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◇本編Ⅰ◇
011. 恋歌
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◆◇◆◇◆
「正式に、俺と結婚してほしい」
「ふぇっ」
妖精郷グラナートゥムで一番と名高い、高級レストラン――フェリシアの個室で、オリバーからそんな風に跪かれたセフィロトは、思わず間抜けな声をあげていた。
差し出された白いリングケースに鎮座するのは、甲丸型のプラチナのリング。
中央にはセフィロトが大好きなロードクロサイトの宝石がついている。華美すぎないデザインは大変可愛いらしく、まさにセフィロトの好みにぴったりだった。
「オ、オリバー、こ、こ、これ……って!?」
「俺は今まで、お前の前で卑屈な態度を取り続けてしまっていた。どうしても、ザインには勝てない。そう思ってしまっていたからだ。お前が夜に一人で泣いているのを見てしまってから、ずっと……勇気を出すことが出来なかった。憶病な俺を許してほしい」
「……っ」
息を飲むセフィロトに、オリバーは尚も真摯な言葉を紡ぐ。
「お前にプロポーズすることはずっと前から決めていたんだ。デザインも宝石も、お前好みのものを選んだつもりだ。もう、ザインの代わりなどと卑屈な思いは捨てる。あの日、お前に言った、隣を歩いてくれないか? という言葉に嘘はない。これからも、お前の傍にずっといたい。お前には永遠に俺の傍にいてほしい……」
オリバーから、その言葉を聞いた時のセフィロトの胸の奥に湧き上がって来たのは、紛れもない喜びの感情とだった。
「オリバー……っ」
「すまない。セフィロト」
泣くセフィロトの肩を、オリバーがそっと抱き寄せる。広い胸に顔を埋めながら、セフィロトは声をあげて泣いた。二番目で良いというオリバーの言葉が、ずっと胸の奥に痞えていた。そう告げると、オリバーはもう一度苦し気に「すまない」と謝った。
セフィロトはゆっくりと首を左右に振る。
「……ううん。謝らないで。むしろ、本当に謝らないといけないのは僕の方だよ。ザインが死んでもう十年も経つのに……未だに夢で魘されていたから……オリバーは僕に遠慮してくれていたんでしょう?」
オリバーからすべての話を聞いたセフィロトは、ぎゅっと拳を握る。
「……ごめんなさい……っ」
無意識だったとはいえ、長い間、オリバーを実質的に苦しめていたのは、紛れもない己自身であった事実を知り、セフィロトは嗚咽をあげた。
いつまで未練がましくザインを想っているのかと、苛立ちをセフィロトにぶつけていてもおかしくはなかったのに、オリバーはセフィロトのことを想って、ずっと黙って見守っていてくれた。
(愚かだったのは、僕の方じゃないか……っ)
ザインのことを忘れることは、これからも不可能だろう。
でも、今セフィロトが見るべきなのは、見なければいけないのは過去ではなく、未来――オリバーのことだ。
セフィロトの目に浮かんだ涙を、オリバーの太く優しい指がそっと拭った。
「……返事を聞かせてくれるか?」
「……っ。こちらこそ……よろしくお願いします」
オリバーはセフィロトの指にリングを嵌めると、セフィロトが泣き止むまで、優しく抱きしめてくれた。
「口でしても良い……?」
「っ。セフィロト……」
その夜、閨でセフィロトが改めてそう尋ねると、オリバーは少し戸惑いながらも、けっして以前のようには奉仕を嫌がりはしなかった。
衣類を全て脱ぎ捨て、裸でベッドに二人で仲良く倒れこんだ後、オリバーの股の間に体を滑り込ませたセフィロトは、オリバーの太い男根に両手をそえて、ゆっくりと口に含んでいく。
先端から溢れ出るように溢れる雫を舌先で舐めながら丁寧に奉仕すると、オリバーの大きな手が、セフィロトの頭を優しく撫でてくれる。
「セフィロト……っ。もう……っ」
「んっ……」
珍しく一方的ではない濃密な行為に、セフィロトが没頭していると、オリバーはあっという間に果ててしまった。
「す、すまん!」
セフィロトの顔と角に飛び散った白濁を慌てて拭いながら、またオリバーが謝る。
「………ふふ。今日、謝ってばっかりだね」
セフィロトは思わず、声を出して笑っていた。オリバーも、同じことを思ってしまったのだろう。
低い唸り声をあげて、一瞬だけ言葉を詰まらせた後、セフィロトの身体を力強くかき抱き、耳元で静かに「お前の中に入りたい。………良いか?」と囁いてきた。
「………うん。良いよ」
深い口付けをかわしながら、セフィロトは頷き、オリバー自身をゆっくりと受け入れて行く。
(こんなに満たされたのは………はじめてかもしれない)
そう思ったのは、おそらくセフィロトだけじゃない筈だ。
――その日、オリバーの腕の中で朝まで激しく乱れながらも、セフィロトはザインを失って以降、一番ともいって良いほどの穏やかな眠りについた。
だが、優しく穏やかな幸福の時間は長くは続かなかった。
二人が真の意味で想いを通じ合わせた翌日。
「落ち着いて聞いてくださいね。セフィロト。北の森で……ザインが生存した状態で見つかりました」
グラナートゥム王城内――。美しい花々と宝石の散りばめられた玉座に鎮座し、神妙な表情を浮かべる精霊女王ヴィヴィアンから、直々の呼び出しを受けたセフィロトは、そのあまりにもありえない報せに、呆然とその場で佇む以外の術を持たなかった。
「正式に、俺と結婚してほしい」
「ふぇっ」
妖精郷グラナートゥムで一番と名高い、高級レストラン――フェリシアの個室で、オリバーからそんな風に跪かれたセフィロトは、思わず間抜けな声をあげていた。
差し出された白いリングケースに鎮座するのは、甲丸型のプラチナのリング。
中央にはセフィロトが大好きなロードクロサイトの宝石がついている。華美すぎないデザインは大変可愛いらしく、まさにセフィロトの好みにぴったりだった。
「オ、オリバー、こ、こ、これ……って!?」
「俺は今まで、お前の前で卑屈な態度を取り続けてしまっていた。どうしても、ザインには勝てない。そう思ってしまっていたからだ。お前が夜に一人で泣いているのを見てしまってから、ずっと……勇気を出すことが出来なかった。憶病な俺を許してほしい」
「……っ」
息を飲むセフィロトに、オリバーは尚も真摯な言葉を紡ぐ。
「お前にプロポーズすることはずっと前から決めていたんだ。デザインも宝石も、お前好みのものを選んだつもりだ。もう、ザインの代わりなどと卑屈な思いは捨てる。あの日、お前に言った、隣を歩いてくれないか? という言葉に嘘はない。これからも、お前の傍にずっといたい。お前には永遠に俺の傍にいてほしい……」
オリバーから、その言葉を聞いた時のセフィロトの胸の奥に湧き上がって来たのは、紛れもない喜びの感情とだった。
「オリバー……っ」
「すまない。セフィロト」
泣くセフィロトの肩を、オリバーがそっと抱き寄せる。広い胸に顔を埋めながら、セフィロトは声をあげて泣いた。二番目で良いというオリバーの言葉が、ずっと胸の奥に痞えていた。そう告げると、オリバーはもう一度苦し気に「すまない」と謝った。
セフィロトはゆっくりと首を左右に振る。
「……ううん。謝らないで。むしろ、本当に謝らないといけないのは僕の方だよ。ザインが死んでもう十年も経つのに……未だに夢で魘されていたから……オリバーは僕に遠慮してくれていたんでしょう?」
オリバーからすべての話を聞いたセフィロトは、ぎゅっと拳を握る。
「……ごめんなさい……っ」
無意識だったとはいえ、長い間、オリバーを実質的に苦しめていたのは、紛れもない己自身であった事実を知り、セフィロトは嗚咽をあげた。
いつまで未練がましくザインを想っているのかと、苛立ちをセフィロトにぶつけていてもおかしくはなかったのに、オリバーはセフィロトのことを想って、ずっと黙って見守っていてくれた。
(愚かだったのは、僕の方じゃないか……っ)
ザインのことを忘れることは、これからも不可能だろう。
でも、今セフィロトが見るべきなのは、見なければいけないのは過去ではなく、未来――オリバーのことだ。
セフィロトの目に浮かんだ涙を、オリバーの太く優しい指がそっと拭った。
「……返事を聞かせてくれるか?」
「……っ。こちらこそ……よろしくお願いします」
オリバーはセフィロトの指にリングを嵌めると、セフィロトが泣き止むまで、優しく抱きしめてくれた。
「口でしても良い……?」
「っ。セフィロト……」
その夜、閨でセフィロトが改めてそう尋ねると、オリバーは少し戸惑いながらも、けっして以前のようには奉仕を嫌がりはしなかった。
衣類を全て脱ぎ捨て、裸でベッドに二人で仲良く倒れこんだ後、オリバーの股の間に体を滑り込ませたセフィロトは、オリバーの太い男根に両手をそえて、ゆっくりと口に含んでいく。
先端から溢れ出るように溢れる雫を舌先で舐めながら丁寧に奉仕すると、オリバーの大きな手が、セフィロトの頭を優しく撫でてくれる。
「セフィロト……っ。もう……っ」
「んっ……」
珍しく一方的ではない濃密な行為に、セフィロトが没頭していると、オリバーはあっという間に果ててしまった。
「す、すまん!」
セフィロトの顔と角に飛び散った白濁を慌てて拭いながら、またオリバーが謝る。
「………ふふ。今日、謝ってばっかりだね」
セフィロトは思わず、声を出して笑っていた。オリバーも、同じことを思ってしまったのだろう。
低い唸り声をあげて、一瞬だけ言葉を詰まらせた後、セフィロトの身体を力強くかき抱き、耳元で静かに「お前の中に入りたい。………良いか?」と囁いてきた。
「………うん。良いよ」
深い口付けをかわしながら、セフィロトは頷き、オリバー自身をゆっくりと受け入れて行く。
(こんなに満たされたのは………はじめてかもしれない)
そう思ったのは、おそらくセフィロトだけじゃない筈だ。
――その日、オリバーの腕の中で朝まで激しく乱れながらも、セフィロトはザインを失って以降、一番ともいって良いほどの穏やかな眠りについた。
だが、優しく穏やかな幸福の時間は長くは続かなかった。
二人が真の意味で想いを通じ合わせた翌日。
「落ち着いて聞いてくださいね。セフィロト。北の森で……ザインが生存した状態で見つかりました」
グラナートゥム王城内――。美しい花々と宝石の散りばめられた玉座に鎮座し、神妙な表情を浮かべる精霊女王ヴィヴィアンから、直々の呼び出しを受けたセフィロトは、そのあまりにもありえない報せに、呆然とその場で佇む以外の術を持たなかった。
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