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◇本編Ⅰ◇
007 友への相談②
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愛されている。そう改めて実感して、セフィロトは小さく笑みを浮かべた。
(……オリバーの真っ直ぐな想いが嬉しい)
想い想われる今の関係を、セフィロトは大切にして行きたいと思っている。それは間違いない。
ただ、その上で今回の悩みも何とか良い方向に持っていきたかった。
「……実は、最近ポーション飲み過ぎって薬師に叱られちゃってさー」
「はっ? お前、体力回復ポーションまで飲んでんのかよ!?」
隠していた秘密をぽつりとセフィロトが呟くと、メドベージェフが大きな目を丸くした。
冒険者時代、元々ヒーラーだったセフィロトは回復魔法が使える。だが、あくまでセフィロトの回復魔法で治療できるのは、物理的に出来た傷や毒などのバッドステータスのみだ。
だから、疲労を何とかしようと思うと、薬師が煎じる、特別な体力回復用のポーションを飲むしかないのだが、回復薬と名前はついていても、実質、気付け薬――殆ど誤魔化しに近いものだったりする。
合法的な薬ではあるので、瞬間的な効果はあるにはあるのだが、後の反動が強いので、毎日の服用は非推奨とされていた。
「……いくらなんでも、飲み過ぎです」
遠慮がちに、けれどはっきりと初めてそう薬師の女性に言われた時のことは今でも覚えている。
あけすけな性事情がすべてバレている訳ではないとさすがに信じたいが、多分、ポーションの用途については、何となくだが彼女も気づいているのだろう。
何故なら、彼女がセフィロトと話をしている際に、少し顔を赤くしながら、一度も視線を一切合わせてくれなかったからだ。
セフィロトの恋人がオリバーであることを知らない住民は妖精郷にはいないと言っても過言ではない為、もはや隠しごととは言えないだろう。
なお、一応真の意味で体力を回復させることのできる特別な回復魔法もあるにはあるのだが、かなりのレアマジックの為に、使い手が限られている。
セフィロトが知る限り、使い手は精霊女王ヴィヴィアンと彼女の近衛騎士を務める数人だけだ。
「そこまでしてるなら、泣き言くらい言いたくもなるか……」
「うん」
長い耳を二人そろってしおしおと垂れさせ、同時に大きなため息を吐いた。
「ってか、昔ザインと付き合ってた時はどうしてたんだよ。アイツも性欲強そうに見えたけど……」
「いや、ザインは別にそんなでもなかったから」
「そうなの?」
「うん。回数的にも頻度的にも普通だったんじゃないかなぁ」
「……正直、意外だわ。お前がザインと付き合い始めたの、結構二人共若い時だったよな? 最初からか?」
「うん。最初からだよ」
ザインと初めて出会ったのは、セフィロトが十九歳の時で、恋人として付き合い始めたのはセフィロトが二十五歳の時だった。それから二十五年くらい付き合っていたので、当然夜の営みは数え切れないほどにしてはいたが、若い頃から一貫して、現在のオリバーほどにがっつかれたような記憶はない。
当然、体力回復用ポーションを飲むようなことも無かった。
「まぁ、オリバーと違ってザインは童貞って訳じゃなかったし……。色々慣れていたからなのもあるんじゃないかな」
性格的には間違いなくザインの方が俺様! という雰囲気だったし、時に強引さもある男だったが、閨での言動……いや、行動についてだけなら、ザインの方が紳士だったのは間違いない。
少なくともセフィロトが負担だと感じるような激しい行為を要求された記憶はなかった。
「なるほどな。でも、竜って独占欲強くて、しつこそうな印象だったからちょっと意外だったわ」
「ザインの場合、竜の血を引いてるって言っても、ほんのちょっとだけだったからね」
ザインの種族は、妖精郷の中では表向き竜の血を引く【竜人】ということにはなっていたが、戦闘能力が高いこと以外に関しては、実際の所ほとんど人間と言って良いくらいに【竜】の血は薄かった。
老化は遅かったので、亡くなった当時五十歳を超えるような年齢にしては少しだけ若くは見えたが、本当にそれだけだ。本人も自認は「ほとんど人間みたいなもの」だとよく言っていたし……。
「淡白って訳じゃなかったとは思うけど、少なくとも、十二回挑まれる程ではなかったのは断言できるよ」
「……比べる対象が、いくらなんでもえげつなさすぎるんだよなぁ」
「オリバーは純血の獣人だし、比べちゃダメなんだろうけどね」
妖精族や人間と違い、獣人というのは非常に情が深い種族だ。番と呼ばれる存在をたった一人選び、その相手を生涯愛し抜くと言われている。
死別し、他の相手を好きになることが絶対にないとまでは言わない。だが、セフィロトたちが「絶対にない!」と断言するほどに、浮気とか移り気という感情とは無縁なのが獣人なのだ。
ちなみに、竜人も獣人と同じく番制度のため、本来なら強い独占欲を持っているのだが、人間の血が大半を占めていたザインは、おそらく良い塩梅で血が中和されていて、竜人の持つ強い独占欲や支配欲がさほど表面化していなかったのだろうと、セフィロトは思っている。
(……オリバーの真っ直ぐな想いが嬉しい)
想い想われる今の関係を、セフィロトは大切にして行きたいと思っている。それは間違いない。
ただ、その上で今回の悩みも何とか良い方向に持っていきたかった。
「……実は、最近ポーション飲み過ぎって薬師に叱られちゃってさー」
「はっ? お前、体力回復ポーションまで飲んでんのかよ!?」
隠していた秘密をぽつりとセフィロトが呟くと、メドベージェフが大きな目を丸くした。
冒険者時代、元々ヒーラーだったセフィロトは回復魔法が使える。だが、あくまでセフィロトの回復魔法で治療できるのは、物理的に出来た傷や毒などのバッドステータスのみだ。
だから、疲労を何とかしようと思うと、薬師が煎じる、特別な体力回復用のポーションを飲むしかないのだが、回復薬と名前はついていても、実質、気付け薬――殆ど誤魔化しに近いものだったりする。
合法的な薬ではあるので、瞬間的な効果はあるにはあるのだが、後の反動が強いので、毎日の服用は非推奨とされていた。
「……いくらなんでも、飲み過ぎです」
遠慮がちに、けれどはっきりと初めてそう薬師の女性に言われた時のことは今でも覚えている。
あけすけな性事情がすべてバレている訳ではないとさすがに信じたいが、多分、ポーションの用途については、何となくだが彼女も気づいているのだろう。
何故なら、彼女がセフィロトと話をしている際に、少し顔を赤くしながら、一度も視線を一切合わせてくれなかったからだ。
セフィロトの恋人がオリバーであることを知らない住民は妖精郷にはいないと言っても過言ではない為、もはや隠しごととは言えないだろう。
なお、一応真の意味で体力を回復させることのできる特別な回復魔法もあるにはあるのだが、かなりのレアマジックの為に、使い手が限られている。
セフィロトが知る限り、使い手は精霊女王ヴィヴィアンと彼女の近衛騎士を務める数人だけだ。
「そこまでしてるなら、泣き言くらい言いたくもなるか……」
「うん」
長い耳を二人そろってしおしおと垂れさせ、同時に大きなため息を吐いた。
「ってか、昔ザインと付き合ってた時はどうしてたんだよ。アイツも性欲強そうに見えたけど……」
「いや、ザインは別にそんなでもなかったから」
「そうなの?」
「うん。回数的にも頻度的にも普通だったんじゃないかなぁ」
「……正直、意外だわ。お前がザインと付き合い始めたの、結構二人共若い時だったよな? 最初からか?」
「うん。最初からだよ」
ザインと初めて出会ったのは、セフィロトが十九歳の時で、恋人として付き合い始めたのはセフィロトが二十五歳の時だった。それから二十五年くらい付き合っていたので、当然夜の営みは数え切れないほどにしてはいたが、若い頃から一貫して、現在のオリバーほどにがっつかれたような記憶はない。
当然、体力回復用ポーションを飲むようなことも無かった。
「まぁ、オリバーと違ってザインは童貞って訳じゃなかったし……。色々慣れていたからなのもあるんじゃないかな」
性格的には間違いなくザインの方が俺様! という雰囲気だったし、時に強引さもある男だったが、閨での言動……いや、行動についてだけなら、ザインの方が紳士だったのは間違いない。
少なくともセフィロトが負担だと感じるような激しい行為を要求された記憶はなかった。
「なるほどな。でも、竜って独占欲強くて、しつこそうな印象だったからちょっと意外だったわ」
「ザインの場合、竜の血を引いてるって言っても、ほんのちょっとだけだったからね」
ザインの種族は、妖精郷の中では表向き竜の血を引く【竜人】ということにはなっていたが、戦闘能力が高いこと以外に関しては、実際の所ほとんど人間と言って良いくらいに【竜】の血は薄かった。
老化は遅かったので、亡くなった当時五十歳を超えるような年齢にしては少しだけ若くは見えたが、本当にそれだけだ。本人も自認は「ほとんど人間みたいなもの」だとよく言っていたし……。
「淡白って訳じゃなかったとは思うけど、少なくとも、十二回挑まれる程ではなかったのは断言できるよ」
「……比べる対象が、いくらなんでもえげつなさすぎるんだよなぁ」
「オリバーは純血の獣人だし、比べちゃダメなんだろうけどね」
妖精族や人間と違い、獣人というのは非常に情が深い種族だ。番と呼ばれる存在をたった一人選び、その相手を生涯愛し抜くと言われている。
死別し、他の相手を好きになることが絶対にないとまでは言わない。だが、セフィロトたちが「絶対にない!」と断言するほどに、浮気とか移り気という感情とは無縁なのが獣人なのだ。
ちなみに、竜人も獣人と同じく番制度のため、本来なら強い独占欲を持っているのだが、人間の血が大半を占めていたザインは、おそらく良い塩梅で血が中和されていて、竜人の持つ強い独占欲や支配欲がさほど表面化していなかったのだろうと、セフィロトは思っている。
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