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【11】
しおりを挟む「…………なっ!?」
ふとした瞬間にぱちりと目を覚ましたオルは、思わず覚醒そうそうに息を詰まらせてしまいました。
全身真っ黒な何者かが、おどろおどろしい血走った目で自分を覗き込んでいたのです!
しかしオルは勇者でしたから、すぐさまその何者かの正体に思いいたりました。
その何者かが真っ黒なのは、あらゆる生き物の返り血を浴びに浴び続けたからだ……と、直感的に気付いたのです。
「おのれ魔王めっ!!」
ずばっ!!
オルは何故か偶然手にしていた聖剣で、とっさにその魔王を斬りつけました。
何やらおどろくほど切れ味のいいその聖剣は、そのただひと太刀のもとにあっけなく魔王を殺してしまいました。
「…………」
魔王は叫び声の一つさえ全く上げず、最初から最後までただただ無言でどさりとその場に倒れるばかりでした。
「……、……ナロ! ……おいナロ、何処にいるんだっ?」
何やら自分がたったいま殺した魔王とは別の魔王の死体がすぐそばにあるのを見付けたオルは、ハッとして周囲を見回し、呼びかけます。
「なあ、ナロ! ……またお前が、僕を助けてくれたんだろう?」
そうです、きっとそうです。
そうに違いありません。
だって……お兄さんたち二人にいじめられていたときも、お父さんからひどい仕打ちを受けたときも。
そんな理不尽な世界に絶望しかけたオルを助けてくれたのはいつだって、誰よりやさしいナロだったのですから。
「ナロ、さあ一緒に帰ってまた剣のけいこだ! 大丈夫、お前はすじは悪くないんだ……きっと……ッ……きっともっともっと強くなる、からっ……!!」
必死に呼びかけるオルの声が、うるんで震え始めます。
何故か……何故かナロがいま自分のすぐ近くにいて、なのにもう絶対に会えないような、そんな気がしてなりません。
「……今までありがとう、オル」
ふと……ふとそんないつかのセリフを、オルは確かに耳にしたはずでした。
しかしはじかれたように大急ぎで振り返ってみても、そこにはやはり、自分が殺した恐ろしい魔王の死体が突っ伏しているだけです。
オルの自慢の大親友の姿なんて、やっぱり何処にもありません。
*
気の遠くなるような月日が流れ……二人の魔王から世界を救った勇者オルの伝説は、今日も世界中で語り継がれ続けています。
そして勇者オルの伝説には、必ずある人物の名前もセットで出てきます。
その人物とは、勇者の親友……その名を、ナロ。
伝説によると勇者オルは、魔王を倒したのち生涯にわたって世界を旅してまわり、各地で人助けにはげむかたわら……行方不明の親友ナロを、死ぬまで探し続けたのだそうです。
けれど結局勇者オルは親友ナロと再会することは出来なかった、と伝説は語ります。
でも今となっては、そんな勇者オルの頑張りは決して無駄ではなかった、と言えるはずです。
だって、その伝説が語り継がれるかぎり……少なくとも伝説の中では、二人はずっと一緒でずっと仲良し。
ずっとずっと、永遠に親友どうしであり続けられるのですから……。
めでたし、めでたし。
〈おしまい〉
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