何にでもなれるおっさん

【1】

　むかしむかし、あるお・と・ぎ・の世界に、何・に・で・も・な・れ・る・お・っ・さ・ん・が産まれました。

　何にでもなれるおっさんは、何にでもなれる代わりに何故か産まれた時からおっさんだったので、仕方がないから、まずは順当に赤ちゃんになってちょっとずつ成長してみることにしました。
　と言っても、実は実際に成長する訳ではなく、たとえば今日０歳と十日目の赤ちゃんでいたなら明日は０歳と十一日目の赤ちゃんにな・る・、というのを毎日繰り返すだけのことです。
　きっとご存知の方も多いかとは思いますが、おっさんは基本的に成長しない生き物なのです。

　おっさんは基本的におっさんであることも、何にでもなれることも隠しながら、のんびりと平穏な日々を過ごしていました。
　が、おっさんはどちらかと言えばとても善良な部類のおっさんです。とてもお・ひ・と・よ・し・のおっさんなのです。
　なので、たとえばく・わ・をこわして困っている農夫がいたら、それが直るまでこっそり代わりのく・わ・にな・っ・て・あげました。
　嵐で川がは・ん・ら・ん・した時は、こっそり堤防にも橋にもな・っ・て・あげました。
　逆に日照り続きの時は、こっそり雲にな・っ・て・雨を降らせてあげたりもしました。

　他にも、一つ一つを取り上げたらいつまでたっても話が終わらないくらいですが、おっさんはいつもいつもこっそり誰かの求めるものにな・っ・て・は、その誰かの笑顔をこっそり嬉しく思う、そんな自分がまあまあ嫌いではありませんでした。