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◇本編Ⅰ◇
009.すべてを背負う覚悟① ※オリバー視点
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◆◇ ◆◇ ◆
「という訳だから、お前さすがにちっとばかり色々と考えた方が良いぞ」
「……あえて俺に隠したくて、セフィロトがお前に相談したことを、俺に直接伝えては意味がないのではないか?」
近衛騎士としての勤務中に、近衛隊の詰め所を訪ねてきたメドベージェフを前にしたオリバーは、戸惑いの色を隠さずに、思わずそう尋ねていた。
恋人に気を遣わせてしまったこと、そして何より無理をさせてしまっていたことについては、反論の余地もない。
自身では並程度の性欲だと認識していたが、確かにこれは改める必要があるだろう。
だが、まさか恋人の親友であるメドベージェフから、本人よりも先に、相談の全容を洗いざらい伝えられることになるとは思ってもみなかった。
セフィロトだって、まさか自分で伝えようとしていた相手――オリバーに話されてしまうとは、露ほどにも想像していなかったに違いない。
セフィロトのせっかくの気遣いを無碍にされた気がして、少し腹が立ったオリバーは「セフィロトは内密にしてほしいから、お前に相談したんだろうに……」と、気付けば思わず直接文句をぶつけていた。
基本的には余計なことは言わない性分であるオリバーだが、可愛い恋人のことになると話は別だ。
自分のことを蔑ろにされるのは別段気にならないが、セフィロトが恥をかくような目にあうのは絶対に許せなかった。
「はっ」
だが、メドベージェフはそんなオリバーの様子を鼻で笑うと、二人の間にあるテーブルをダンと力強く叩いた。
「セフィロトが勇気出して話しだすの待ってたら、あっという間に夏が来ちまうだろうが。アイツ自分が思ってるよりも、ずうーっと弱気な性格だからな。結局言い出せずに、涙目で、メーちゃんー! やっぱり僕言えなかったよぅー! って言ってくるのが目に浮かぶようだわ」
「……それは、いくらなんでも言い過ぎだろう」
現在の季節は春のはじめ――夏までは、まだ二ヶ月以上はある。さすがにそこまで話が拗れる……というのは大袈裟すぎる。
しかも、わざと似せているだろう声色が本人にかなり似ているのも、絶妙に腹が立った。(もちろんセフィロトの方が百倍可愛いが)
しかし、威圧するオリバーに対して、
「いーや。金貨十枚賭けても良いね! そもそも、おめーも寡黙な上に鈍感な奴だから、尚更始末に終えないんだろうが! にぶにぶな奴らが二人でウダウダやってんの延々と見せられる、こっちの身にもなれや! 言っとくが、オレは別に揶揄ってる訳じゃねぇからな! セフィロトよりは、お前の方が【まだ】マシだから、こうしてお前に直接言いに来たんだよ!」
メドベージェフは冷たい視線を向けると、心底うんざりとした様子で叫ぶように言った。
その様子から、どうやら本当にメドベージェフが真剣に物言いに来たのだということが分かり、オリバーはひとまず溜飲を下げた。
こんな時にどういう反応を取るべきなのか今一つ分からないが、セフィロトの親しい友人であるメドベージェフが、善意から訪ねて来てくれているのだとしたら、これ以上失礼な態度を取るわけにはいかない。
「……」
「いや、何でそこで黙るんだよ。何か喋れよ」
姿勢を正して黙り込むオリバーに、メドベージェフは呆れた声音で突っ込みを入れた後、ため息を吐いた。
「はー。ったく相変わらずだなぁ。お前。無口にも程度ってもんがあるだろ。セフィロトのこと、口説き落とせたのが奇跡に近いぜ」
脱力したように肩を落とすメドベージェフに、口下手を通り越して、対人関係が壊滅的であることは自覚はしていたオリバーは「すまん」と反射的に謝っていた。
職務上、必要なことなら澱みなく喋れるのだが、それ以外で人と話すことには、正直あまり慣れていない。
何せ、友人と呼べる相手も片手で数えれるくらいしかおらず、まともに会話ができる相手も限られているのだ。
その中でも、オリバーの意を正しく汲み取りながら会話が出来ていたような相手は、妖精郷の精霊王であるヴィヴィアンと恋人であるセフィロト、そして長い間、恋敵だったザインくらいだろう。
いや、もしかしたら目の前にいるメドベージェフも、ある程度はオリバーの思考を読んでいるのかもしれない。
正確には、オリバー自身のことを理解しているというよりは、セフィロトに関連したことにだけ、鋭いのかもしれないが……。
「という訳だから、お前さすがにちっとばかり色々と考えた方が良いぞ」
「……あえて俺に隠したくて、セフィロトがお前に相談したことを、俺に直接伝えては意味がないのではないか?」
近衛騎士としての勤務中に、近衛隊の詰め所を訪ねてきたメドベージェフを前にしたオリバーは、戸惑いの色を隠さずに、思わずそう尋ねていた。
恋人に気を遣わせてしまったこと、そして何より無理をさせてしまっていたことについては、反論の余地もない。
自身では並程度の性欲だと認識していたが、確かにこれは改める必要があるだろう。
だが、まさか恋人の親友であるメドベージェフから、本人よりも先に、相談の全容を洗いざらい伝えられることになるとは思ってもみなかった。
セフィロトだって、まさか自分で伝えようとしていた相手――オリバーに話されてしまうとは、露ほどにも想像していなかったに違いない。
セフィロトのせっかくの気遣いを無碍にされた気がして、少し腹が立ったオリバーは「セフィロトは内密にしてほしいから、お前に相談したんだろうに……」と、気付けば思わず直接文句をぶつけていた。
基本的には余計なことは言わない性分であるオリバーだが、可愛い恋人のことになると話は別だ。
自分のことを蔑ろにされるのは別段気にならないが、セフィロトが恥をかくような目にあうのは絶対に許せなかった。
「はっ」
だが、メドベージェフはそんなオリバーの様子を鼻で笑うと、二人の間にあるテーブルをダンと力強く叩いた。
「セフィロトが勇気出して話しだすの待ってたら、あっという間に夏が来ちまうだろうが。アイツ自分が思ってるよりも、ずうーっと弱気な性格だからな。結局言い出せずに、涙目で、メーちゃんー! やっぱり僕言えなかったよぅー! って言ってくるのが目に浮かぶようだわ」
「……それは、いくらなんでも言い過ぎだろう」
現在の季節は春のはじめ――夏までは、まだ二ヶ月以上はある。さすがにそこまで話が拗れる……というのは大袈裟すぎる。
しかも、わざと似せているだろう声色が本人にかなり似ているのも、絶妙に腹が立った。(もちろんセフィロトの方が百倍可愛いが)
しかし、威圧するオリバーに対して、
「いーや。金貨十枚賭けても良いね! そもそも、おめーも寡黙な上に鈍感な奴だから、尚更始末に終えないんだろうが! にぶにぶな奴らが二人でウダウダやってんの延々と見せられる、こっちの身にもなれや! 言っとくが、オレは別に揶揄ってる訳じゃねぇからな! セフィロトよりは、お前の方が【まだ】マシだから、こうしてお前に直接言いに来たんだよ!」
メドベージェフは冷たい視線を向けると、心底うんざりとした様子で叫ぶように言った。
その様子から、どうやら本当にメドベージェフが真剣に物言いに来たのだということが分かり、オリバーはひとまず溜飲を下げた。
こんな時にどういう反応を取るべきなのか今一つ分からないが、セフィロトの親しい友人であるメドベージェフが、善意から訪ねて来てくれているのだとしたら、これ以上失礼な態度を取るわけにはいかない。
「……」
「いや、何でそこで黙るんだよ。何か喋れよ」
姿勢を正して黙り込むオリバーに、メドベージェフは呆れた声音で突っ込みを入れた後、ため息を吐いた。
「はー。ったく相変わらずだなぁ。お前。無口にも程度ってもんがあるだろ。セフィロトのこと、口説き落とせたのが奇跡に近いぜ」
脱力したように肩を落とすメドベージェフに、口下手を通り越して、対人関係が壊滅的であることは自覚はしていたオリバーは「すまん」と反射的に謝っていた。
職務上、必要なことなら澱みなく喋れるのだが、それ以外で人と話すことには、正直あまり慣れていない。
何せ、友人と呼べる相手も片手で数えれるくらいしかおらず、まともに会話ができる相手も限られているのだ。
その中でも、オリバーの意を正しく汲み取りながら会話が出来ていたような相手は、妖精郷の精霊王であるヴィヴィアンと恋人であるセフィロト、そして長い間、恋敵だったザインくらいだろう。
いや、もしかしたら目の前にいるメドベージェフも、ある程度はオリバーの思考を読んでいるのかもしれない。
正確には、オリバー自身のことを理解しているというよりは、セフィロトに関連したことにだけ、鋭いのかもしれないが……。
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