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●本編(受視点)

いつのまにか外堀を埋められたけれど、ちょっと可愛いところがあるから心も絆されてしまいました③

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それからと言うもの、アシュリー様が間隔を空けつつも僕の所に遊びにやって来るようになった。

「無断でまたやって来たのであれば怒られるのでは?」と聞いたんだけれど、アシュリー様はにこやかに笑うと「大丈夫だ」と自信満々に言った。

「この間、しっかりと話し合って、君の所に遊びに来ても良いと許可を貰ったんだよ」

「えっと、この間の朝帰りの……?」

「ああ、そうだ。あの日はね、私以外にも共通の友人たちと飲んだんだが、あいつはちょっと不器用と言うか何と言うか、色々と一部問題もあるやつでね。それについて深く話し合って、状況を打開するにために私が来ているという訳だ」

「……?」

「……ああ、もうその反応を見る限り何も進んでいないんだな」

アシュリー様の話に首を傾げた僕を見て、やや笑みを引きつらせたアシュリー様だったが、すぐに気分一新するように満開の笑みを浮かべた。

「とにかく悪いようにはしないし、これは君のためにもあいつの為にもなる事だから安心してほしい」

そう強く言われてしまえば、僕は頷くしかなかった。





そして時を同じくして、テオドシウス様の言動にも徐々に変化があった。

今までのテオドシウス様は、僕に優しくはしてくれていたけれど、少しだけ距離があったんだよね。

突然、抱きしめてくることはあったんだけれど、基本的には何ていうんだろう堅い雰囲気な事が多かったんだ。

しかし、最近はぎこちないけれど、少しだけ柔軟に僕に近づこうとしてくるようになった。

別に僕はストイックな雰囲気も素敵だなと思っていたし、そのままでも良かったんだけれど、一緒にデートをしないかと言われた僕は、正直舞い上がってしまった。

恋人同士じゃないからデートではないんだろうけど、そこはともかくとして、テオドシウス様と外出するのは初めてだったからだ。

将来の使用人候補としては図々しい願いだとは思うんだけど、やっぱり仲良くなれるのは嬉しかった。

(本当の兄弟になったみたいだし……っ)

想像して胸が弾むのが分かった。

それに、今まではなんだかんだで僕の行動範囲は基本的に屋敷の中だけだった事もあって、正直退屈だったんだ。

外は危ないからって、出して貰えなかったんだよね。

でも、実際には、帝国の首都はクロス王国よりもかなり大きいし賑やかだけど治安は良いんだ。

帝国騎士はすごく厳しい事で知られているから犯罪も起きにくいし、さらにテオドシウス様の屋敷がある北地区は、城に勤める騎士団員や魔術師の家が多い。

いわば、ご近所が皆、仲間の身内なのである。

僕が困っていると皆がすぐに助けてくれるし、それ以外の人たちも、テオドシウス様から貰った、ツァーリ家の紋章入りの物を身につけている僕に危害を加える人は多分限りなくゼロに近い。

テオドシウス様は僕以外には苛烈な事もするそうなので、そんな人が居たら間違いなく自殺志願者だろう。

ちなみに帝都の南には、少し治安が悪い場所もあるらしいけど、僕はそちらには最初から近づく気もない。

多分、娼館とかがあるんだろう。

さすがに犯罪率ゼロはないみたいだけど、治安の悪い場所での犯罪ですら、酔った末の殴り合いとか、女の子の取り合いくらいだって言うんだから、帝国の管理能力がいかに優れているか分かる。

(別にちょっとくらい良いのになぁ……)

さすがに、そろそろ運動不足になりそうな僕だったので、今度は一人でも外に出して貰えないかなと交渉しようと思っている。
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