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1章
今だけは最強の魔法使い
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ファイアボール、それは費用対効果としては随一である、火の初級魔法である。詠唱も短く、他の詠唱と同じように、ぼそりと呟けば発動する。
だが、威力の面においてはほかに比べ見劣りするため、クレディは好んで使わなかった。
というのに、何故。
「なんでって、顔をしてるわね」
クレディは、少し怒気が含まれた音色で漏らした。
「あんたがいなくなってから、私なりに戦い方を変えたのよ。それがこれ」
俺がいなくならなければ、そんなことをする必要もなかったのに、と言いたいのだろうか。
いや、そんなことを言うくらいならはじめから助けになんて来てくれはしないか。人の心とは、難しいものだ。
「これで生き残れるならいくらでも練習くらいしてやるわ」
覚悟の籠った、力強さだった。
そしてその目は未だ敵を見据えていた。
バフはまだ、十分な効果のまま持続している。
「やってくれたな、小娘」
「リーダー、まずいっす、クヒッ」
二人が後ずさる。
「――――ファイアボール、――――」
クレディは、またもファイアボールを撃ちだした。その数は二。
それを見てもう魔力が尽きたかと考えたのか、敵二人はにやりと笑っていた。
一気に二人が距離を詰める。
戦闘能力で一番今厄介なのは確実にクレディだと判断、すぐに殺して聖女を攫うとか、そう言う考えだろう。
「それが罠だと気付かずに」
ファイアボールを回避して接近してきた二人に向け、体で隠して詠唱を終えたファイアランスを撃ちだした。
呪術師はその槍を胸に受け、リーダーは太ももに食らった。
バフによって強化されたファイアランスは、呪術師の胸を装甲ごと貫き、地面に大きな穴をあけていた。
リーダーはともかく、呪術師のほうは即死だろう。
そしてリーダーも、足を負傷した以上これまでのように機敏に動くことはできなさそうだ。
「今だけは最強の魔法使いだって、言ったでしょう?」
そう言って、もう一度詠唱を行い、リーダーの心臓部目掛けファイアランスを撃ちだした。
「クレディ、助かったよ」
「何、申し訳ないと思うならパーティーに戻ってきてもいいのよ?」
そう、にやりと言った。
だが首を横に振り俺は即答する。
「俺はパーティーに戻るつもりはない。それ以外なら、埋め合わせをしよう」
「冗談よ、冗談。あんたが戻ってくるつもりがないことくらい、分かっていたわ」
そう、微笑んだ。
「どうしたんだ、そんなにしおらしくなって」
風邪でも引いた、なんて言葉では説明がつかないほどに、追放された日と違って敵意がまるでない。
「その言い方は腹立つけど......ケルヴィンにああやって振りほどかれると、百年の恋も冷めるってものよ」
あぁ、そう言うことだったのか。
俺はその言葉だけですべてを察していた。
あくまでクレディはケルヴィンと同じように行動していただけで、俺への敵意がケルヴィンほど高くなかった、ということか。
そしてケルヴィンの言うとおりにしていたけど今朝恋が冷めてからは、特に敵視する必要もなくなった、というわけだ。
「まぁ、あんたの力を認めざるを得なかった、ってのももちろんだけど」
そう言って、下を向き、杖を握りしめる。
そして「それでも」と前置きを入れて、目を合わせてくる。
「ケルヴィンを詰め所送りにしたことは、恨んでる。恋愛感情じゃなくて、パーティーの仲間として」
確かに、その通りだろう。
と、その瞬間、クレディが杖を俺のほうに向けてくる。
「だからここで魔法を撃たれても仕方がないと、そう思わない?」
「――――そうだな、甘んじて受け入れよう」
ケルヴィンを詰め所送りにしたこと、だというのに都合よくクレディに助けを求めたこと。
俺も、俺が彼らにされたいたような仕打ちを同じようにしていたと言われても、文句は言えない。
ならばそれは俺が受けるべき罰だろう。たとえその選択を俺が後悔していなくても、これが正解だと信じていても。俺の結論でしかなく、彼女のことを、パーティーのことを一切考えていない結論だから。
「そうね、だからこれまでのパーティーのことも含めて――――」
こつん、と杖で俺の額を小突いた。
鈍い痛みが伝わる。
バフは、かけなかった。
「これでおあいこよ」
そしてクレディは、二ッと笑うのだった。
だが、威力の面においてはほかに比べ見劣りするため、クレディは好んで使わなかった。
というのに、何故。
「なんでって、顔をしてるわね」
クレディは、少し怒気が含まれた音色で漏らした。
「あんたがいなくなってから、私なりに戦い方を変えたのよ。それがこれ」
俺がいなくならなければ、そんなことをする必要もなかったのに、と言いたいのだろうか。
いや、そんなことを言うくらいならはじめから助けになんて来てくれはしないか。人の心とは、難しいものだ。
「これで生き残れるならいくらでも練習くらいしてやるわ」
覚悟の籠った、力強さだった。
そしてその目は未だ敵を見据えていた。
バフはまだ、十分な効果のまま持続している。
「やってくれたな、小娘」
「リーダー、まずいっす、クヒッ」
二人が後ずさる。
「――――ファイアボール、――――」
クレディは、またもファイアボールを撃ちだした。その数は二。
それを見てもう魔力が尽きたかと考えたのか、敵二人はにやりと笑っていた。
一気に二人が距離を詰める。
戦闘能力で一番今厄介なのは確実にクレディだと判断、すぐに殺して聖女を攫うとか、そう言う考えだろう。
「それが罠だと気付かずに」
ファイアボールを回避して接近してきた二人に向け、体で隠して詠唱を終えたファイアランスを撃ちだした。
呪術師はその槍を胸に受け、リーダーは太ももに食らった。
バフによって強化されたファイアランスは、呪術師の胸を装甲ごと貫き、地面に大きな穴をあけていた。
リーダーはともかく、呪術師のほうは即死だろう。
そしてリーダーも、足を負傷した以上これまでのように機敏に動くことはできなさそうだ。
「今だけは最強の魔法使いだって、言ったでしょう?」
そう言って、もう一度詠唱を行い、リーダーの心臓部目掛けファイアランスを撃ちだした。
「クレディ、助かったよ」
「何、申し訳ないと思うならパーティーに戻ってきてもいいのよ?」
そう、にやりと言った。
だが首を横に振り俺は即答する。
「俺はパーティーに戻るつもりはない。それ以外なら、埋め合わせをしよう」
「冗談よ、冗談。あんたが戻ってくるつもりがないことくらい、分かっていたわ」
そう、微笑んだ。
「どうしたんだ、そんなにしおらしくなって」
風邪でも引いた、なんて言葉では説明がつかないほどに、追放された日と違って敵意がまるでない。
「その言い方は腹立つけど......ケルヴィンにああやって振りほどかれると、百年の恋も冷めるってものよ」
あぁ、そう言うことだったのか。
俺はその言葉だけですべてを察していた。
あくまでクレディはケルヴィンと同じように行動していただけで、俺への敵意がケルヴィンほど高くなかった、ということか。
そしてケルヴィンの言うとおりにしていたけど今朝恋が冷めてからは、特に敵視する必要もなくなった、というわけだ。
「まぁ、あんたの力を認めざるを得なかった、ってのももちろんだけど」
そう言って、下を向き、杖を握りしめる。
そして「それでも」と前置きを入れて、目を合わせてくる。
「ケルヴィンを詰め所送りにしたことは、恨んでる。恋愛感情じゃなくて、パーティーの仲間として」
確かに、その通りだろう。
と、その瞬間、クレディが杖を俺のほうに向けてくる。
「だからここで魔法を撃たれても仕方がないと、そう思わない?」
「――――そうだな、甘んじて受け入れよう」
ケルヴィンを詰め所送りにしたこと、だというのに都合よくクレディに助けを求めたこと。
俺も、俺が彼らにされたいたような仕打ちを同じようにしていたと言われても、文句は言えない。
ならばそれは俺が受けるべき罰だろう。たとえその選択を俺が後悔していなくても、これが正解だと信じていても。俺の結論でしかなく、彼女のことを、パーティーのことを一切考えていない結論だから。
「そうね、だからこれまでのパーティーのことも含めて――――」
こつん、と杖で俺の額を小突いた。
鈍い痛みが伝わる。
バフは、かけなかった。
「これでおあいこよ」
そしてクレディは、二ッと笑うのだった。
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