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◇本編Ⅰ◇

003優しい恋人②

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「セフィロト。俺は、お前のことを心の底から愛している。俺のような若輩者ではお前を真の意味で支えるのは力不足かもしれん。だが……これからも傍で、出来る限り支えてやりたいと思っている。……だから、俺の隣を一緒に歩いてくれないか?」

 ザインが亡くなり、同じ季節が三巡した頃、セフィロトはオリバーからそう告白された。

 驚きはしなかった。何故ならその頃には、セフィロトも遅まきながら、オリバーの自身への想いが、どういう類のものであるのか、薄っすらとではあるが理解していたからだ。

 恋愛ごとに鈍いセフィロトといえど、さすがに三年もの間ここまで献身的に尽くされて、想像がつかない筈もない。

「……うん!」

 セフィロトは、オリバーからの告白に即座に頷いた。
 雰囲気に流されたからという訳じゃない。

 オリバーがセフィロトの為に心を砕いてくれる度に、徐々に――友情ではなく愛情という意味合いでオリバーに惹かれていっていることに、自分でも気づいていたからだ。いつしか、まるでザインにいだいていたように、セフィロトはオリバーのことを想うようになっていた。告白されて、嫌な気持ちになるわけがない。

 ただ、自分から愛を口にするには勇気が足りなかった。もし万が一にもオリバーの想いがセフィロトの勘違いなら? 口にすることでオリバーが離れていってしまうかもしれない。そんな不安が、僅かにだが胸の奥にあったのだ。

 しかし、オリバーはそんなセフィロトの不安を真っ直ぐな告白で完全に消し去ってくれた。

 真面目で口下手な彼が、はっきりと自らの想いを口に出してくれたことが本当に嬉しかったのを、セフィロトは覚えている。

「僕もオリバーのこと、大好きだよ……っ」

 セフィロトが、満面の笑みを浮かべてそう言うと、オリバーもまた嬉しそうに微笑んでくれた。

 ――ザインを亡くしてから灰色になってしまっていたセフィロトの景色は、オリバーのおかげでその日、完全に鮮やかな色を取り戻したのだ。



 告白を受け入れ、同棲することになった際――ザインと暮らしていた思い出の家を残したい、店も続けたいと告げたセフィロトに、オリバーは「構わない」と言ってくれた。

「良いの?」
「あぁ」

 不安そうにセフィロトがそう尋ねると、オリバーは笑みを浮かべてくれた。

「俺はそこまで狭量きょうりょうではないつもりだ。店に関しては、さすがに近衛騎士である俺が店を手伝うことまではできないが……。お前がザインと共に築いた思い出を奪うつもりはない。ザインが遺した店をお前がこれからも続けたいと思うなら、続けて行くべきだ。それに、お前の……いや、お前たちの料理を楽しみにしている奴らもたくさんいるだろうからな」
「オリバー……! ありがとう!」

 オリバーの広い度量に、セフィロトは涙を目に浮かべながら、その広い胸に抱きついた。

 オリバーの応援があったからこそ、セフィロトは閉めていた店を開けることにした。料理が得意だったザインが生きていた頃と、さすがに互角とまでは言えない。だが、新しい店子を雇い、セフィロトが料理の研究と開発に心血を注いだ結果、現在、そこそこセフィロトの店は繁盛している。

 ザインのことを思い出すことがなくなる日は、永遠に来ないだろう。しかし、十年という長い月日が経ち、昔を振り返り優しい気持ちになれるくらいには、セフィロトの心にもゆとりはできるようになった。

 前を向いて生きて行く。オリバーの手を取ると決めた時に、セフィロトはそう自分自身に誓ったのだ。
 穏やかで陽だまりのような、オリバーの愛情に包まれた日々は、セフィロトにとってかけがえのないものとなっていた。

 だが、そんなセフィロトにもたった一つだけ悩みがある。
 それは、オリバーとの夜の営みについてだ。

 ――……オリバーが、あまりに絶倫すぎるのだ。
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