると
「いつか、私の願い、かなえてね」
そういうと、駅の改札まで走っていき、「またねー!」と大きな声で叫んでくる。
きっとその願いは迷宮に潜ることと二つに一つで。
天秤に乗せて勝てるようになって初めて、願いを言うのだろう。
もう俺の中では、どっちも同じくらいに大切だというのに。
もうあの優しさを、手放したくないのに。
しかし無意識に伸ばした右手は宙をきり、無慈悲に冷たい風が指の隙間を抜けていくだけだった。
『主よ、どうするつもりなのじゃ』
魔銃は問う。
「どうって、何がだ」
魔銃は問う。
『もし、天秤に乗せる日が来たら、どうするのじゃ』
「それは、その時考えるよ」
しかしその言葉を理解せよと戒めるように、魔銃はその言葉をかみしめるように紡いだ。
『人の命は、昔ほど重くはないぞ?』
その言葉が胸に、重くのしかかるのだった。
俺は緊張した結果三十分前に到着してしまった。
少し寒くなってきて、吹き付ける風が痛く感じる。
大人しく椅子に座って待っていることにする。
急に冬って感じがしてきたな......
『今日は迷宮に行かないのか?』
そう問いかけてくるのは魔銃だ。あの後結構探したら、木陰に隠れてるのを発見した。見つけたとき、
『やっと来てくれたのじゃぁぁぁぁあああ!』
恐らく体があれば半べそをかいているレベルで大きな声を出していた。
まぁ、それは置いといて、今日は一応の護身用としてこいつだけ持ってきた。
ホルスターを本当は作りたいのだが、文化祭騒動と後片付けで結構忘れることも多かった。
ちなみに今はズボンと体の間に挟んでいる。結構きつめにズボンを締めたからどこかでなくすことはないはずだ。
モロに風を受けている手を息で温めていると、電車の改札から見覚えのある人が歩いてくる。
紗耶香だ。
いつもは制服か迷宮の時の服装で、私服なんて見たことなかったなぁ......いや、そもそも私服で学校の人と遊びに行くこと自体がはじめてだ。
言ってて悲しくなりながらも、紗耶香のところへと走る。
「ごめん、待った?」
「うーん、そんなに?」
いつもならテンプレ通りの返答である「いや、俺も今来たところだよ」を使うのだろうが、テンプレ通りの返答をするのも俺じゃない感じがしたからか避けた。
「それじゃ、行こっか。」
二人の、デートが始まる。
「まずはどこ行く?」
「どこいこっか?」
「とりあえず、のんびりいこっか。」
その一、女子の「まずはどこ行く?」質問は「ここ行きたいけどいいよね?」という本音の裏返し。
なので俺は彼女の横にいるのだが、行く先は彼女にゆだねている。
というか、隣にいるクソ可愛いこの子が俺の彼女なんて......考えらえれねぇ。今でも夢を見ているんじゃないかと心配になる。
すると、急に紗耶香はこっちを「はっ!」と言いながら見てきた。
ぼーっと眺めていた俺はびっくりしてつい大きな声を上げてしまった。
「ふふ、びっくりした?」
その太陽のような笑顔を見ると、その天使のような声を聞くと、そのたびに心が震えるような感覚に襲われる。
惚れた男の弱み、というやつなのだろうか。
中学の時に置いてきたと思った感情が、ここでくるだなんて。もう中学のあの子に未練はない。ただ紗耶香と一生を添い遂げたい、そんな思いまでこみあげてくる。
と、そこで横断歩道が目の前で点滅し始めた。小さいとはいえ、信号無視はちょっと初デートでするのは......
とか考えているうちに紗耶香は俺の前へと来る。
「ほら、行くわよ」
そう言うと、紗耶香はその左手で俺の右手をつかむと、点滅した横断歩道を走っていく。
もうすぐ赤になる、通り抜けようとした車にクラクションを鳴らされないだろうか。この光景を誰か知り合いに見られてはいないだろうか。
そう考えると、どんどんとドキドキしてきた。
渡り終えたとき、二人は顔を真っ赤にしていた。俺は走ったのが原因ではないが。
「手、握ってごめんね。ほら、行くよ」
しかし、俺はその手をとっさに握り返す。
「今日は、これで行こう」
そう勇気を振り絞って言う。恋人ってこんなにも大変なものなのか、と思ったが、この手を放したくないと思ったこの気持ちは少なくとも俺の本心だろう。
「わかった!」
その横断歩道を渡り切った達成感を出した、素直な彼女の顔を、俺はやっと見ることができた。
やっぱり、女の子は笑顔が一番って、よく言ったもんだ。
「あ、ここ行こ!」
彼女が指さしたのはクラスメイトの間で話題になっているというカフェ。俺は聞いたことないと答えたら、「それは拓海の情報網が限定的すぎるからよ」とド正論を返されてしまった。
中に入って、注文を頼む。
俺はコーヒー、紗耶香はコーヒーとケーキを頼んだようだ。
二人で席に座り、ゆっくりとした時間を過ごす。
時の流れが遅くなったようで、されど実際はとても早く過ぎてしまう、そんな儚いひと時を堪能した。
天ノ川も来ないし、誰かが殺しにも来ない。魔力を使うこともなければ、銃を抜くことすらない。
二人でそんな世界で生きられたら、どんなに楽しいだろうか......
そんな夢物語を考える余裕なんて、高校入ってからなかったな......
そのあとも、二人で一緒にいろんなことをした。
俺は、紗耶香といることがこんなに楽しいと思わなかった。
俺は、紗耶香がこんなに温かいと思わなかった。
その太陽のような温かさに触れて、どうしたらいいのかもうわからなくなった。
「俺は、何をしてお返ししたらいいんだ?」
そう、帰る間際で聞いてみた。
紗耶香の顔が一気に凍る。しかし、それも一瞬のことで、すぐに笑顔に戻ると
「いつか、私の願い、かなえてね」
そういうと、駅の改札まで走っていき、「またねー!」と大きな声で叫んでくる。
きっとその願いは迷宮に潜ることと二つに一つで。
天秤に乗せて勝てるようになって初めて、願いを言うのだろう。
もう俺の中では、どっちも同じくらいに大切だというのに。
もうあの優しさを、手放したくないのに。
しかし無意識に伸ばした右手は宙をきり、無慈悲に冷たい風が指の隙間を抜けていくだけだった。
『主よ、どうするつもりなのじゃ』
魔銃は問う。
「どうって、何がだ」
魔銃は問う。
『もし、天秤に乗せる日が来たら、どうするのじゃ』
「それは、その時考えるよ」
しかしその言葉を理解せよと戒めるように、魔銃はその言葉をかみしめるように紡いだ。
『人の命は、昔ほど重くはないぞ?』
その言葉が胸に、重くのしかかるのだった。
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