3 / 27
◇本編Ⅰ◇
003優しい恋人②
しおりを挟む
「セフィロト。俺は、お前のことを心の底から愛している。俺のような若輩者ではお前を真の意味で支えるのは力不足かもしれん。だが……これからも傍で、出来る限り支えてやりたいと思っている。……だから、俺の隣を一緒に歩いてくれないか?」
ザインが亡くなり、同じ季節が三巡した頃、セフィロトはオリバーからそう告白された。
驚きはしなかった。何故ならその頃には、セフィロトも遅まきながら、オリバーの自身への想いが、どういう類のものであるのか、薄っすらとではあるが理解していたからだ。
恋愛ごとに鈍いセフィロトといえど、さすがに三年もの間ここまで献身的に尽くされて、想像がつかない筈もない。
「……うん!」
セフィロトは、オリバーからの告白に即座に頷いた。
雰囲気に流されたからという訳じゃない。
オリバーがセフィロトの為に心を砕いてくれる度に、徐々に――友情ではなく愛情という意味合いでオリバーに惹かれていっていることに、自分でも気づいていたからだ。いつしか、まるでザインに抱いていたように、セフィロトはオリバーのことを想うようになっていた。告白されて、嫌な気持ちになるわけがない。
ただ、自分から愛を口にするには勇気が足りなかった。もし万が一にもオリバーの想いがセフィロトの勘違いなら? 口にすることでオリバーが離れていってしまうかもしれない。そんな不安が、僅かにだが胸の奥にあったのだ。
しかし、オリバーはそんなセフィロトの不安を真っ直ぐな告白で完全に消し去ってくれた。
真面目で口下手な彼が、はっきりと自らの想いを口に出してくれたことが本当に嬉しかったのを、セフィロトは覚えている。
「僕もオリバーのこと、大好きだよ……っ」
セフィロトが、満面の笑みを浮かべてそう言うと、オリバーもまた嬉しそうに微笑んでくれた。
――ザインを亡くしてから灰色になってしまっていたセフィロトの景色は、オリバーのおかげでその日、完全に鮮やかな色を取り戻したのだ。
告白を受け入れ、同棲することになった際――ザインと暮らしていた思い出の家を残したい、店も続けたいと告げたセフィロトに、オリバーは「構わない」と言ってくれた。
「良いの?」
「あぁ」
不安そうにセフィロトがそう尋ねると、オリバーは笑みを浮かべてくれた。
「俺はそこまで狭量ではないつもりだ。店に関しては、さすがに近衛騎士である俺が店を手伝うことまではできないが……。お前がザインと共に築いた思い出を奪うつもりはない。ザインが遺した店をお前がこれからも続けたいと思うなら、続けて行くべきだ。それに、お前の……いや、お前たちの料理を楽しみにしている奴らもたくさんいるだろうからな」
「オリバー……! ありがとう!」
オリバーの広い度量に、セフィロトは涙を目に浮かべながら、その広い胸に抱きついた。
オリバーの応援があったからこそ、セフィロトは閉めていた店を開けることにした。料理が得意だったザインが生きていた頃と、さすがに互角とまでは言えない。だが、新しい店子を雇い、セフィロトが料理の研究と開発に心血を注いだ結果、現在、そこそこセフィロトの店は繁盛している。
ザインのことを思い出すことがなくなる日は、永遠に来ないだろう。しかし、十年という長い月日が経ち、昔を振り返り優しい気持ちになれるくらいには、セフィロトの心にもゆとりはできるようになった。
前を向いて生きて行く。オリバーの手を取ると決めた時に、セフィロトはそう自分自身に誓ったのだ。
穏やかで陽だまりのような、オリバーの愛情に包まれた日々は、セフィロトにとってかけがえのないものとなっていた。
だが、そんなセフィロトにもたった一つだけ悩みがある。
それは、オリバーとの夜の営みについてだ。
――……オリバーが、あまりに絶倫すぎるのだ。
ザインが亡くなり、同じ季節が三巡した頃、セフィロトはオリバーからそう告白された。
驚きはしなかった。何故ならその頃には、セフィロトも遅まきながら、オリバーの自身への想いが、どういう類のものであるのか、薄っすらとではあるが理解していたからだ。
恋愛ごとに鈍いセフィロトといえど、さすがに三年もの間ここまで献身的に尽くされて、想像がつかない筈もない。
「……うん!」
セフィロトは、オリバーからの告白に即座に頷いた。
雰囲気に流されたからという訳じゃない。
オリバーがセフィロトの為に心を砕いてくれる度に、徐々に――友情ではなく愛情という意味合いでオリバーに惹かれていっていることに、自分でも気づいていたからだ。いつしか、まるでザインに抱いていたように、セフィロトはオリバーのことを想うようになっていた。告白されて、嫌な気持ちになるわけがない。
ただ、自分から愛を口にするには勇気が足りなかった。もし万が一にもオリバーの想いがセフィロトの勘違いなら? 口にすることでオリバーが離れていってしまうかもしれない。そんな不安が、僅かにだが胸の奥にあったのだ。
しかし、オリバーはそんなセフィロトの不安を真っ直ぐな告白で完全に消し去ってくれた。
真面目で口下手な彼が、はっきりと自らの想いを口に出してくれたことが本当に嬉しかったのを、セフィロトは覚えている。
「僕もオリバーのこと、大好きだよ……っ」
セフィロトが、満面の笑みを浮かべてそう言うと、オリバーもまた嬉しそうに微笑んでくれた。
――ザインを亡くしてから灰色になってしまっていたセフィロトの景色は、オリバーのおかげでその日、完全に鮮やかな色を取り戻したのだ。
告白を受け入れ、同棲することになった際――ザインと暮らしていた思い出の家を残したい、店も続けたいと告げたセフィロトに、オリバーは「構わない」と言ってくれた。
「良いの?」
「あぁ」
不安そうにセフィロトがそう尋ねると、オリバーは笑みを浮かべてくれた。
「俺はそこまで狭量ではないつもりだ。店に関しては、さすがに近衛騎士である俺が店を手伝うことまではできないが……。お前がザインと共に築いた思い出を奪うつもりはない。ザインが遺した店をお前がこれからも続けたいと思うなら、続けて行くべきだ。それに、お前の……いや、お前たちの料理を楽しみにしている奴らもたくさんいるだろうからな」
「オリバー……! ありがとう!」
オリバーの広い度量に、セフィロトは涙を目に浮かべながら、その広い胸に抱きついた。
オリバーの応援があったからこそ、セフィロトは閉めていた店を開けることにした。料理が得意だったザインが生きていた頃と、さすがに互角とまでは言えない。だが、新しい店子を雇い、セフィロトが料理の研究と開発に心血を注いだ結果、現在、そこそこセフィロトの店は繁盛している。
ザインのことを思い出すことがなくなる日は、永遠に来ないだろう。しかし、十年という長い月日が経ち、昔を振り返り優しい気持ちになれるくらいには、セフィロトの心にもゆとりはできるようになった。
前を向いて生きて行く。オリバーの手を取ると決めた時に、セフィロトはそう自分自身に誓ったのだ。
穏やかで陽だまりのような、オリバーの愛情に包まれた日々は、セフィロトにとってかけがえのないものとなっていた。
だが、そんなセフィロトにもたった一つだけ悩みがある。
それは、オリバーとの夜の営みについてだ。
――……オリバーが、あまりに絶倫すぎるのだ。
0
お気に入りに追加
42
あなたにおすすめの小説
彼の理想に
いちみやりょう
BL
あの人が見つめる先はいつも、優しそうに、幸せそうに笑う人だった。
人は違ってもそれだけは変わらなかった。
だから俺は、幸せそうに笑う努力をした。
優しくする努力をした。
本当はそんな人間なんかじゃないのに。
俺はあの人の恋人になりたい。
だけど、そんなことノンケのあの人に頼めないから。
心は冗談の中に隠して、少しでもあの人に近づけるようにって笑った。ずっとずっと。そうしてきた。
君の瞳に囚われて
ビスケット
BL
なんちゃって侯爵令息カイン。母子二人、数人の使用人に世話をされながら、ふわふわと惰眠を貪るような平穏な毎日を過ごしている。隔絶された田舎でのんきな暮らしをしていたある日、思い出す。
ここは正に、かつて妹がやっていた乙女ゲーム『貴公子達の花園』の舞台であると。しかも将来豚の餌になる運命にある、モブ令息のカインだ。ううむ、しかし分かったところで、すでにどうしようもない状況である。なぜなら、俺はこの世界のことをほとんど知らないからだ。予備知識は、自分の運命が悪役令嬢の手先となって破滅し、監禁、拷問、豚の餌という事だけ。妹が話す内容はほとんど聞き流していたが、こいつのことだけは悲惨すぎて覚えていたに過ぎない。悪役令嬢が誰かも知らんが、何とか回避できるように俺は、俺の出来ることをすることにする。
恋のキューピットは歪な愛に招かれる
春於
BL
〈あらすじ〉
ベータの美坂秀斗は、アルファである両親と親友が運命の番に出会った瞬間を目の当たりにしたことで心に深い傷を負った。
それも親友の相手は自分を慕ってくれていた後輩だったこともあり、それからは二人から逃げ、自分の心の傷から目を逸らすように生きてきた。
そして三十路になった今、このまま誰とも恋をせずに死ぬのだろうと思っていたところにかつての親友と遭遇してしまう。
〈キャラクター設定〉
美坂(松雪) 秀斗
・ベータ
・30歳
・会社員(総合商社勤務)
・物静かで穏やか
・仲良くなるまで時間がかかるが、心を許すと依存気味になる
・自分に自信がなく、消極的
・アルファ×アルファの政略結婚をした両親の元に生まれた一人っ子
・両親が目の前で運命の番を見つけ、自分を捨てたことがトラウマになっている
養父と正式に養子縁組を結ぶまでは松雪姓だった
・行方をくらますために一時期留学していたのもあり、語学が堪能
二見 蒼
・アルファ
・30歳
・御曹司(二見不動産)
・明るくて面倒見が良い
・一途
・独占欲が強い
・中学3年生のときに不登校気味で1人でいる秀斗を気遣って接しているうちに好きになっていく
・元々家業を継ぐために学んでいたために優秀だったが、秀斗を迎え入れるために誰からも文句を言われぬように会社を繁栄させようと邁進してる
・日向のことは家族としての好意を持っており、光希のこともちゃんと愛している
・運命の番(日向)に出会ったときは本能によって心が惹かれるのを感じたが、秀斗の姿がないのに気づくと同時に日向に向けていた熱はすぐさま消え去った
二見(筒井) 日向
・オメガ
・28歳
・フリーランスのSE(今は育児休業中)
・人懐っこくて甘え上手
・猪突猛進なところがある
・感情豊かで少し気分の浮き沈みが激しい
・高校一年生のときに困っている自分に声をかけてくれた秀斗に一目惚れし、絶対に秀斗と結婚すると決めていた
・秀斗を迎え入れるために早めに子どもをつくろうと蒼と相談していたため、会社には勤めずにフリーランスとして仕事をしている
・蒼のことは家族としての好意を持っており、光希のこともちゃんと愛している
・運命の番(蒼)に出会ったときは本能によって心が惹かれるのを感じたが、秀斗の姿がないのに気づいた瞬間に絶望をして一時期病んでた
※他サイトにも掲載しています
ビーボーイ創作BL大賞3に応募していた作品です
【R18】【Bl】イケメン生徒会長αは俺の運命らしいです。えっと俺βなんですが??
ペーパーナイフ
BL
俺はΩの高校2年ナギ。この春、αとΩだけの学園に転校した。しかし転校数日前にストレス性変異によって、突然性別がβに変わってしまった!
Ωクラスに入ったもののバカにされる毎日。そんなとき学園一のαである生徒会長から
「お前は俺の運命だ」と言われてしまい…。
いや、俺今βなんですが??
βに変わり運命の匂いがわからず攻めから逃げようとする受け。アホな受けがαにえっちな溺愛されます。
注意
無理やり 自慰 玩具 フェラ 中出し 何でもありな人向け
妊娠可能ですが、主人公は妊娠しません
リバなし
無理やりだけど愛はある
ほぼエロ ストーリー薄め
オメガバース独自設定あり
完結•枯れおじ隊長は冷徹な副隊長に最後の恋をする
禅
BL
赤の騎士隊長でありαのランドルは恋愛感情が枯れていた。過去の経験から、恋愛も政略結婚も面倒くさくなり、35歳になっても独身。
だが、優秀な副隊長であるフリオには自分のようになってはいけないと見合いを勧めるが全滅。頭を悩ませているところに、とある事件が発生。
そこでαだと思っていたフリオからΩのフェロモンの香りがして……
※オメガバースがある世界
ムーンライトノベルズにも投稿中
君は俺の光
もものみ
BL
【オメガバースの創作BL小説です】
ヤンデレです。
受けが不憫です。
虐待、いじめ等の描写を含むので苦手な方はお気をつけください。
もともと実家で虐待まがいの扱いを受けておりそれによって暗い性格になった優月(ゆづき)はさらに学校ではいじめにあっていた。
ある日、そんなΩの優月を優秀でお金もあってイケメンのαでモテていた陽仁(はると)が学生時代にいじめから救い出し、さらに告白をしてくる。そして陽仁と仲良くなってから優月はいじめられなくなり、最終的には付き合うことにまでなってしまう。
結局関係はずるずる続き二人は同棲まですることになるが、優月は陽仁が親切心から自分を助けてくれただけなので早く解放してあげなければならないと思い悩む。離れなければ、そう思いはするものの既に優月は陽仁のことを好きになっており、離れ難く思っている。離れなければ、だけれど離れたくない…そんな思いが続くある日、優月は美女と並んで歩く陽仁を見つけてしまう。さらにここで優月にとっては衝撃的なあることが発覚する。そして、ついに優月は決意する。陽仁のもとから、離れることを―――――
明るくて優しい光属性っぽいα×自分に自信のないいじめられっ子の闇属性っぽいΩの二人が、運命をかけて追いかけっこする、謎解き要素ありのお話です。
浮気されてもそばにいたいと頑張ったけど限界でした
雨宮里玖
BL
大学の飲み会から帰宅したら、ルームシェアしている恋人の遠堂の部屋から聞こえる艶かしい声。これは浮気だと思ったが、遠堂に捨てられるまでは一緒にいたいと紀平はその行為に目をつぶる——。
遠堂(21)大学生。紀平と同級生。幼馴染。
紀平(20)大学生。
宮内(21)紀平の大学の同級生。
環 (22)遠堂のバイト先の友人。
平凡顔のΩですが、何かご用でしょうか。
無糸
BL
Ωなのに顔は平凡、しかも表情の変化が乏しい俺。
そんな俺に番などできるわけ無いとそうそう諦めていたのだが、なんと超絶美系でお優しい旦那様と結婚できる事になった。
でも愛しては貰えて無いようなので、俺はこの気持ちを心に閉じ込めて置こうと思います。
___________________
異世界オメガバース、受け視点では異世界感ほとんど出ません(多分)
わりかし感想お待ちしてます。誰が好きとか
現在体調不良により休止中 2021/9月20日
最新話更新 2022/12月27日
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる