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◆chapter1◆幼少時代編

一度目の異世界人生はトラウマ②

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 ただ、養子といっても別に辛い感じの人生じゃない。むしろ、一度目の人生を含めて、今世ではあらゆることで一番恵まれているといっても過言ではないくらいだ。

 俺の今世は、前回の人生から見て数百年後なのだが、当時の戦乱の世が嘘のように、正直むちゃくちゃ平和だった。

 何せ、争う相手が既にいないのだ。

 俺が前世で死んだ後に休戦と再びの開戦を何度か繰り返した後、色々とあって、たった数年で人間の数は全盛期の十分の一という数まで減ったらしい。歴史の本には原因は未曾有の厄災とあったから、おそらくは疫病とか呪いとかそういう類なんだろう。

 現在も人間は絶滅こそしていないけれど、魔族と争いなんてする余力はどこにもない上、魔族の力を借りないと生きて行けないみたいなので、現在の平和があるって感じだ。

 一応、魔族側はこれ以上人間を減らすつもりはないみたい。放っておいても多分、せいぜいがもって百年くらいらしいから手を下す必要がないってことなのかもだけど。

 元人間としては、それを聞いて正直ちょっとほっとした。前世で人間の仲間に裏切られてはいるけれど、俺の事を愛してくれた兄上や母上のことを考えると胸が苦しい。既にゼナス帝国は地図上から消えてなくなってしまっているけど、戦火と厄災を潜り抜けた後、幸せな余生を過ごしたのだと信じたい。

 ちなみに今俺の住居であるダークパレスがあるのは魔界って場所にあるけれど、この魔界っていうのは、ファンタジーゲームでいう地上・天界・魔界みたいな感じの異世界ではなく、パパの魔力で大陸に結界を張って、辺り一帯を外界から遮断しているだけだったりする。

 最初、もしかして別の異世界……? ってちょっと戸惑ったんだけど、世界は同じだったと知ってほっとした。イージーモードで始まった今世だけど、まっさらで何も知識がない状態って不安すぎるし。

 魔法は前世で覚えていたものは使用できることは確認済みで、計算方法とかも変わっていないので今世では割と優秀なんだよね。俺。まぁ、最終的なキャパシティは変わってないだろうから、ただの早咲きの凡人でしかないんだけど。

 今の唯一の悩みは自分のこの#体質__ポメ化_#くらいだ。

(こうなっちゃうと……自分の意志で人の姿に戻れないんだよなぁ)

 姿見に映る姿はどこからどう見ても白のポメラニアンだが、普段の俺はちゃんと人型をしている。

 普通の魔族の赤ん坊として生まれた俺が、ある一定の条件下――ストレスや不安、悲しみや怒りなどの感情が爆発する時に、今のもこもこなポメラニアンの姿になってしまうとに気づいたのは、俺が七歳の時のことだった。

 パパには実の息子が三人いて、俺は唯一の養子なんだけど、パパは昔から俺に対して激甘というか、俺にだけ異常に甘かった。長男のミスティック兄上は既に数百歳という年齢、双子の三男のアズール兄上、四男のアメジスト兄上は俺と三つしか変わらないのに体が大きかったので、平均より小さい僕のことを心配してくれていたんだろう。双子は性格面でも大人びていて、すごくしっかりしていたし、多分パパとしては手助けが必要な子供は俺くらいだと考えていたんだと思う。

 実際、他の兄弟が病一つかからないのに対して、小さい頃の俺はすぐに熱を出して寝込んでいたくらいには病弱だった。

 けれど、いくら体が大きくてしっかりはしていても、既に大人だったミスティック兄上をと違って、双子はまだれっきとした子供だった。俺だけが可愛がられている状況に我慢がならなかった二人は、ちょっとした意趣返しのつもりで俺を連れ出し、魔の森に置き去りにした。

 魔の森からダークパレスまでの距離は左程遠くない上、兄弟とよく行っていたので、二人は俺が自分で戻ってこれると思ったんだろう。だけど、俺は自力で戻ることが出来なかった。だって、魔の森の帰り道は、いつもパパかミスティック兄上に抱えて貰っていたのだ。

 二人は俺が甘えていただけだと考えていた様だけど、実際は俺の体力不足が原因だった。

 前世があるので精神は基本的に大人な俺だけど、肉体年齢にある程度は引っ張られるらしい。道を歩きながら途中で力尽きた俺は、置いていかれたショックもあって、気づいた時にはポメラニアンの姿に変化していた。この時は鏡もなかったから、自分の状態にパニックになったのをよく覚えている。

(帰って来ない俺に真っ青になった二人から、事の顛末を聞かされたミスティック兄上が迎えに来てくれて事なきを得たけれど、あの時は前世でアリスティアに殺された時に匹敵するくらいに辛かったな……)

 同時に、可哀想なことをしたなとも思った。二人とは少し心の距離があるなとは以前から思ってはいたのだが、中身が大人なんだからもっと気を遣うべきだったのだと。

 双子は俺に謝ってくれた。まさか俺がそこまで弱いとは思っていなかったのだと泣かれて、内心ちょっと複雑だったけれど、その日から俺と二人の距離はぐっと近づいたので良しとした。

 ただ……困ったことに、その日から俺は何か不安なことがあったり精神的に乱れてしまうようなことがあると、ポメの姿に変化するようになってしまった。
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