上 下
49 / 68
七章 試練

恋はいつも突然に

しおりを挟む
「なぁ、藍染君、君は、「ねぇ、拓海、今日放課後、生徒会室に来て」」

 天ノ川を遮るようにして紗耶香が俺に要件を伝えてくる。要件なら昨日話したと思っていたのだが......


 俺はさっさと幻術を使用して天ノ川を任せると、教室の端っこにいる徹と司のもとへと走る。

「うっす」

 軽ーく挨拶を交わしていく。男子高校生何て所詮こんなものだ。かるーくでいいのだ。

 二人からも軽い挨拶が返ってきた。

俺たちがあの犯罪者どもを倒したという事実に、今まで俺たちを見下していたやつや、仕事を押し付けていたやつらは様々な反応を示していた。

 ある人は顔を青くして目線をそらす。
 ある人は顔を赤くしながらにらみつけてくる。
 ある人は俺たちを見るなり「化け物!」と言ってどこかへと行ってしまった。まぁ、事実すぎて何も言えねぇ。

 俺は後ろから聞こえる天ノ川の「くそぉぉぉぉおおおお」という叫び声をBGMに、ロッカーに体重を預け、携帯で小説を読み始める。

 お気に入り登録をしていた作品のいくつかが新しい話を掲載していたので、それを片っ端から読み始める。

 十から数えるのをやめた更新速度の速い作品をすべて読み終わったところで、チャイムが鳴る。

 さぁ、ここからはステータスの力の及ばない世界だ。

 俺は覚悟を新たに席に座るのだった。

 先生との戦闘が始まった。

「おい! 藍染! 提出物は!」

「ってお前もか! 影山!」

「授業中に飯を食うな斎藤!」

「って寝るな! 起きろ藍染!」

「授業中に本を読むな影山ぁ!」

「もう十分寝ただろ藍染ぇ! はぁ......はぁ......」

「だから.....授業中に飲食は禁止だって何度言った......」

「おい......本を......読むな......」

 ガクッ

 よし、第一の難関、国語科の中山を倒した!

 これでやっと思い思いの行動を、と思ったところでチャイム。今日はちょっと時間をかけすぎた。

 二時間目はいつも課題さえすれば静かな先生なので、この授業はしっかりと課題をしてきた。

 三時間目も寝ても大抵怒られない。やはり中山と五六時間目が難関だな。

 四時間目、体育はもはや何もできないのであきらめて授業を受ける。

 そして飯を食って五時間目。化学の水原 昇華先生。これがまた難関なのだ。

 一時間目みたいな熱血筋肉先生を相手にした手法を使うと、ウルウルと目を潤ませて見つめてくる。

 まるで道端の犬を蹴っているような罪悪感を覚えてからは、あの手法をとれなくなってしまった。
 それに加え、その日以降周りの目がきつくなっているのだ。身長が高くはないため親近感がわいているのか、みんな先生の味方だ。ちなみに副担であるのでなかなかの苦労人だ。なにせ担任にすべて押し付けられているのだから。

 仕方がないので、先生が目を離した時だけ俺は寝る。視線を多く感じたら起きたらいい。

 向こう二人ももうあんな思いはしたくないようで、同じような手段をとっていた。

 二時間使って化学を勉強した......というより視線の感じ方みたいなものを勉強した俺たち。


 先生の簡潔なホームルームを聞いて、さっさと帰ろうとして、横からの視線を感じる。

 じっと、じっと......見つめてくる紗耶香。

 うん、寝すぎて忘れてた。

 俺は体育のせいなのか、それとも寝すぎたせいなのか、気持ちの問題なのか、重い足を動かして生徒会室へと向かった。


「それで、昨日の話の続き?」

 そう聞いたが、紗耶香は何も答えない。

 二人っきり、電気もついていない生徒会室で何を話すつもりなのだろうか。

「拓海、私と付き合いなさい」





 そう、急に切り出された。
 ちょ、おま!?
「どういう風の吹き回し?」
 顔では平穏を装っているつもりだが......正直隠せている自信はない。だってそうだろう。女子から告白してくるなんて、しかも学校で数えるほどの顔で有名な人だろう?

 しかし、そんな混乱をものともせず、紗耶香は話を続ける。

「これは決定事項よ、わかったわね? わかったら明日と明後日、デート行くわよ」

 明日と明後日は休日。どうやら俺をそうやって迷宮から遠ざけるつもりらしい。

「別に、いつまでも止められると思ってないわ。それでも、よ」

 顔を赤くし、尻すぼみとなっていく言葉。まぁ、何か紗耶香も打算があってこれをしているのか。

「そうだね、付き合おう。デートも二日ぐらいどうってことないさ」

 そう言ったら、紗耶香が顔をぱぁっと明るくした。

 なに、急にクッソ可愛いんだが?

 とか思っていると、残念なことに咳ばらいをすると一瞬で顔が元の真っ赤に戻る。元の真っ赤というのも何かおかしな気もするが。

「それなら、明日の十時、迷宮都市の駅前の時計のところで集合よ。遅刻しないでね!」

 そう言い切った彼女は、荷物を手に抱えて生徒会室を走り去っていった。

 ついに、僕。

 彼女ができました。やべぇ死んでもいい。いや、死んだらダメじゃん! デート行けないじゃん!

 と、ここで気付く。

 死んだら、ダメじゃん。

 まさか、自分という存在を心残りにさせて、最後まであきらめさせないつもりか......?

 しかし、考えすぎだと思考を放棄して、生徒会室に鍵を閉め、職員室に返却すると、家へと帰るのだった。

 本当に、考えすぎなのかと、思考を巡らせながら。



「はぁ......」

 ついに、やってしまった。
 姉が好きだと知っておきながら、私は抜け駆けするかのように、いや、実際に抜け駆けをしてしまった。

 最初は彼の生きるために枷にでもなってやるという打算的な理由だったのだが、途中から思いが先行してしまった。

 まぁ、これで彼と迷宮との距離が遠くなるのであれば......

 そんな打算と思いのサンドイッチに、抜け駆けというスパイスと明日のデートという具材を入れた、簡単に表現をするのであれば彼への想いを胸に、ベッドの上で布団を抱きしめるのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

箱庭から始まる俺の地獄(ヘル) ~今日から地獄生物の飼育員ってマジっすか!?~

白那 又太
ファンタジー
とあるアパートの一室に住む安楽 喜一郎は仕事に忙殺されるあまり、癒しを求めてペットを購入した。ところがそのペットの様子がどうもおかしい。 日々成長していくペットに少し違和感を感じながらも(比較的)平和な毎日を過ごしていた喜一郎。 ところがある日その平和は地獄からの使者、魔王デボラ様によって粉々に打ち砕かれるのであった。 目指すは地獄の楽園ってなんじゃそりゃ! 大したスキルも無い! チートも無い! あるのは理不尽と不条理だけ! 箱庭から始まる俺の地獄(ヘル)どうぞお楽しみください。 【本作は小説家になろう様、カクヨム様でも同時更新中です】

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

クラス転移したからクラスの奴に復讐します

wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。 ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。 だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。 クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。 まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。 閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。 追伸、 雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。 気になった方は是非読んでみてください。

処理中です...