魔力極振りの迷宮探索

大山 たろう

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三章 迷宮の洗礼

新装備よりも初恋

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 日曜十分休養して月曜日。
 とりあえず、装備を整えたいと思ったので、昼休み、司の進展を聞きに行く。調子がよさそうだったら、装備も頼もうかな。

「司、生産職どうだ?」

「順調だよぉ、装備作ってあげようか!」

「おう、頼む、支払いは魔石でいいか?」

「いいよぉー、いつにしようか?」

「今度の土曜でもいいか?」

「わかったぁー、それなら入口入ったところでしゅうごうしようかぁー」

「了解。装備は......胴体に着ける軽めの装備とか頼んでいいか?」

「わかったよぉー」

 司との定例会議を終え、俺は五時間目の体育に備え更衣室へと向かった。

 更衣室は男臭いので、さっさと来てさっさと着替える。いつもは中に体操服を着ていたのだが、今日は中に切るのを忘れていた。服を脱ぎ、体操服を着ようとしたところで、異変に気付く。

 魔法陣の三分の一......よりは少し小さい、十分の三とか、それぐらいの範囲が黒く変色していた。

 とりあえず服を着て、周囲に誰もいないことを確認すると、ステータスを確認した。
 しかし、異常はなく、しいて言えば俺のレベルとスキルレベルが上がってた程度だ。

 心当たりのないものをいつまでも眺めても仕方がないので、さっさと運動場へと向かってしまおう。

 記憶の片隅にこのことを追いやると、走って更衣室を出ていくのだった。







 放課後。
 俺はバッグを持ち、すぐに帰ろうとして、席を立った。が、残念なことにすぐには帰ることはできなさそうだ。

「一年、藍染君。放送であることないことこれからのことをばらされたくなかったら、今すぐ生徒会室へ来なさい」

 会長の声が校内全域に響き渡る。
 そして教室から向けられる二対四つを大きく超えた数の視線が俺に集中する。
 会長め、なんてことをしてくれるんだ!
 俺は会長への復讐心をたぎらせながら、生徒会室へと直行した。


「あら、遅かったじゃない」

「十分早く来ましたよ?それより、放送のあれ、どういうことですか?」

「あなたをせかすためのちょっとした悪戯心よ」
 反省した様子がなく、むしろ喜んでるまである会長を見てさすがに俺もイラっと来た。
「その様子でしたら、魔力譲渡の契約も破棄でよさそうですね」
 そう切り出すと、会長の顔から笑みが消えた。
「それはさすがにシャレにならないから今日はここらへんでやめておくわ」

「もう二度としないでください、心臓に悪い」
 俺はため息を吐きながらそう言った。

 そういえば。
「そういえば会長、今日の要件は何だったんですか?ここまで急かさせて何もないとか言ったらしばきますよ
 というと、会長はあたかも忘れていたという表情をした。
「そうそう、予知結果を先に教えておこうかと思って」

「ズレも発生しないという認識であってます?」

「まぁね。これからのズレは大きくても最近のほうはほぼ確定した未来だから。それで結果だけどね、あなた今のうちから
 分体ドッペルゲンガーのレベルを最高の10目標で上げておきなさい」

「ほう、理由は聞けないんですね」

「まぁ、そうね。そこは言えないわ」

「わかりました。今度から意識的に上げてみます」
 だあ
 そう言い、いつものように生徒会室を立ち去ろうとしたのだが。

「あ、そうだ、これは個人的な話なんだけど......」
 と呼び止めた。俺に個人的な話とは何だろうか。
「誕生日って、いつなの?」
 なんだ、そんなことか。

「六月六日ですよ、そういう会長はいつなんですか?」
 一応お世話になっているのだし、その日にプレゼントでも送ってみるか?
 しかし会長の次の言葉で打ち砕かれる。
「私に誕生日プレゼントを贈ろうだなんて十年早いわよ、出直してきなさい」

「えぇ......」
 最初に感じていた恨みはどこへやら、なぜか負けたという気持ちが俺の心を占めていた。









 今日は土曜日。なので会長に言われて通りにするのは少し癪なところもあるな......
 拓海は会長を信じたのではなく、スキルの予知を信じたのだと言い聞かせ、迷宮へと向かう。
 前回ニ十階層を目指したが、行けなかったときに余った食料がまだ残っていたので、自転車をこいで集合場所へと向かう。
 そこには少し早く着いたのか、大きめの袋を抱えた司がいた。

「司、お待たせ」

「ああ、拓海ぃ、今できたところだったから問題ないよぉ! はい、これ注文の品ぁ!予算のなかで一番いいものを作ったよぉ!」

 そう言って見せてくれたのは金属でできた、急所を守る構造をしたチェストプレートを渡される。

「皮とかのほうがよかったんだろうけどぉ、創造で素材を生成するときにぃ、やっぱり生物由来のものとか使うと魔力消費跳ね上がるっぽいんだよぉ......この装備も会長が急にくれた魔力バッテリーがなかったら作れなかったくらいだよぉ」

「あ、あの会長が?」

「うん、ばれてたの教えてくれても良かったじゃない、あ、そうそう、会長から伝言もあずかってるよ、『少し早い誕生日プレゼントよ』だってぇ?女の人に祝ってもらえるなんてぇ、もしかして気があるんじゃなぁい?」

 とニヤニヤしながら司が肘で俺の腹をつついてきた。

 その顔はもうあれだろう、『早く付き合え』ということだろう。
 しかし、脈はないだろうな。

「あ、脈がないっていう顔してるぅー!脈があったら付き合うとか、そんなのなんかずるいよぉー」

 その言葉に俺は気づかされる。もし仮に、会長が俺に好意を抱いていたら、俺は会長と付き合うのだろうか。
 恐らく、告白されたら断らないと思った。
 だからこそ、俺の感情がどうかわからない。

 そういえば、あの人と出会ってから、異性に対して胸をキュンキュンさせるなんて言う甘酸っぱい感情、感じていないな......

 俺が思い出す......否、思い出してしまうのは、忘れたくても忘れられない、あの人だった......
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