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●本編(受視点)
とんでもない事をしてしまったのかもしれない①
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「……ごくり」
笛を手に持ったまま、僕はその場で固まっていた。
今、僕の目の前に居るのは、大柄な方である僕が見上げるほどの長身の鎧姿の男性だ。
フルプレートの鎧姿が違和感なく似合うほどの体躯は、中々お目にかかれない程立派だったけれど、何より目を引くのはその顔立ちだった。
僕を怖がらせないように外された、ヘルムの下から現れたのは心臓が止まるくらいの美丈夫で、ちょっとだけ強面ではあるけれど、控えめに言ってすごくカッコイイ人だった。
カッコイイだけではなくて、嫌味にならない程度にあか抜けている雰囲気で、服装や小物ですごく頑張っても「うん、なんか残念かな」と言われる僕とは色々と雲泥の差である。
そんな彼が、僕の前に膝をついて僕を優しい目で見つめてくるのだから、僕が緊張で固まってしまうのも仕方ない事だろう。
今までの僕はどちらかと言えば女の子の方が可愛くて好きだなぁって思ってたんだけれど、ここまでかっこいいと胸が高鳴るのは仕方ないと思う。うん。
僕が何も言わない事を不審に思ったのか、僕の手をそっと取り「大丈夫か?」と聞いてくれて、僕は必死で頷いた。
「ああ、良かった。具合が悪いのかと思ったんだ。身体には傷はない様だが、辛い目には合っていないか?」
「え、えぇ、だ、大丈夫です?」
低くて渋い声に、僕はかっこいい人は声までカッコイイのかと内心で褒めちぎっていた。
僕も実は結構声には自信があるんだ。
ただ、どちらかと言うと僕は明るい感じの声質だけれど、この男性は落ち着いた色気のある声質をしていて、羨ましいと思うと同時にちょっとだけ嫉妬してしまった。
(なお、僕は声には自信があるんだけどあまり歌が得意ではないので……そっちの道には進めなかった)
「あの、貴方は一体……?」
優しい笑みで僕を見つめる男の人に、遅まきながら恐る恐る聞いてみる。
僕への優しい言動から、僕に危害を加える気がない事は分かっていたし、何よりユージーンがおとなしくしているので大丈夫だとは思っていたけれど、普通に考えて今の状況は異常である。
「ああ、すまん。自己紹介がまだだったか。というより本当はもう少し驚かれるかと思っていたのに、君が冷静だったからもしかすると予想をしていたのかと何も言わなかったのだが……その言いようでは予想していた訳では無かったのだな」
「すみません、そのあまりの事にちょっと固まってしまって……!」
そう。何故こんな人が突然現れたのかと言うと、だ。
僕がジュリアス様から貰った笛を吹いた瞬間、本来なら周囲に鳴り響く筈だった音は何故か一切聞こえず、最初はユージーンも不思議そうにぶるぶると鼻を鳴らしていたのだけれど、僕の足元から唐突に発生した風がくるくると旋風を描くと同時、地面に魔法陣が浮かび上がったのである。
三メートル程度はある大きな魔法陣は、紫色に眩く発光した後、ゆっくりとおさまって行き、僕が眩しさで一瞬閉じた目を開いた時には既に、この男性が居たのだ。
「いや、気にしていない。……むしろ悲鳴くらい上げてもおかしくないだろうに、逆に心配になるな」
「え?」
「いや、独り言だ」
何か小さく聞こえた気がしたけれど、男の人は気にしなくて良いと続けた後、僕の手の中にある笛をじっと見つめていた。
「あ、の。これは僕がジュリアス様、この国の王様だった人から貰った物なんです。ジュリアス様は、僕が危険だと思ったらこの笛を使いなさいって僕に渡してくれました。必ず僕を助けてくれる人が来るのだと」
「ジュリアスの事は残念だった。良い奴だったんだが、敵も多い奴でもあったからな。いつか、こういう日が来ることは俺もあいつも分かっていた事だ」
笛を持つ僕の手に、大きな男の人の手が重ねられる。
馬丁をしている関係で僕の指は大分ごついけれど、男の人の手もそれ以上にごつごつとして、この人が日頃から武器を扱っているのだと分かった。
そしてその言い方から、この男の人は、ジュリアス様の死について「自殺」ではないのだと知っているのだと分かる。
「ジュリアス様は、やっぱり……」
「ああ」
男の人の言葉に、僕は顔を覆って泣いた。
分かっていた事だったけれど、ジュリアス様が死んでから、誰にも一度としてその話をする事は出来なかったから、僕は本当の意味では今までずっと泣けなかったのだ。
「好きなだけ泣けば良い。何もできないが傍に居る事は出来るからな」
力強い腕に抱き寄せられて、僕は思う存分泣いた。
やっと、ジュリアス様の死を僕は確かに感じていた。
笛を手に持ったまま、僕はその場で固まっていた。
今、僕の目の前に居るのは、大柄な方である僕が見上げるほどの長身の鎧姿の男性だ。
フルプレートの鎧姿が違和感なく似合うほどの体躯は、中々お目にかかれない程立派だったけれど、何より目を引くのはその顔立ちだった。
僕を怖がらせないように外された、ヘルムの下から現れたのは心臓が止まるくらいの美丈夫で、ちょっとだけ強面ではあるけれど、控えめに言ってすごくカッコイイ人だった。
カッコイイだけではなくて、嫌味にならない程度にあか抜けている雰囲気で、服装や小物ですごく頑張っても「うん、なんか残念かな」と言われる僕とは色々と雲泥の差である。
そんな彼が、僕の前に膝をついて僕を優しい目で見つめてくるのだから、僕が緊張で固まってしまうのも仕方ない事だろう。
今までの僕はどちらかと言えば女の子の方が可愛くて好きだなぁって思ってたんだけれど、ここまでかっこいいと胸が高鳴るのは仕方ないと思う。うん。
僕が何も言わない事を不審に思ったのか、僕の手をそっと取り「大丈夫か?」と聞いてくれて、僕は必死で頷いた。
「ああ、良かった。具合が悪いのかと思ったんだ。身体には傷はない様だが、辛い目には合っていないか?」
「え、えぇ、だ、大丈夫です?」
低くて渋い声に、僕はかっこいい人は声までカッコイイのかと内心で褒めちぎっていた。
僕も実は結構声には自信があるんだ。
ただ、どちらかと言うと僕は明るい感じの声質だけれど、この男性は落ち着いた色気のある声質をしていて、羨ましいと思うと同時にちょっとだけ嫉妬してしまった。
(なお、僕は声には自信があるんだけどあまり歌が得意ではないので……そっちの道には進めなかった)
「あの、貴方は一体……?」
優しい笑みで僕を見つめる男の人に、遅まきながら恐る恐る聞いてみる。
僕への優しい言動から、僕に危害を加える気がない事は分かっていたし、何よりユージーンがおとなしくしているので大丈夫だとは思っていたけれど、普通に考えて今の状況は異常である。
「ああ、すまん。自己紹介がまだだったか。というより本当はもう少し驚かれるかと思っていたのに、君が冷静だったからもしかすると予想をしていたのかと何も言わなかったのだが……その言いようでは予想していた訳では無かったのだな」
「すみません、そのあまりの事にちょっと固まってしまって……!」
そう。何故こんな人が突然現れたのかと言うと、だ。
僕がジュリアス様から貰った笛を吹いた瞬間、本来なら周囲に鳴り響く筈だった音は何故か一切聞こえず、最初はユージーンも不思議そうにぶるぶると鼻を鳴らしていたのだけれど、僕の足元から唐突に発生した風がくるくると旋風を描くと同時、地面に魔法陣が浮かび上がったのである。
三メートル程度はある大きな魔法陣は、紫色に眩く発光した後、ゆっくりとおさまって行き、僕が眩しさで一瞬閉じた目を開いた時には既に、この男性が居たのだ。
「いや、気にしていない。……むしろ悲鳴くらい上げてもおかしくないだろうに、逆に心配になるな」
「え?」
「いや、独り言だ」
何か小さく聞こえた気がしたけれど、男の人は気にしなくて良いと続けた後、僕の手の中にある笛をじっと見つめていた。
「あ、の。これは僕がジュリアス様、この国の王様だった人から貰った物なんです。ジュリアス様は、僕が危険だと思ったらこの笛を使いなさいって僕に渡してくれました。必ず僕を助けてくれる人が来るのだと」
「ジュリアスの事は残念だった。良い奴だったんだが、敵も多い奴でもあったからな。いつか、こういう日が来ることは俺もあいつも分かっていた事だ」
笛を持つ僕の手に、大きな男の人の手が重ねられる。
馬丁をしている関係で僕の指は大分ごついけれど、男の人の手もそれ以上にごつごつとして、この人が日頃から武器を扱っているのだと分かった。
そしてその言い方から、この男の人は、ジュリアス様の死について「自殺」ではないのだと知っているのだと分かる。
「ジュリアス様は、やっぱり……」
「ああ」
男の人の言葉に、僕は顔を覆って泣いた。
分かっていた事だったけれど、ジュリアス様が死んでから、誰にも一度としてその話をする事は出来なかったから、僕は本当の意味では今までずっと泣けなかったのだ。
「好きなだけ泣けば良い。何もできないが傍に居る事は出来るからな」
力強い腕に抱き寄せられて、僕は思う存分泣いた。
やっと、ジュリアス様の死を僕は確かに感じていた。
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