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◇本編Ⅱ◇

021.一途な愛 ※オリバー視点

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「ねぇ。オリバー。付き合い初めて随分経つんだし、そろそろ先に進んでも良くない?」
「!?」

 そんなことをセフィロトが言い出したのは、恋人になってからしばらく――一年ほど経ったある日の夜のことだった――。

 オリバーはセフィロトとデートを重ねて愛を育んではいたが、進展といえるのは口付けくらいで、それまでそれ以上先の行為を行うことはなかった。

 当然、興味がない――筈がない。どちらかといえば堅物だと言えるものの、オリバーだって成人済みの男だ。恋人と愛し合いたいという思いはある。だが……。オリバーは正真正銘の童貞であり、口付けだってセフィロトが初めてだったのだ。

 積極的に口付けることさえ、勇気を振り絞るのにかなりの時間を要したオリバーにとって、性行為というのはいささか難易度が高い。

 ……何より、正直なところ上手く行為を行える自信がなかった。

「……っ、俺は初めてで上手くできるか分からない、のだが……」
「うん。それは知ってるよ? むしろ、初めてじゃなかったら驚きだし……。オリバーが童貞じゃなかったら、初体験の相手誰なのさ! って、僕絶対に拗ねてたからね。……でもさ、やっぱりせっかく恋人になったんだから愛し合いたいじゃない?」

 そんなことを言いながら、セフィロトが頬を膨らませてオリバーを上目遣いで見上げた。白い手がオリバーの頬へと伸びてくる。どうして良いか分からず、オリバーは固まった。

 微動だしないオリバーに、セフィロトはどこか焦れた様子でオリバーの手を掴むと、自らの腰に手を添えさせた。セフィロトの甘い香りがほんのりと香る。細い腰を抱きながら、オリバーはごくりと唾を飲み込んだ。

「上手くなんて出来なくて良いから……。ね……?」

 ベッドサイドのテーブルの上の蝋燭の火を、セフィロトがふっと吹き消した。

 ――夜の帳が下りてゆく。



 最初はどんな風に求めれば良いのか分からずにオリバーは途方にくれていたが、

「僕が最初で最後の相手だと嬉しいな」

 そう耳元でそう囁かれて、オリバーはベッドの上で可愛らしい下着姿になったセフィロトの身体を、その力強く太い腕でゆっくりと膝の上に抱き上げた。セフィロトの唇へとおずおずと口付けて、そのまま舌を口内に潜り込ませる。

 しっとりとしたセフィロトのきめ細かな肌に触れたオリバーの身体が、かっと熱を持った。自らの衣服を脱ぎ、少しぎこちないながらも、味わうように舌を吸う。

 セフィロトにはザインという恋人がいたので、当然初めてではないことは分かっていたし……もしも、拒絶されたらという思いが、僅かにオリバーの中で首をもたげた。

 だが、セフィロトはそんなオリバーからの不器用な口付けに対して、嬉しそうに微笑んでくれた。

「……オリバーが思ったままにして良いから」

 セフィロトにそう言われて、幾分か迷った末――オリバーはセフィロトの下着を剥いだ。やや丸みを帯びた身体は、男性とは思えない程に柔らかかったが、均整の取れた身体付きはやはり青年のものだった。思ったよりも高いセフィロトの体温が非常に心地が良い。

 人の肌が、こんなに気持ちが良い物だと、オリバーはその日初めて知った。



 二人分の体重を支えているベッドが、ギシギシと軋む。セフィロトの中にゆっくりと自らの雄を挿入したオリバーは、ぐぅと息を飲んだ。セフィロトの中は柔らかくて、オリバーにとっては非常に心地良かったが、ザイン以外をしらないセフィロトの蕾はきつい。セフィロトが少しだけ苦しそうな表情を浮かべているのに気付いたオリバーは「大丈夫か?」と優しく声をかける。

 成人男性として、かなり大柄であるオリバーの雄は長さも太さも身の丈にあったものだ。

 いくら経験があるとはいえ、すんなりと入るものではないということはオリバーにも最初から分かっていた。

「……セフィロト、無理しなくてよい。無理そうなら一旦ここで……」

 止めても良い。オリバーはそう言おうとした。
 オリバーはセフィロトに無理をさせたくはなかった。機会はこれからいくらでもある筈だ。じっくりと時間をかけて先に進めば良い。オリバーはそう考えていた。だが、セフィロトはそこで首を左右に激しく振った。

「絶対にやだ!」

 セフィロトが、拗ねたように口を尖らせて叫ぶように言った。オリバーは少し驚きながら、目を瞬かせる。

「……セフィロト」
「僕は大丈夫だから……っ」

 セフィロトは、潤んだ瞳でまるで〓懇願《こんがん》するかのようにオリバーを見つめていた。強がり……とは少し違う。

「オリバーのことが欲しいんだ」

 そんな風に恋人である言われて、オリバーが断れる筈がなかった。

「……っ! あっ。んっ。んっ……! あっ……!」

 真正面から抱き合いながら、オリバーは激しく腰を打ち付けた。可愛らしい足を抱え、体重を必要以上にかけないように気を付ける。体格差がありすぎる為にいくらセフィロトが望んでくれてはいると言っても、無茶は出来なかった。

 だが、初めて繋がることができた喜びはひとしおだった。オリバーは身体も心も満たされていた。

「オリバー……っ」
「セフィロト……」

 互いの名前を呼び合い抱き合いながら、激しく体を求め合い――。オリバーは、セフィロトの蕾の中へと精を放っていた。



「おはよう」

 太陽の光でオリバーが目を覚ますと、セフィロトがこちらを見て優しく微笑んでいた。クスクスと笑いながら、足を絡めて来る。

「……おはよう。セフィロト」

 オリバーは、腕の中にすっぽりと納まってしまう小さなセフィロトの身体を優しく抱きしめた。心の底から大切にしたいと心から思える相手に出会えた幸運を噛みしめながら、オリバーもまた微笑んだ。

 どんなに悲しくて辛い日が続いても、いつか必ず朝はやって来る。

 ――初めて結ばれたこの日のことを、オリバーはきっと死ぬまで忘れないだろう。



 ──それから、十年。
 オリバーはセフィロトとゆっくりと愛を育んだ。喧嘩も殆どしなかったし、良い関係を築けていたと思う。

 近衛騎士としての職務は大変なことも多かった。だが、セフィロトの笑顔があったからこそ、オリバーは頑張るごことができた。

「オリバーがいてくれたから、僕は生きて来られたんだ」

 そしてすれ違いながらも、オリバーは何とか勇気を出してプロポーズに成功した。その夜、オリバーは幸福の絶頂にいたと言っても過言では無かった。

 この幸せはいつまでも永遠に続くに違いない。そう信じて疑わなかった。

 ――だが……。

「オリバー」

 どこか険しい表情をしたヴィヴィアンに「本人に話をする前に貴方には先に話をしておきたいことがあるの」と呼び出しを受けたのは、幸福な夜の次の日の早朝のことだった。
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