上 下
4 / 27
◇本編Ⅰ◇

004 幸せが故の悩み①

しおりを挟む
 ◆◇ ◆◆◇ ◆

「……セフィロト……っ」
「……っ」

 夜の帳が下りる頃、大柄な男が四、五人は優に乗れる頑丈なベッドの上で、自身よりも二回り以上も大きい褐色の逞しい身体を持つオリバーにきつく抱きしめられ、セフィロトは小さく声をあげた。

 セフィロトは細身ではあるものの、比較的長身な者が多い妖精族としては珍しく、小柄かつ華奢な体躯をしている。
 下手をしたら、平均的な体格の女性よりも小さい可能性さえある。

 獣人は妖精族よりも縦にも横にも大きいので、こうして抱き合うと、かなりの体格差があるのを否応なく突き付けられる。

 鍛えようとしても、ろくに筋肉のつかない己の肉体と比べると、差は歴然だった。

 セフィロトは己の足をゆっくりと広げて、オリバーの屈強な体格に見合った太くて長い硬い高ぶりが入って来るのを待つ。

 高価な香油を惜しみなく使い、念入りに前戯を施してくれたこともあって、苦しくはない。セフィロトの蕾は、オリバーの熱塊をゆっくりと飲み込んでいく。

「……っ、セフィロト。動いても、良いか?」
「……うん」

 遠慮がちに尋ねられ、セフィロトは頷きながらオリバーの大きな背中へと腕を回した。

「……っあ、っ、ん……っ、ふっ」

 ゆっくりと奥を穿たれ、セフィロトは声をあげる。
 手加減をしてくれているのだろうが、筋骨隆々を絵に描いたような巨躯に違わず、オリバーの動きはいつも力強く激しい。

 ギシギシと、ベットが壊れそうな程に大きく軋んだ。

「オリバー……っ」

 欲望のままに激しく奥を穿たれ、セフィロトはオリバーの背に爪を立てながら足を絡め、愛しい男の名前を呼び絶頂した。


(……きょ、今日も激しかった……)

 夜の営みが終わり、セフィロトはしばらくの間気絶をしてしまっていたらしい。セフィロトは、隣で静かに寝息をたてるオリバーを確認した後、高い天井を見上げながら大きく「ふぅ」と静かに息を吐いた。

 セフィロトが意識を失った後で、オリバーが後始末をしてくれたのだろう。
 汗と体液は綺麗に拭き取られており、シーツも新しいものに変えられていた。

 恋人として付き合う様になってから七年――ねやを共にするようになって六年と少し経つが、オリバーからの愛情が目減りする気配は一切ない。それどころか、むしろ年々執着も愛情も恐ろしい勢いで強くなっているのが分かる。

 そう、今まさに身を持って味わっているのだから。

 淡白だったり、仕事が忙しくて中々そういった機会を持てないような者からしてみれば、セフィロトの悩みは贅沢なものなのだろう。実際、オリバーは深くセフィロトのことを愛してくれているし、普段の激しい性行為だって、オリバーの想いの結晶であることは間違いない。

(でもさぁ。オリバー、僕と付き合うまでまっさらな童貞だったから、最初の頃は可愛いなぁって思ってたけど、まさか七年近くもずーっと全力全開で求められるとは思わないじゃん……?)

 若さで何とかなるのでは? と思うかもしれないが、セフィロトは、ユニコーンと言う種族の性質上、外見年齢は十代の終わり頃で止まってしまってはいるものの、実年齢はもうすぐ六十歳に届くという年齢だ。

 ユニコーンは一応【不老】ではあるが、この【不老】実は完全な【不老】ではない。

 変わらないのはあくまで外見だけであり、肉体的な機能が一切衰えないという訳ではないのだ。
 視力、聴覚などの感覚、そして体力は年を重ねるごとに徐々にではあるが老化していく。

 ユニコーンの寿命自体が、妖精族にしては短命である百二十年から百五十年ほどなので、ユニコーンで六十歳となると、人間で言う場合の四十代の半ばとかそのくらいの年齢になるだろうか。

 あまり言いたくはないが、見た目がたとえ少女のようだったとしても、セフィロトは実際にはもう立派な【おじさん】に片足を突っ込んでいるといっても過言では無かった。

 そんなセフィロトから見て、オリバーの性行為の際の一挙手一投足は、可愛らしくて愛おしいと思うのと同時に――正直、辛いものがある。

(さすがに一晩で平均十二回の射精は性豪せいごうすぎるでしょ……)

 セフィロトは、オリバー以外とはザインとしか性的な行為をしたことがないので、一般的な基準を予測できるほどの経験はないが、セフィロトも性別は男。自分に置き換えてみれば、十二回が異常であることくらいは分かる。

 求められるのは決して嫌じゃないのだが……。いくらなんでも、限度というものがあった。

 一応、セフィロトも策を講じて見たことはある。
 下品な話だが、オリバーが十二回出せば満足できるというなら、色々とやりようはあった。

 手でしたり口でしたり……とにかく、満足させてしまえば良いのだ。そうすれば、挿入行為の回数は減り、セフィロトの身体への負担も減るだろうと、セフィロトはそうたかを括っていた。

 だが……ことは、そう簡単にはいかなかった。

 何故なら、オリバーがセフィロトの想像以上に、色々と拗らせていた男だったからだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

そばにいてほしい。

15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。 そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。 ──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。 幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け 安心してください、ハピエンです。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

振られた腹いせに別の男と付き合ったらそいつに本気になってしまった話

雨宮里玖
BL
「好きな人が出来たから別れたい」と恋人の翔に突然言われてしまった諒平。  諒平は別れたくないと引き止めようとするが翔は諒平に最初で最後のキスをした後、去ってしまった。  実は翔には諒平に隠している事実があり——。 諒平(20)攻め。大学生。 翔(20) 受け。大学生。 慶介(21)翔と同じサークルの友人。

うちの拾い子が私のために惚れ薬を飲んだらしい

トウ子
BL
冷血大公と呼ばれる私は、とある目的のために孤児を拾って厳しく育てていた。 一世一代の計画を目前に控えたある夜、様子のおかしい養い子が私の寝室を訪ねてきた。どうやら養い子は、私のために惚れ薬を飲んだらしい。「計画の成功のために、閣下の恋人としてどう振る舞えばよいのか、教えて下さいませ」と迫られ……愚かな私は、華奢な体を寝台に押し倒した。 Twitter企画【#惚れ薬自飲BL】参加作品の短編でした。 ムーンライトノベルズにも掲載。

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

【運命】に捨てられ捨てたΩ

諦念
BL
「拓海さん、ごめんなさい」 秀也は白磁の肌を青く染め、瞼に陰影をつけている。 「お前が決めたことだろう、こっちはそれに従うさ」 秀也の安堵する声を聞きたくなく、逃げるように拓海は音を立ててカップを置いた。 【運命】に翻弄された両親を持ち、【運命】なんて言葉を信じなくなった医大生の拓海。大学で入学式が行われた日、「一目惚れしました」と眉目秀麗、頭脳明晰なインテリ眼鏡風な新入生、秀也に突然告白された。 なんと、彼は有名な大病院の院長の一人息子でαだった。 右往左往ありながらも番を前提に恋人となった二人。卒業後、二人の前に、秀也の幼馴染で元婚約者であるαの女が突然現れて……。 前から拓海を狙っていた先輩は傷ついた拓海を慰め、ここぞとばかりに自分と同居することを提案する。 ※オメガバース独自解釈です。合わない人は危険です。 縦読みを推奨します。

僕のために、忘れていて

ことわ子
BL
男子高校生のリュージは事故に遭い、最近の記憶を無くしてしまった。しかし、無くしたのは最近の記憶で家族や友人のことは覚えており、別段困ることは無いと思っていた。ある一点、全く記憶にない人物、黒咲アキが自分の恋人だと訪ねてくるまでは────

別れの夜に

大島Q太
BL
不義理な恋人を待つことに疲れた青年が、その恋人との別れを決意する。しかし、その別れは思わぬ方向へ。

処理中です...