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◇本編Ⅱ◇
020.好敵手の最期② ※オリバー視点
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「絶対に帰って来るって、ザインは僕と約束してくれた……っ! 死ぬ筈ないっ!」
ザインが帰って来ない日々が続き――周囲が彼の死を現実と認識して悼むようになっても、セフィロトはザインの死を認めることができなかった。
当然だ。最愛の存在が死んだなんて、認められる筈もない。オリバーがセフィロトの立場でも、きっと頑なに認められなかっただろう。
だが、どんなに抗っても残酷な現実はけっして変わらなかった。最後の別れでの誓いとも言える約束は果たされることなく、時間だけが経って行く――。セフィロトは長い悲しみと絶望の中で憔悴して行った。
止まってしまったセフィロトの時を進め、心の傷を癒すには長い時がかかった。
悪い者たちではないが、妖精たちの多くは、感情よりもいかに論理的で建設的であるかを追求しがちで、寄り添うということをあまり知らない。セフィロトの周りの友人たちは、ザインの死に毎日泣き暮らすセフィロトに厳しい言葉を投げかける者ばかりで、それはセフィロトの大親友でもあったメドベージェフですら変わらなかった。
当時のセフィロトには寄り添ってくれる誰かが必要だったのに、周りはセフィロトを突き放してしまったのだ。
あの時のセフィロトの打ちひしがれた姿を思い出して、オリバーの胸は酷く痛んだ。
オリバーと恋人になってからも、未だにセフィロトが夜毎魘されていることをオリバーは知っていた。本当の意味でセフィロトが立ち直るには、まだまだ時間がかかるだろう。
そう――。気の遠くなるような長い長い時間が……。
(ザイン……)
セフィロトの店の近くに建てられたザインの立派な墓の前で、オリバーは静かに佇んでいた。
墓は遺体が見つかっていない為に形式上作られただけではあるが、オリバーがザインに語りかけることができるような場所はここくらいしか思いつかなかった。
墓はセフィロトの手できちんと管理されているのだろう。隅々まで手入れが行き届いていた。オリバーは手向けられた色取り取りの花の中に、セフィロトのような白い花が混ざっているのを見て目を細める。
おそらく、この花を供えたのはセフィロトなんだろう。
ザインがいなくなってから、セフィロトと共に歩んできた時間を思い出しながら、オリバーはかつての平穏な日々に想いを馳せた。ザインは恋敵としては憎い相手ではあったが、同時に良い兄貴分でもあった。
あの幸福な日常――三人で過ごした時間は、この先もきっと忘れることはないだろう。
(……ザイン。お前とは色々とあったが……。それほど悪くはなかったぞ)
オリバーが心の中でそう呟くと、その瞬間にビュッという音をたてて、一際強い風が吹いた。
――うるせぇよ。クソガキ。
そんなザインの声が風に乗って聞こえたような気がして、オリバーは笑みを浮かべる。
「……セフィロトは、俺が幸せにする」
ザインの墓石の前で、オリバーは改めて揺るぎのない誓いをたてた。
ザインが帰って来ない日々が続き――周囲が彼の死を現実と認識して悼むようになっても、セフィロトはザインの死を認めることができなかった。
当然だ。最愛の存在が死んだなんて、認められる筈もない。オリバーがセフィロトの立場でも、きっと頑なに認められなかっただろう。
だが、どんなに抗っても残酷な現実はけっして変わらなかった。最後の別れでの誓いとも言える約束は果たされることなく、時間だけが経って行く――。セフィロトは長い悲しみと絶望の中で憔悴して行った。
止まってしまったセフィロトの時を進め、心の傷を癒すには長い時がかかった。
悪い者たちではないが、妖精たちの多くは、感情よりもいかに論理的で建設的であるかを追求しがちで、寄り添うということをあまり知らない。セフィロトの周りの友人たちは、ザインの死に毎日泣き暮らすセフィロトに厳しい言葉を投げかける者ばかりで、それはセフィロトの大親友でもあったメドベージェフですら変わらなかった。
当時のセフィロトには寄り添ってくれる誰かが必要だったのに、周りはセフィロトを突き放してしまったのだ。
あの時のセフィロトの打ちひしがれた姿を思い出して、オリバーの胸は酷く痛んだ。
オリバーと恋人になってからも、未だにセフィロトが夜毎魘されていることをオリバーは知っていた。本当の意味でセフィロトが立ち直るには、まだまだ時間がかかるだろう。
そう――。気の遠くなるような長い長い時間が……。
(ザイン……)
セフィロトの店の近くに建てられたザインの立派な墓の前で、オリバーは静かに佇んでいた。
墓は遺体が見つかっていない為に形式上作られただけではあるが、オリバーがザインに語りかけることができるような場所はここくらいしか思いつかなかった。
墓はセフィロトの手できちんと管理されているのだろう。隅々まで手入れが行き届いていた。オリバーは手向けられた色取り取りの花の中に、セフィロトのような白い花が混ざっているのを見て目を細める。
おそらく、この花を供えたのはセフィロトなんだろう。
ザインがいなくなってから、セフィロトと共に歩んできた時間を思い出しながら、オリバーはかつての平穏な日々に想いを馳せた。ザインは恋敵としては憎い相手ではあったが、同時に良い兄貴分でもあった。
あの幸福な日常――三人で過ごした時間は、この先もきっと忘れることはないだろう。
(……ザイン。お前とは色々とあったが……。それほど悪くはなかったぞ)
オリバーが心の中でそう呟くと、その瞬間にビュッという音をたてて、一際強い風が吹いた。
――うるせぇよ。クソガキ。
そんなザインの声が風に乗って聞こえたような気がして、オリバーは笑みを浮かべる。
「……セフィロトは、俺が幸せにする」
ザインの墓石の前で、オリバーは改めて揺るぎのない誓いをたてた。
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