上 下
12 / 44
●本編(受視点)

いつのまにか外堀を埋められたけれど、ちょっと可愛いところがあるから心も絆されてしまいました①

しおりを挟む
最初に「奥様」と呼ばれたのは、テオドシウス様と同格である、双将軍のアシュリー様が屋敷に遊びに来た日の事だった。

彼の言い方は正確には「奥方」だったけれど、お祝いの品を持ってお屋敷へとやって来たのだ。

今日、テオドシウス様は城へ呼び出されており、帰りは夕方になると聞いていると一応は説明したのだけれど、アシュリー様はにっこりと笑いながら「テオドシウス様には内緒で来た」とお茶目な感じで言った。

間近で見たアシュリー様は、テオドシウス様とはまた違った美形の男性だなと言うのが最初の印象だった。

鮮やかな銀色の髪に青い瞳をしたアシュリー様は、テオドシウス様がどちらかと言えば目つきの鋭い強面の美丈夫なのに対して、柔らかく柔和な雰囲気のまるで御伽噺に出てくる王子様の様な外見をしている。

とは言っても、背は僕よりも十センチ以上は高くしっかりとした体格をしているし、クロス王国に轟いていた異名から印象通りの優男ではない事は当然ではあったが……。

「……奥方、ですか。テオドシウス様は結婚されていたんですか? 僕知らなかったです」

最初聞いた時は、「え、あの人結婚してたんだ!?」という驚きだった。

屋敷にやって来て既に一カ月経過しているのに、一度もお会いしていない。

屋敷にお世話になっているのに、奥様に挨拶も出来ていないなんてとんでもないと焦る僕に、アシュリー様はぎょっとした表情を浮かべて、僕を凝視していた。

「……アシュリー様?」

不思議そうに首を傾げた僕に、しばらく沈黙したアシュリー様は、片手で顔を覆い天井を見上げると大きなため息を吐いた。

「ああ、なるほど……。おかしいと思ったんだ。だから、私に会わせないはずだ。ああ、もうあの男は本当に……!」

「だ、大丈夫ですか?」

動揺している様子のアシュリー様に、僕は慌てた。
客人が体調を崩されたのであれば、大変である。

心配してかけよろうとした僕だったけれど、その行動を阻むように、そこに割って入った大きな声があった。

「アシュリー、貴様っ!!」

「……っ? テオドシウス様っ」

声のした方を見れば、入り口の扉を壊しそうな勢いで開けたテオドシウス様が、怒りの表情でこちらを睨みつけていた。

(え、まだお戻りになる時間じゃ無い筈なのに……!)

帰りは夕方だと言っていたが、まだ昼の時間である。

鬼の様な怖い形相に、僕は驚いて動きを止めてしまっていたけれど、ズカズカと僕の近くに寄ってきたテオドシウス様は僕を庇うような形でアシュリー様との間に入った。

「アシュリー、私はお前に勝手にこの屋敷に入る許可は出してはいないはずだが……? お前たちも何故こいつを入れた!」

怒鳴ったテオドシウス様は、冷たい目で使用人を睨みつけたけれど、それを見たアシュリー様が「落ち着いてくれ」と宥めるように言った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ヘルヴィルのまったり日和

やらぎはら響
BL
タイトルの通りです。 色気ほとばしる穏やかな攻(7歳)×曖昧な知識の乙女ゲームの悪役に転生したのんびり図太い受(2歳)のまったりな出会い。 ゆっくり更新です。 他サイトでも発表しています。

記憶の欠けたオメガがヤンデレ溺愛王子に堕ちるまで

橘 木葉
BL
ある日事故で一部記憶がかけてしまったミシェル。 婚約者はとても優しいのに体は怖がっているのは何故だろう、、 不思議に思いながらも婚約者の溺愛に溺れていく。 --- 記憶喪失を機に愛が重すぎて失敗した関係を作り直そうとする婚約者フェルナンドが奮闘! 次は行き過ぎないぞ!と意気込み、ヤンデレバレを対策。 --- 記憶は戻りますが、パッピーエンドです! ⚠︎固定カプです

異世界に落っこちたら溺愛された

PP2K
BL
僕は 鳳 旭(おおとり あさひ)18歳。 高校最後の卒業式の帰り道で居眠り運転のトラックに突っ込まれ死んだ…はずだった。 目が覚めるとそこは見ず知らずの森。 訳が分からなすぎて1周まわってなんか冷静になっている自分がいる。 このままここに居てもなにも始まらないと思い僕は歩き出そうと思っていたら…。 「ガルルルゥ…」 「あ、これ死んだ…」 目の前にはヨダレをだらだら垂らした腕が4本あるバカでかいツノの生えた熊がいた。 死を覚悟して目をギュッと閉じたら…!? 騎士団長×異世界人の溺愛BLストーリー 文武両道、家柄よし・顔よし・性格よしの パーフェクト団長 ちょっと抜けてるお人好し流され系異世界人 ⚠️男性妊娠できる世界線️ 初投稿で拙い文章ですがお付き合い下さい ゆっくり投稿していきます。誤字脱字ご了承くださいm(*_ _)m

ざまぁされた小悪党の俺が、主人公様と過ごす溺愛スローライフ!?

嶋紀之/サークル「黒薔薇。」
BL
わんこ系執着攻めヒーロー×卑屈な小悪党転生者、凸凹溺愛スローライフ!? やり込んでいたゲームそっくりの世界に異世界転生して、自分こそがチート主人公だとイキリまくっていた男、セイン……こと本名・佐出征時。 しかし彼は、この世界の『真の主人公』である青年ヒイロと出会い、彼に嫉妬するあまり殺害計画を企て、犯罪者として追放されてしまう。 自分がいわゆる『ざまぁされる悪役』ポジションだと気付いたセインは絶望し、孤独に野垂れ死ぬ……はずが!! 『真の主人公』であるヒイロは彼を助けて、おまけに、「僕は君に惚れている」と告げてきて!? 山奥の小屋で二人きり、始まるのは奇妙な溺愛スローライフ。 しかしどうやら、ヒイロの溺愛にはワケがありそうで……? 凸凹コンビな二人の繰り広げるラブコメディです。R18要素はラストにちょこっとだけ予定。 完結まで執筆済み、毎日投稿予定。

異世界召喚に巻きこまれたらスマホがバグって騎士団団長の妻になるそうです

雪那 由多
BL
会社帰り女の子が異世界召喚されようとしたところを目撃してしまい、とっさに助けようと手を伸ばしたら見事巻き込まれた七瀬天鳥(29歳) 異世界先で保護してもらおうと訴えた相手からの要求は 「あなたの身柄は私が保証します。勿論あなたの事を全力でお守りします。  なのでどうか私の妻として婚姻を結んでください」 差し出された書類にサインするだけの状態で渡された俺の選択はただ一つ。 とりあえずいろいろこの世界を学ぶつもりで名前を書いたけどこの選択は合っているのか誰か教えてくれ……

推しの護衛の推しが僕

大島Q太
BL
今日も元気だ推しが尊い。貧乏男爵家の次男 エルフィンは平凡な王立学園の2年生。だからこそ自分に無いキラキラした人たちを≪キラキラ族≫と呼び日々愛でている。仲間と集まって推し活動をしているとなんとキラキラ族が口説いてくる。なんでどうしてって言いながら流されハッピーエンド。ぐいぐい来る護衛×チョロ受  表紙は春瀬湖子様が描いてくださいました。キラキラ族がキラキラしてるでしょう! ≪男しかいない世界≫≪卵産む設定ありますが産みました≫ 

白銀の狐は異世界にうっかり渡り幸せになる

ネコフク
BL
こんにちは玉藻です!僕の一族、神狐族は神様に仕えて神界に住んでるんだ。一族の中でも選ばれた人が異世界に渡ってその世界の神様になったり滅ぼしたりするんだよ。僕の一族凄いでしょ! その渡りがある前日におにいたまと一緒にこっそり儀式の間を見に神殿に行ったら神様がいて抱きかかえられたんだ。そうしたら神様がつまずいて魔法陣の中に落ちちゃった。 落ちた先の世界で心細くて泣いていたら綺麗な子が助けてくれたんだ!その子がずっとここにいていいよって言ってくれたからいつも一緒にいるけど間違って渡った僕はこの世界で何をしたらいいの? えっ?大きくなったら僕と結婚したい?結婚って何?ずっと一緒にいること?うん、一緒にいるー! 神狐族(人間にケモミミ尻尾・狐にもなれる)の玉藻がうっかり異世界(オメガバースの世界)に落ちた先で山あり谷あり幸せになる話です。 出て来る人は何かしら拗らせています。 神様はエセ関西弁を話しています。エセですエセ。 幼少期から始まりますのでエロは先の先です。 不定期投稿で毎日更新の時もあれば間が開く時もあるので気長にお待ち頂ける方向けです。

名前のない脇役で異世界召喚~頼む、脇役の僕を巻き込まないでくれ~

沖田さくら
BL
仕事帰り、ラノベでよく見る異世界召喚に遭遇。 巻き込まれない様、召喚される予定?らしき青年とそんな青年の救出を試みる高校生を傍観していた八乙女昌斗だが。 予想だにしない事態が起きてしまう 巻き込まれ召喚に巻き込まれ、ラノベでも登場しないポジションで異世界転移。 ”召喚された美青年リーマン”  ”人助けをしようとして召喚に巻き込まれた高校生”  じゃあ、何もせず巻き込まれた僕は”なに”? 名前のない脇役にも居場所はあるのか。 捻くれ主人公が異世界転移をきっかけに様々な”経験”と”感情”を知っていく物語。 「頼むから脇役の僕を巻き込まないでくれ!」 ーーーーーー・ーーーーーー 小説家になろう!でも更新中! 早めにお話を読みたい方は、是非其方に見に来て下さい!

処理中です...