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●本編(受視点)
僕は一体どんな立場なの?②
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――で、ここまでがこのクロス王国における一連の事件の概要なんだけれど、その後の展開は正直僕の想像からかけ離れたものだった。
いや、クロス王国に関する今後の政策などは良く協議されていて、互いに譲歩できるようなところを探しているから、そこは想像の範囲内なんだ。
予想外なのは僕の事である。
あの日、事が終わって僕を迎えに来てくれたテオドシウス様たちは、さすがにかなり疲弊はしていたが、部下の人たちの誰一人欠けることは無く、テオドシウス様も大きな怪我を負う事も無かった。
安心した僕は、喜びもあるけれど、これでジュリアス様の望みが叶ったんだという安堵感から腰が抜けてしまい、慌てたテオドシウス様に看病されてしまうという大失態を犯してしまったんだけれど、テオドシウス様は笑って許してくれた。
優しい方なんだなぁと僕は思ったんだけど、やっぱり部下の人は信じられないものを見る目で僕たちを見つめていたし、むしろ怖がられている気すらするくらい顔が蒼白の人もいたのが、不思議だった。
ただ、いくら優しい人とはいっても、僕についてはそのまま解放するにはいかないのは僕も覚悟はしていた。
だから、一緒に来て欲しいと言われた僕は尋問や拷問を受ける覚悟だったんだけど……。
でも、魔法陣から帝国領土に渡り馬車に乗せられて僕が連れて来られたのは大きくて立派な屋敷。
尋問も拷問も受けず、綺麗な服に着替えさせられて美味しいご飯をご馳走された僕は、テオドシウス様から子供の頃の話などを聞かれて楽しくお喋りをしただけ。
(気を使ってくださってるのかな……?)
もしかしたら、辛い目に合うのだからと優しくしてくださっているのかなと思った僕は、折角のお心遣いを駄目にしないように、テオドシウス様との会話を楽しんだ。
(翌日からはきっとどこかに再び連れていかれるのだろう)
しかし。
一晩ぐっすりと休んだ僕はその日の朝に屋敷に見合った数の上品な男女の使用人たちに紹介されて、そのままこのお屋敷にて生活をするようになったのだ。
「テオドシウス様、あの……僕を尋問したり、拷問したりはしないんですか?」
「……拷問!?」
僕が恐る恐るそう切り出したのは、屋敷で過ごす様になり一週間ほどたったある日の事だった。
だって僕は本来敵国の人間であって、普通は拷問はともかくとして尋問位は受けてもおかしくはないはずだ。
なのに、実際の待遇は要人みたいな扱いなんだから、僕が不思議に思うのも仕方ないだろう。
しかし、テオドシウス様は僕の言葉に目を剥いたように驚いた後、扉側に控える使用人の男性をきつい眼差しで睨んでいた。
まるで、何か余計な事を言ったのではないかと責め立てるように。
けれど、すぐに僕に優しい表情で向き直ると、諭すような口調で言ってきた。
「ココ、君にそんな事をするわけがないだろう。尋問も拷問も君には必要ないのだから」
「……ですが、僕以外の人は受けているのでしょう?」
そう、僕以外も同じ対応ならまだ分かるんだけれど、こういう待遇を受けているのは僕だけなのだ。
勿論、ただ王城で仕えているだけの人たちが拷問にかけられるという事はない。
彼らは使用人であり、主に逆らえない立場だっただけだ。
あくまで拷問を受けるのは、もっと具体的な悪事に手を染めていた人間ばかりだ。
けれど、それでも他の人は尋問は受けているとテオドシウス様から話を聞いていたので、明らかに僕の状況はおかしな状況なんだ。
いくら協力者とは言っても、何もないというのは考えにくいと思うんだけれど……。
「ココ、君はもう苦しい思いをする必要は無いんだよ。今までが辛かったんだからね。それに前にも言ったけれど、君の同僚たちは尋問と言っても殆ど丁寧に事情を聞いただけだ。君の話は俺が聞いているから、問題は無いんだよ」
(いや、話の大半は僕の思い出ばかりだったから、何の事情聴取もできてないんだけど……)
優しい口調だけど、反論を許さないような強い意志を感じて僕は黙り込んだ。
それに、さっきから扉の前で明らかに怯えている使用人たちが可哀想すぎて、これ以上余計な事を言うと彼らに火の粉が降りかかってしまうのではないかと思えば、この話は今後しない方が良いように感じた。
その時の僕は、一週間を一緒に過ごす内にテオドシウス様についてやっと理解し始めていた。
この人は、優しいのは僕にだけであって他の人に対しては基本的に冷淡であり、更に僕を大切にはしてくれているけれど、本質は中々に強引なのである。
僕が本当に嫌な事は絶対にしないんだけれど、僕が迷う場合は、自分が望む方に誘導してくるのだから、意外と良い性格をしている。
ただ、僕もこの時点でもう少し考えて行動をしていたのなら、嫁扱いを受けずに済んだのだろうと今は激しく思っている。
不審な言動が繰り返されるようになったのは、屋敷に移ってから1カ月経過した頃だった。
いや、クロス王国に関する今後の政策などは良く協議されていて、互いに譲歩できるようなところを探しているから、そこは想像の範囲内なんだ。
予想外なのは僕の事である。
あの日、事が終わって僕を迎えに来てくれたテオドシウス様たちは、さすがにかなり疲弊はしていたが、部下の人たちの誰一人欠けることは無く、テオドシウス様も大きな怪我を負う事も無かった。
安心した僕は、喜びもあるけれど、これでジュリアス様の望みが叶ったんだという安堵感から腰が抜けてしまい、慌てたテオドシウス様に看病されてしまうという大失態を犯してしまったんだけれど、テオドシウス様は笑って許してくれた。
優しい方なんだなぁと僕は思ったんだけど、やっぱり部下の人は信じられないものを見る目で僕たちを見つめていたし、むしろ怖がられている気すらするくらい顔が蒼白の人もいたのが、不思議だった。
ただ、いくら優しい人とはいっても、僕についてはそのまま解放するにはいかないのは僕も覚悟はしていた。
だから、一緒に来て欲しいと言われた僕は尋問や拷問を受ける覚悟だったんだけど……。
でも、魔法陣から帝国領土に渡り馬車に乗せられて僕が連れて来られたのは大きくて立派な屋敷。
尋問も拷問も受けず、綺麗な服に着替えさせられて美味しいご飯をご馳走された僕は、テオドシウス様から子供の頃の話などを聞かれて楽しくお喋りをしただけ。
(気を使ってくださってるのかな……?)
もしかしたら、辛い目に合うのだからと優しくしてくださっているのかなと思った僕は、折角のお心遣いを駄目にしないように、テオドシウス様との会話を楽しんだ。
(翌日からはきっとどこかに再び連れていかれるのだろう)
しかし。
一晩ぐっすりと休んだ僕はその日の朝に屋敷に見合った数の上品な男女の使用人たちに紹介されて、そのままこのお屋敷にて生活をするようになったのだ。
「テオドシウス様、あの……僕を尋問したり、拷問したりはしないんですか?」
「……拷問!?」
僕が恐る恐るそう切り出したのは、屋敷で過ごす様になり一週間ほどたったある日の事だった。
だって僕は本来敵国の人間であって、普通は拷問はともかくとして尋問位は受けてもおかしくはないはずだ。
なのに、実際の待遇は要人みたいな扱いなんだから、僕が不思議に思うのも仕方ないだろう。
しかし、テオドシウス様は僕の言葉に目を剥いたように驚いた後、扉側に控える使用人の男性をきつい眼差しで睨んでいた。
まるで、何か余計な事を言ったのではないかと責め立てるように。
けれど、すぐに僕に優しい表情で向き直ると、諭すような口調で言ってきた。
「ココ、君にそんな事をするわけがないだろう。尋問も拷問も君には必要ないのだから」
「……ですが、僕以外の人は受けているのでしょう?」
そう、僕以外も同じ対応ならまだ分かるんだけれど、こういう待遇を受けているのは僕だけなのだ。
勿論、ただ王城で仕えているだけの人たちが拷問にかけられるという事はない。
彼らは使用人であり、主に逆らえない立場だっただけだ。
あくまで拷問を受けるのは、もっと具体的な悪事に手を染めていた人間ばかりだ。
けれど、それでも他の人は尋問は受けているとテオドシウス様から話を聞いていたので、明らかに僕の状況はおかしな状況なんだ。
いくら協力者とは言っても、何もないというのは考えにくいと思うんだけれど……。
「ココ、君はもう苦しい思いをする必要は無いんだよ。今までが辛かったんだからね。それに前にも言ったけれど、君の同僚たちは尋問と言っても殆ど丁寧に事情を聞いただけだ。君の話は俺が聞いているから、問題は無いんだよ」
(いや、話の大半は僕の思い出ばかりだったから、何の事情聴取もできてないんだけど……)
優しい口調だけど、反論を許さないような強い意志を感じて僕は黙り込んだ。
それに、さっきから扉の前で明らかに怯えている使用人たちが可哀想すぎて、これ以上余計な事を言うと彼らに火の粉が降りかかってしまうのではないかと思えば、この話は今後しない方が良いように感じた。
その時の僕は、一週間を一緒に過ごす内にテオドシウス様についてやっと理解し始めていた。
この人は、優しいのは僕にだけであって他の人に対しては基本的に冷淡であり、更に僕を大切にはしてくれているけれど、本質は中々に強引なのである。
僕が本当に嫌な事は絶対にしないんだけれど、僕が迷う場合は、自分が望む方に誘導してくるのだから、意外と良い性格をしている。
ただ、僕もこの時点でもう少し考えて行動をしていたのなら、嫁扱いを受けずに済んだのだろうと今は激しく思っている。
不審な言動が繰り返されるようになったのは、屋敷に移ってから1カ月経過した頃だった。
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